次の誰かのためにと書き記しています。
術後2年が経ちました・・・
2年前のちょうどこの日。朝から絶食、水も飲めず、ただもんもんとしていました。まだ患者さん誰とも話せておらず、ただただもんもん。前日にインプラント(人工乳房)の自主回収が伝えられ、手術後は”板”になることが確定。ココロの準備が整う前にあれよあれよという間に手術の時間を迎えた気がします。
運悪く生理と重なり、大丈夫なのか、とそっちも不安。両側で手術は3時間超えるし、そのあと麻酔から覚めても管と点滴で起きられるはずもなく、ただただ朝までの15時間が不安で仕方ありませんでした。結論は看護師さんたちがうまーくケアしてくださっていたので大丈夫でした。なのでそんな方も不安になる必要はないです、ハイ。
その生理とは、タモキシフェンを飲み、リュープリンを打ち始めてすぐにおさらば、もうお会いしてない、です。
手術から帰ってきての出来事は映像で残っているから知っているものの、実は覚えていません。とにかく頭がぐるぐるして気持ち悪い一夜でした。ジェットコースターとかが苦手で目が回るのですが、目を開けてしまうとそのくらくらする感覚が出てくるのでとにかく目を閉じて、その感覚がなくなることをただ祈っていました。でも翌朝、胸のドレーン以外の管と点滴が抜けたら、予想以上にすっきりして驚いたことを思い出します。
胸の傷と、麻酔用の管のせいで、のどがずっと痛かったのは痛み止めがなんとかしてくれました。
そこからはごはんたべて、リハビリして、みんなとしゃべって、自分(に近づく、完全にはもちろん戻らない)を取り戻していきました。
今振り返ると、心が動揺していたのは告知のあとから手術の日程と方法を決めるまでの時期。その次は退院しておうちに戻って、病理検査の結果が出るまでの時期。
結果が出て、治療に向き合い始めてからは、折り合いをつけ、弱音を吐きながらもなんとか過ごしてきました。
この2年、これまで取材で出会った患者さんに支えられ、新しく出会った患者さんに励まされました。思った以上にいろんな壁に気づき、それを超えていかなくてはいけなかったり、その壁に悩みながらも立ち向かう人たちに出会いました。患者さんだけではありません。医師、看護師のみなさん、そして授業で番組を見てくれた学生のみなさんも、いま、私にとても大切なものをたくさん教えてくれています。
『乳がん患者は生きづらい』
18年前に患者さんから言われた言葉です。私はこれを変えられているのか・・・。芸能人の方が公表したりして、言いやすくはなったかもしれないけれど、『がん=死』だったり、『不治の病』、『最期まで闘う』、『悲劇』というイメージはまだまだありますし、演出のためにそうした表現も多くあります。これは変えられないものなのか、と日々思いを巡らせています。
がんになっても、次の日にはごはんが食べられていて、息を吸っている。生きています。一方であす事故にあうかもしれないし、何が起こるかわからない。誰にもわからないのです。
もう2年、まだ2年。毎日、『10年(タモキシフェン)飲むんだからね・・・』という主治医の言葉が頭を駆け巡っています。あと何回薬を飲めばこの思いから解放されるのか。でもあと8年たったところで再発の不安とおさらばできるわけでもない。闘って勝てる相手ではないのです。
私は2年過ごしてきて、がんと闘うことをやめました。だからこのコラムも闘病記ではない。どうせならココロ苦しくなく、楽しい日々を過ごしていたい。
でも生きていればいろいろ起こります。乳がんになったがゆえに、ちょっとした悩みが増幅されてしまうのが正直なところ。
世の中に不便なこと、不都合なことはあふれています。特にジェンダーの問題は。
入浴着が広まれば、乳がん以外にも肌を見せたくない外国の方にもいいかもしれない。短期の子どもの預け入れが無償または格安でできるようになれば放射線治療や入院する人はもちろん、出張などのときに預け先を探す働くママも助かるはず。短期休業・短時間休業がお互い様、で当たり前になれば、治療しながらも仕事を続けられるし、介護や育児などでキャリアをあきらめる女性も減るかもしれない。患者さんの悩みをひとつ、解決すると患者さんじゃない女性も助かるようなことが実はたくさんあります。
みんなが本来悩む必要のない悩みや余計なことで悩まないようになればいいなあと。
簡単ではないかもしれないけれど、このコラムは乳がんに限らず、『誰もが生きやすい世界』になるためのいろいろなすべをシェアできるものでありたいと思うのです。
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(文:阿久津友紀 乳がん患者)
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