下山途中に激痛が 初めての藻岩山 冬編3 57歳、さっぽろ単身日記

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藻岩山 下山途中で冷や汗が・・・

さあ下りだ。

さて、どんな降り方をしたらいいのだろう。とりあえずチェーンスパイクを雪面に食いつかせ、ゆっくりと歩き始めた。足首がぐらつき、登りより不安定な感じだ。急な斜面になるとグリップが効かずに、ずるずると滑り落ちてしまう。

ただ、これはこれで楽しい。

これ、スキーで滑り降りたら気持ちいいだろうな。

出身地の新潟県十日町市では、小中学校の体育の授業といえばノルディックスキーだった。スキーをはいたまま山をかけ登るという心臓破りのような授業はまるで自衛隊の訓練。その分、登り切った後の下り坂をスキーで滑る爽快さは格別だった。たまった疲れが一気に吹き飛んでいくような感覚は今でもはっきりと体に残っている。

もし、靴底がチェーンではなくスキーだったら最高なのに。雪山を下りながらそんな妄想をしていると、「スキー、ソリ遊び禁止」と書かれた看板が目に飛び込んできた。

みんな同じことを考えているんだな。

思わず、ほくそ笑んでしまった。

チェーンをはいていても、つま先をあげると雪を削りながら靴を滑らせることができる。気付くと半ズボンおじさんのように、ポンポンと跳ねながら駆け下りていた。

こりゃいいわ。

調子よく下山し初めて10分ほどたった、その時だった。

急に右膝に電気が走ったような痛みに襲われた。

同時に、激痛で一定の角度以上曲げることができなくなった。

これは、まずい。

筋でも痛めてしまったか。

しばらく休むとすぅーっと痛みが消えていった。

良かった。

ところが、歩き始めると再び激痛が襲う。

その繰り返しだった。

繰り返すほど、痛みが増していく。

なんとか下りなければ。

焦りで冷や汗が吹き出した。

足を引きずるようにして、歩いては止まり、止まっては歩くを繰り返す。

右膝は激痛を通り越して麻痺したような感覚になった。

まるで自分の足ではないようだ。

雪山でいったい何をやっているんだ。

泣きたくなるような気持ちになった。

膝を一定の角度に曲げた状態にして固定させると、痛みがいくらか軽減された。

まるでエアーギブスだ。

固定させた右足を滑らせるようにして、左足とストックだけで何とか登山口にたどり着いた。

片足でケンケンしながらバスに乗り込み、おそるおそる右足を伸ばしてみる。

思わず、ウッと声をあげてしまった。

私の右足はどうなってしまったのだろう。

膝の骨が削れてしまったのか。

元に戻るのだろうか。

翌日、近所の整形外科を受診した。レントゲンを撮ったが異常はなかった。

若い医師は「筋肉痛ですね。1カ月ぐらいは登山を控えた方がいいでしょう」とほほ笑んだ。

湿布と痛み止めの飲み薬が処方された。

この激痛がただの筋肉痛だと言うのか。

「登山 膝痛」で検索した。

出てきたオンライン記事には、登山中の身体トラブルで最も多いのが膝痛で、そのうち8割は筋肉痛、とある。太ももの前側の筋肉、大腿四頭筋が疲労して硬くなり、その筋肉とつながっている膝のお皿の周囲に痛みが起こるのが主な原因だという。特に下山時の筋肉疲労がピークに達するころに出やすいそうだ。

まさに私のケースがそれだった。

素人によくある現象で、大腿四頭筋を鍛えることで予防できる、とも。つまりは運動不足という訳だ。記事によると、最も効果的なトレーニングは「定期的に登山をすること」。

藻岩山のツケは藻岩山で返す、ということか。

待ってろよ、藻岩山。

膝小僧に湿布を貼りながら心の中で叫んだ。

(終わり)

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この記事を書いたのは

山崎 靖

元朝日新聞記者、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、温泉学会員、温泉ソムリエ

昭和40年生まれ
新潟県十日町市出身


コラム「新聞の片隅に」
https://www.asahi-afc.jp/features/index/shimbun

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