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踊ること、続けること、生きること-Sapporo Dance Collective2019本公演、そして

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2020年2月29日、3月1日の2日間に渡り行われたSapporo Dance Collective2019(以下SDC)の本公演【HOME】。3回のワークインプログレスを経て、集大成としてのダンス作品の発表に向け、さらなるクリエイションを続けるさなか、静かにじわじわと黒く濃い影が日本、北海道に差しつつありました。

新型コロナウイルス感染症の拡がりはSDCばかりではなく、舞台芸術、音楽、アートなど文化的な創作活動を行う人々にも大きな打撃を与え続けています。

SDCの活動を紹介してきたシリーズの最終回は、SDCが本公演をいかにして行ったか、そして、この先、創作を続けるための活動についてお伝えします。

※現在(2020年6月)の状況に至る以前の判断も含まれます。ご了承の上、お読みいただけると幸いです。

思いもよらない事態に揺れるSDC

2019年12月に中国・武漢市で確認された正体不明の感染症は、やがて新型コロナウイルスと特定、日本でも徐々に感染者が確認されはじめた。北海道でも2月中旬頃から日に日に感染者が増えていく。2月22日には札幌市長が向こう3週間程度、「札幌市が主催のイベントを中止または延期とする」と発表。にわかに、この感染症に対する危機感が身近なものとなっていった。

このような事態に、それまで本公演に向けて稽古を重ね準備を進めていたSDCのメンバーにも、公演を行うべきか否かの決断がつきつけられた。

市長の声明を受け、今このタイミングで公演を行うべきか、それとも……と迷い、揺れるSDC。制作の立場である斎藤ちず(NPO法人コンカリーニョ理事長)が「明日(23日)話しましょう」とメンバーに声をかけた。

そうして集まったSDCのメンバーたち。メンバーはそれぞれが抱える不安や思いを吐露した。

「延期したほうがよいのではないか」
「出演できる人だけででもやっては」
「今の状況では友達に声をかけられない」
「とにかく怖い」
「クラウドファンディングのリターンとして配信を予定しているので、その声がけをもっとしたら」
「悲しいし、うつになりそうなほど世間はパニックになっているから、なおさら楽しいところに足を運びたい人もいるのでは」

多様な意見が飛び交う中、この日だけで公演について決断するのは難しいと判断し、それぞれの意見を認め合った上で26日に改めて結論を出すこととなった。

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公演を行う理由が「観てもらいたいから」だけではない苦しさ

公演を行うかどうかの判断が先送りされた理由の1つは、予算的な問題だった。

文化芸術の事業を行う際、助成金を受けつつ予算組みを行い、その事業を次へと繋いでいくという形をとるケースが多い。新しい文化の芽を育てていく上で、予算の問題というのは常につきまとうもの。SDCも2018年の初年度より、とある助成金を受けていた。

助成金はあらかじめ定められた要件を満たさなければ受けられない。「感染症を避けるための公演延期」という今回のようなレアケースにおいて、助成金を予定通り受けられるのかを確認する必要があった。

結論はNOだった。

2019年度の助成金は、「3月31日の年度末までに公演を行わなければ受け取ることはできない」との回答。公演に向けての活動の中で積み重ねられた出費をどう回収するのか。年度内に公演を行わないという選択をすれば、助成金が受けられず大きな赤字を出してしまう。
このままでは金銭的な面からもSDCの活動を続けていくことは不可能になるかもしれない。

「作品を発表したい、観てもらいたい」という意志だけではなく、さらに金銭的な理由。
公演は予定通り、行うことに決定。

しかし、社会的な立場などから、出演を断念するメンバーも多かった。
そして、劇場から感染者を出すことは決してできない。
いずれにしても苦しい決断だった。

公演準備の中、コレクティヴという在り方をあらためて感じる

公演が決定されてからのメンバーの動きは早かった。

何人かのメンバーが断腸の思いで出演しないと決心したことから、これまで組み立てられたものを大きく変えなければ作品が成り立たない。公演までに残された時間は、ほんの数日だ。世界観を損なうことなく、むしろ、さらに進化した形にするべく再構築が始まった。

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このような状況下で、新たな視点を得たメンバーもいた。

最初の話し合いの席ではディレクターの羊屋白玉からは「出る人は出る。出ない人は出ないという形で公演を行っては?」という提案があった。

それまでの経験から「そのような選択はあり得ないのではないか」と、考えていたメンバーが最終的に出ないという決断をした後にこう感じたという。

「これまで作品への出演が決まったら、出ないなんてことは何事があったとしても絶対に考えられなかった。でも、自分の意思で“出ない”ことを決められるなんて初めてだ」と。

コレクティヴというのはそういう場なのだという気づきだったそう。自分の意思で選び、決める。それが認められる場であるということ。

公演に向けて時間は容赦なく進む。
公演にあたり、『劇場で鑑賞するのは各回60名まで』という制限も設けた。ネット配信で鑑賞可能なチケットも用意し、前売券を持つ人に対してもネット配信鑑賞を希望するのであれば切り替えに対応。アルコール消毒液や座席消毒の除菌シートの手配、当日の換気に、会場内での消毒の手順の確認と、公演に向けて着々と準備が進められていった。

28日、ゲネプロ(通し稽古)が行われる。
その夕方、北海道知事から緊急事態宣言が出され、週末の外出を控えるよう呼びかけられた。

緊張と気づかいの中のスタート

初日、ステージに立つ人たちはギリギリまで入念に動き、照明、音をチェックする。開演前のあわただしさや劇場内の空気が鋭く尖っていく様子はいつもと変わらない。スタッフとして動く人は全員マスク着用で走り回る。

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入口の装飾の中に「全席消毒済」の文字も

いつもなら2本の通路以外はびっしりと並べられている椅子が大きく間隔を開けて配置されている。換気を行い、開場の1時間ほど前から消毒作業が始まる。椅子の座面、背もたれ、脚、受付やグッズ販売の机、手すりなど観客の手が触れるであろう場所は全て除菌シートで丹念に拭かれる。消毒後の客席は、観客が入るまでは立ち入り禁止とした。

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各公演の前後にはしっかり換気が行われる

踊る人たちの準備と観客を迎える準備が細心の注意を払って並行して行われ、開場時間を迎えた。

受付時にはマスクの着用を促し、消毒用アルコール液を一人ひとりの手へ。入場に時間はかかるが、観客は穏やかに席に着いていく。受付の係に「大変ですね」と声をかける人も。静かな緊張の中、初日一回目のステージが始まった。

少しも見逃すまいとする客席の圧倒的集中力

プログラムはHokkaido Artists Union Studies(以下HAUS)の勉強会から。
取材した内容を原案に作成されたパワーハラスメントに関するシナリオを数人で読み上げ、感想を話し合うというもの。初日には北海道教職員組合(北教組)の和田真則さん、2日目は弁護士で元札幌市長の上田文雄さんをゲストに迎え、意見やアドバイスを聞いた。

和田さんの「ハラスメントとは人と人とが関わる時に生じる温度差から生まれるあつれき。お互いの人権を侵さない関わり方を考えるのが大切」、上田さんからの「単純労働もクリエイティブな仕事も同等の価値を持っている。アーティストは宝である」という言葉が印象的だった。

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元札幌市長上田さんの「アーティストは宝である」という言葉が心に響いた

そして、いよいよ【HOME】が上演された。

これまでのワークインプログレスではA、B、Cの3チームがそれぞれにクリエイションを行い、発表する形式だった。本公演の今回は、3つの独自の物語性を保ちながら、ディレクターの羊屋白玉さんにより【HOME】として1つの作品に編み上げられた。

Bチーム「ナマハゲでもくらし→」から幕を開けた【HOME】は、ナマハゲと孤独が行きつ戻りつしながら大きな食卓に繋がり、唯一のソロ作品のAチーム「しがないアタシの思い出話」では、ひと昔前のスケバンがひとり語りをする。そして、Cチーム「労働がダンスホールできのこしてる」は体に直撃する音圧の中で踊るきのこと、なぜか哀しげに見える静かなダンスが心に残る。

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Bチーム「ナマハゲでもくらし→」

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Aチーム「しがないアタシの思い出話」

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Cチーム「労働がダンスホールできのこしてる」

ステージ上はもちろん、客席からもわずかなものも取りこぼすまいとでもいうような気迫と集中力が伝わってくる。表現する側と観る側、互いの放つ張りつめた空気が痛いくらいだった。

1ステージ終わるごとにどう表現するかをさらに突き詰め、換気と消毒を繰り返し、2日間全4回の公演は、SDCを応援する人たちに見守られ無事に終了した。

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大切なもの、大切な場を守り、表現を続けるために

SDCの本公演を行っている最中にも、コンカリーニョの事務所には、この後のホール貸出のキャンセルについての問い合わせの電話が鳴り続いていた。また、SDCのメンバーの中には3月中に予定されていた仕事が既にほぼ白紙になってしまったという人も少なくなかった。

その後、日に日に濃くなる自粛ムードに押され、演劇、ダンス、芸術祭、ライブ、イベントなどの中止、延期は相次ぎ、仕事と収入を失う人々の数は増える一方。しかし、それに対する具体的かつ的確な保障は国や自治体からは当初示されなかった。文化庁などへ向けて小さな声を集め、働きかけることでようやくわずかながら動きが出ている。

HAUSではSDCの本公演の直後から、新型コロナウイルスの影響についての聞き取り調査を始め、現状をまとめて国会議員や報道関係者などにシェアしている。さらに、この窮状を生きぬき表現を続けるために、さまざまな給付制度、貸付制度の活用方法について学習を進めたり、実際に相談窓口へと足を運んだりするための手助けを「サバイバルツアー」と称しスタート。

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東区役所の社会福祉協議会へ緊急小口資金の相談へ。劇作家・演出家の、すがの公さん、櫻井幸絵さんと一緒に (Photo by 羊屋白玉)

SDCの文字通り「HOME」であるコンカリーニョも他の劇場と同様に全ての公演がキャンセルとなり、窮地に立たされている。

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しかし、コンカリーニョの灯を絶対に消してはならないと、理事長の斎藤ちずも資金繰りに奔走。再起をかけたクラウドファンディングも始まっている。

2019年度の本公演を終え、Sapporo Dance Collective2020の幕が開いた。
どこへ向かうのかわからない世界で、どのような表現ができるのかはまだわからない。
しかし手探りの状況の中でも、踊ること、続けること、そして、生きぬくことを目指して、SDCはオンラインでの対話を繰り返している。

ダンス、HAUSの活動、それらの受け皿となりつつ手を貸したり、踊らない立場からの提案をしたりするSuKiMa(スキマ)が有機的に繋がりSDCらしい表現を手に入れるために、これからもゆるやかに進んでいくであろうSDCを今後も追い続けたい。

(Photo by ナガオサヤカ(11、12枚目以外))

Sapporo Dance Collective
ウェブサイト https://sapporodancecollective.jimdofree.com

この記事を書いたのは

わたなべひろみ

フリーライター・捌けるライター。
食と生産者、クルマ、多様な生き方など多岐に渡る分野で執筆中。
魚を捌いてレポートするのが得意。
ひょんなことから現代アート・演劇・ダンスに引きつけられて十数年。
ライヴな魅力を伝え、1人でも多くの人と一緒に体験したいという野望のために日々勉強中。
札幌以外に住んだことのない札幌生まれ。