『ここでやめておけばよかった』初めての藻岩山・冬編2 57歳、さっぽろ単身日記

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冬の藻岩山に魅せられて

冬の藻岩山で出会う人たちはみな個性にあふれていた。

私のような本格雪山登山スタイルの人もいれば、なんと半ズボン姿で駆け下りてくるおじさんも。スノーシューで登っている若者グループにも出会った。

道の脇に雪が黄ばんでいるところがある。我慢できなくてこんなところで用を足した人がいるのだろうかと思っていたら、犬を連れて登っている人に遭遇した。

みな、冬の藻岩山に魅せられて集まり、それぞれが思い思いに楽しんでいる。そう思うと、言葉は交わさなくても連帯感を抱いてしまう。

冬の藻岩山の登山道にはしっかりと踏み固められた一本道が続いている。

ただ、その道は人がひとり通れるくらいの幅しかない。すれ違ったり、追い越されたりするときにはどちらかが脇によけなければいけない。

私の歩くスピードはかなり遅い。

秋の登山で失敗した経験から、できるだけゆっくり、歩幅は短く、一歩一歩地面を踏みしめて歩くようにしている。このような歩き方だとどんなに急な斜面でも余分な汗はかかず、息が切れることもない。一歩一歩をしっかりと踏みしめる雪道にはなおさら有効だった。

そんな調子なので、山頂までの間に多くの登山客が私を追い越していく。この日も細い一本道を登っていると後ろからザクザクと足音が聞こえてきた。音が近づいてきた頃合いを見計らい、避けようとして脇の雪原に足を踏み入れた。

ズボッ。

なんと、片足が膝くらいまで雪の中に沈み込んでしまったのだ。あわててストックで体を支えようとするが、そのストックも半分くらいまで埋まってしまった。身動きが取れなくなってしまい、もう片足も雪原に突っ込んでそのままじっとしているしかなかった。

後ろから迫ってきた人は「すみません」と言いながらさっさと通り過ぎて行った。遠ざかる後ろ姿をよく見ると、高齢の男性でなんと長靴ではないか。しかもストックも持たずに腰をかがめながら後ろ手に組んでスタスタ歩いている。

その傍らで、本格雪山登山スタイルの中年男が雪に埋もれているとは。

全身雪まみれになりながら何とか這いあがり、一本道に戻った。とにかく踏み固められた道以外の、いわゆるバックヤードには絶対に足を踏み入れてはいけない。これは雪山登山の鉄則だと身にしみた。

そんな小さな失敗を除けば、登りはすこぶる快適だった。急な斜面でもチェーンスパイクの金属刃がしっかりグリップしてくれる。すれ違う人はほとんど私より先に脇によけてくれた。登山の場合、下山する側が道を譲るのが基本ルールらしい。

驚いたのは、沿道の石仏が一体一体掘り出されていたことだ。大きな木の幹にはスコップがくくりつけられている。お寺の人か地元の人が雪道をつくり、観音様を守っているのだろうか。あの長靴のおじいさんもその一人なのかも知れない。

思わず、雪の下のから顔を出していた仏様に手を合わせた。

冬は、その静けさのせいか意外と動物に出会う機会が多い。秋には見ることができなかったエゾリスやクマゲラと遭遇したのも冬だった。この時期のエゾリスはふっくらとしていて、目の前の雪道を横切った姿は、一瞬ネコかと思ったほどだ。クマゲラは、木をつつく音がまるで斧で木をたたくように響き渡るので比較的簡単に発見することができる。こんな街中に近い森林で、目の前に絶滅危惧種の天然記念物が暮らしているのだ。3月には冬眠から覚めた熊の足跡が登山道を横切っていた。

冬山登山初日のこの日、秋よりも20分ほど余計に時間がかかったものの、なんとか山頂に到着した。足の筋肉が張っていてさすがに体力を消耗した。それでも初めての雪道にしては上出来だった。

山の東側に広がる市街地は、秋とはまったく違う白い世界に変わっていた。反対の西側には雪を冠した山々が連なる。そんな雄大な景色を前に、湯気をあげながらホットコーヒーを楽しんでいる夫婦がいる。

ああ、なんという達成感。澄み切った空気を思い切り吸い込むと、大きな目標を制覇した高揚感が体に満ちあふれた。

ここで、やめておけばよかった。

(次回に続く)

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この記事を書いたのは

山崎 靖

新潟県十日町市出身、昭和40年生まれのサラリーマン、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
姫路、京都、大阪、東京、神戸、仙台、名古屋、福岡と転勤を繰り返し、2021年4月から札幌で単身赴任中
初めての北海道ライフで、色々な〝初めて〟にチャレンジしています