小野江医師の呼びかけ【新型コロナは本当に医療崩壊の原因になります!】

 新型コロナの流行が始まった頃から一部で言われていたことなのですが、いわゆる「第三波」がはじまった最近になってまた、

「新型コロナはただの風邪、それだけでは放置しても医療崩壊は起きない」

  ・・・というような主張をあちこちで見かけるようになりました。「騒いでいるのは〇〇のためだ!」なんて陰謀論めいたものもありますね。皆さんそれって本当だと思いますか?新型コロナは放置しても大丈夫?感染対策は不要?
 結論から言いますと、放置すると本当に医療崩壊し、少なくない数の人が亡くなることになると思います。新型コロナにかかった人も、そうではない別の病気や怪我の人もです。

 こういった新型コロナを軽視する主張はウェブ上でなされることが多いのですが、自分の文章をアップしたり他人のものをシェアしたり、SNSにコメントを書き込む主な世代は10代から40代くらいでしょうか。ティーンエイジャーから若い大人ですね。
 これらの人たち自身にとっては、なにか余病などない限り新型コロナは実際「ただの風邪」レベルのものです。もしかかったとしても、ほとんどの人は普通の風邪とそんなに変わらない経過をとることでしょう。若い人たちにとっては、個人レベルでは本当に大したことがない(場合が多い)のです。

 しかし、新型コロナの難しいところは皆さんご存じの通り、対策をしないとヒトからヒトへどんどんうつります。たとえ若い世代は重症化が稀とはいっても、かかる人数が莫大になればそれに比例して重症者も増えます。場合によっては亡くなる人も出てきます。
 また家庭内や職場内その他色々な場面で、感染は間違いなく中高齢者にも拡がります。世代間の接触を完全に絶つことなど出来ません。中高齢者にとっての新型コロナは若い人たちにとってのそれとはちょっと様子が違います。それなりの割合で重症化しますし、亡くなる人もかなり増えるでしょう。

 それでもまだ死亡率はそんなに高くないし、亡くなる人の人数も他の病気に比べればまだまだ少ないだろうという人がいます。データをみて、その程度の人数で医療のキャパシティをそれほど圧迫するものなのかとおっしゃいます。

 するんです。大いに。

 繰り返しますが、この病気はヒトからヒトにとてもうつりやすい病気です。新型コロナの患者を診ようと思ったら、「それ用」に場所と人手を確保して、新型コロナ(疑い)の患者さんとその他の患者さんが接触せぬよう細心の注意を払わねばなりません。
 そしてどんなに気を付けても、新型コロナの患者さんや疑わしい患者さんを診ている医療機関でもそうではないところでもクラスターは発生しますし、一度クラスターが発生すると医療機能はしばらく停止してしまいます。
 また過酷な現場の場合、医療従事者が消耗して離職するようなケースもあります(最近大阪が騒ぎになっていますね)。すると残った人たちはもっと大変になる。機能は大幅に低下します。
 そうすると何が起こるか。新型コロナの人はもちろん、そうではない患者さんたちまでもが、受診できなくなって治療が受けられず、結果としてとても辛い目に遭ったり、場合によっては命を落とします。

 先日、私の職場の若いスタッフの先輩という人が亡くなったそうです。詳細は書きませんが年齢は31歳。具合が悪くなって救急車を呼んでから到着するまで一時間以上(冬道ではない札幌市内ですよ)、そこから受け入れ可能な病院を探すのにさらに長時間、到着した時にはすでに手遅れだったようです。
 救急車がなかなか来ないのも受け入れ先がいつも以上に決まらないのも、タイミング的には新型コロナのせいと言わざるを得ません。札幌市内の有力な二つの救急病院が院内クラスター発生で受け入れ停止、その他の救急病院は新型コロナの患者さんを受け入れる必要があるために、その他の患者さんの受け入れキャパが縮小してしまっていたのです。

 今の時点でもこういう痛ましい出来事が起こっているのだということを知って下さい。もしこの先もっと状況が悪化したら、一体どうなると思います?

 タイトルに戻ります。新型コロナは本当に医療崩壊の原因になります!

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この記事を書いたのは

小野江 和之

医師、医学博士。札幌南高校卒、北大医学部卒。1971年生まれ。 医療法人社団 緑稜会 みどりクリニック医師。 2004年愛知県の某大学病院へ赴任。医療を取り巻く情勢の変化や様々な体験から一念発起、2007年北大ロースクールへ進学。子連れ学生であったため、修習期間中の資金確保目的で2009年休学して外務省へ入省、中米ホンジュラスへ赴任。2011年帰国を果たすもロースクールを自主退学、2020年6月より現職場。道外からみた北海道、業界外からみた医療業界、海外からみた日本。視点の多様性がいかに重要であるかひしひしと感じます。弁護士さん方とともに、医療と法律にまたがる各種問題解決についても携わっています。

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