がんの再発 再々発と共に 古村比呂さん 病と闘うのではなく『つらさを和らげる27の処方箋』に込めた思い 両側乳がんになりました148

前回のお話はこちら・・・

https://sodane.hokkaido.jp/column/202205061945002103.html

前回に続き、古村比呂さん(56)にお話を伺いました。朝の連続テレビ小説『チョッちゃん』のヒロインとして知られていますが、北海道生まれ、育ちは江別。今年3月に子宮頸がんとリンパ浮腫と共に歩んだ10年の記録を『手放す瞬間(とき)』(KADOKAWA)として出版されました。再発、再々発を経てのありのままが綴られています。

私が一番いいなと思った章が『つらさを和らげる27の処方箋』。この章が生まれた背景も聞きました。

闘病という言葉がいや

『私、闘病という言葉、闘病記が嫌なんです。』とお話したところ、古村さん『私も(笑)。』と速攻かえってきました。

古村さん『闘病という言葉もいやですけれど、がんになったことで不幸がつきまとっているように見られてしまって、それって患者にとってはいやだと思うのです。私自身、ネットニュースなどの記事では『闘病』という見出しで書かれることが多いのですが、注目してもらうには必要なワードでもあるのかなと、そこは割り切っています。

ネットの中の言葉としてはずっと続くと思います。闘病だったり、死を考えた、というようなものは。

本を書いているときも、自分でもどんどん言葉のチョイスが過激になっていくなと感じるときがあったのですが、そういった部分は編集の堀さんがチェックしてくださった。』

私自身も受け取った方がどう思うのかと思うと使いたくないワードもたくさんあり、でも強い言葉にしないと見てすらもらえないかもしれないな、とせめぎあう自分がいるのです。

古村さんからの一言がしみました。

古村さん『自分は使わないけれど、誰かが使うならば、キーワードとして(自分と)切り離せると思っています。』

一方で編集者の堀さんにも強い思いがありました。

編集者・堀さん『私も実は“闘病記”に抵抗がありました。一方で本のジャンルをというときに“闘病記”はわかりやすいのですよね。でも今回、古村さんの原稿を読ませていただいて、闘病しているだけではないと感じたのです。当たり前のことなのですが。

古村さんが(病と向き合う中で)いろんなことを考えて、人との出会いなどを大切にしながら人生を歩まれているのを感じ、“闘病記”という言葉を使うとと本そのものを表していないのではないかと思いました。“闘病”というのは強い言葉なので、そのイメージが固定されてしまう、といいますか。

私自身でもメディアの方向けに発信しているリリース文章には使わないようにしていますが、記者の方が使うときにはお任せしています。阿久津さんのお話を聞いて同じ思いをしている方がいるとうれしく思いました。』

『つらさを和らげる27の処方箋』が生まれたのは打ち合わせの中で編集者の堀さんからの提案だったそうです。

編集者・堀さん『本の中につらさを乗り越えるヒントを書き込んでいってもいいのですけれど、本を読む元気もないときに(この章だけでも)パッとみることができると読者の方にもお役にたてるかなと思って。』

古村さん『経験者・サバイバーさんから共感の感想が多くてうれしいです。』

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再々発を経て、抗がん剤治療。2年前からがんの兆候がなくなったとして現在治療はお休みしている古村さん。がんと向き合えるコツを伺ってみました。

古村さん『がんは私にとっては特別ではないですし、がんサバイバー、それが何か?というくらい(笑)。今後、もしもがんが元気になった場合を考えたりすることもありますが、それはそれでしょうがないなと思えるようになったのも大きいかもしれません。治療しているときは誰かに迷惑をかけたり、一人では対処できない状態になりますよね。二度の抗がん剤治療を受ける中で、周りにゆだねていくことを学びました。それから、つらい気持ちは自分しかわからないと思いがちだったけれど、人に伝えて、助けてもらえる人を見つけるしかないと学んだのも大きな発見でした。』

ふと、精神腫瘍科の先生に伺った『ネガティブ・ケイパビリティ』という言葉が浮かびました。がんになった答えのない原因・理由を探るより、その不安定な状態を受け入れる力のこと。

古村さんは”リンパ浮腫がやってきた”ときには患者会や専門医に、そして、違和感を覚えたときにはセカンドオピニオン。信頼性のない医療ではなく、エビデンスのある最良の標準治療を冷静に選ばれています。がんと向き合う中で意識せずとも『患者力』を磨いてこられたのではないかと感じます。

古村さん『原稿を書くのは本当に時間がかかりました。役者なので、書かれた言葉を演じ分ける芝居は得意だけど、書く言葉の種類、語彙を豊富に持っているわけではないので、気づくと同じ表現を繰り返してしまったりして、そこは大変でした。堀さんに助けていただきました。ただ、演じるのとはまったく違って、書くのには別のスイッチが入るんですけど、なんといいますか、書き終えてすっきりしたんです。

全部手放した感覚というか、今年のはじめくらいかな・・・それでこのタイトルも浮かんだのです。』

こうして『手放す瞬間(とき)』というタイトルが生まれました。 私がこのタイトルで感じたのは、手放さなければ前へ行けないよ、という感覚。私は患者として、そう読み解きました。

古村さん『幼少のころからのことも書きませんか、と提案をいただいて、自分の歩みをたどったことも大きかったんです。幼少のころを振り返っていくと、自分の性格のくせがよくわかりますよね。』

そうして振り返っていただかなければ、『派手~ずナイト(HTBの深夜番組)』の表記もこのご縁も生まれませんでした(笑)。

編集者・堀さん『がんというのは特別な病気のイメージがありますが、統計上は2人にひとり。私自身、身近にがんの方もいますし、治療法も発達して共に歩んでいく時代になっていますよね。でもかつてのイメージにどうしてもとらわれてしまって、共に歩んでいる人がどうやって病気や仕事、家族、生活などと向き合っているのかというのが、なかなか見えてこないなと。だからこそ、身近な人がなったときに私自身もとまどってしまったし、自分自身がなってもとまどうだろうと思います。そんなときの指針になってくださる方はいないかなと考えていて、古村さんに今回の書籍を依頼しました。』

これは私自身が感じていることではありますが、母が乳がんとなった18年前と自分がり患した3年前とでは比較にならないくらい検査方法、選べる治療の選択肢が広がっています。常にアップデートが必要です。この本は、今こそ知っておきたいサバイバーのストーリーでもあります。古村さんも子宮頸がんのり患から10年。その変化を感じていると話します。一方でなくならないイメージもあります。

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私は今、体調が落ち着いているので仕事ができる状態です。「仕事しよう」と思って動き出すと「がんは治ったのですか」「もう大丈夫なのですか」と必ず返ってきます。「いえ、治っているわけではないのですが・・・・」

そう説明を始めると理解してくれる人ももちろんいますが、手を引っ込めてしまう人もいます。

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という本の帯に書かれている一文があります。この一文への古村さんの答えはぜひ読んでいただきたい、です。私自身もがんのイメージを変えたいと望んでいます。子宮頸がんのように予防できる可能性のあるがん種が増え、副作用などが今よりもっとコントロールができ、がん治療が特別なことではなくなる日が来てほしいと願うばかりです。

今後やってみたいことは?

古村さんは主宰する患者会の交流会で全国にいきたいなと思っているそうです。

古村さん『全国を回って、患者同士の交流を深めたいというのが大前提にあるのですが、一方でどういう生活環境でどんな医療を受けられる状態になっているかなども知りたいんです。もちろん、リンパ浮腫についても。

というのは、患者も医療者をちゃんと見ているよ、ということを発信していく必要があると思うからです。これまでは、治療は一度決めたらそこで受けなければならない、というのが一般的だったかもしれませんが、いまや患者側も治療に対するアンテナが広がっていますよね。

「先生、安泰じゃないですよ」「患者側もアクション起こして行けますよ」と広く発信していきたい。患者さんがよりよい治療を受けられるために先生方にも頑張ってほしいなと思うのです。』

患者さんはただでさえ、頑張り屋の方が多いです。古村さんの言葉は『我慢しすぎはいけない、迷惑かけてもいいんだよ。』とそっと背中を押してくれます。患者会などの他、息子さんに協力してもらって始めたのは腫瘍内科医の主治医、勝俣先生も参加されているYouTubeでの発信。YouTubeにしたのは『言葉が途中で切り取られることがないから』だそうです。発する言葉ひとつひとつを大切にしているのを感じます。

おしつけることなく、でもさりげなく寄り添う。

芸能界という荒波にもまれ、離婚してシングルマザー、3人の子育て、そしてがん。どうしてここまで背負わせるのだろう、という出来事の数々。でもそのすべてを俯瞰で見て手放そうとしている、たおやかな強さを感じました。

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『手放す瞬間(とき) 子宮頸がん、リンパ浮腫と共に歩んだ私の10年』(KADOKAWA)

https://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g322106000638/

古村 比呂さん

1965年、北海道生まれ。大学生のときに女優を目指して上京。1987年のNHK朝の連ドラ『チョッちゃん』のヒロインを務める。1992年に結婚し、3人の男の子を出産。2008年離婚。2012年に子宮頸がんがステージ1で見つかり、子宮を全摘出。寛解したが、リンパ浮腫に悩まされ、2013年に患者の会「シエスタ」を立ち上げる。手術から5年後の2017年に再発。抗がん剤治療を行うが、半年後に再々発。その後、再び抗がん剤治療を行ったところ、がんの兆候がなくなった。20192月、治療を中断。経過良好で2年が経過した。56日(金)に映画「パティシエさんとお嬢さん」公開

https://hiraku-project.com/

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この記事を書いたのは

阿久津友紀

テレワーク×治療ということで・・・登壇します。
第3回に登壇します!

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「子育て」「介護」「治療」の3つのテーマについて、仕事を両立するためのテレワークについて、
中小企業でも実現可能な実施方法や労務管理を、専門家を交えながら、わかりやすく解説します。

[第1回]2月 7日(水)子育て 13:00~15:00
[第2回]2月14日(水)介護  13:00~15:00
[第3回]2月21日(水)治療 13:00~15:00 ★
※詳細は「チラシ」及び「テレワークポータルサイト」をご参照下さい。

【お申込み】
https://telework.mhlw.go.jp/support/seminer/


引き続きこちらも配信で2月3日より見ることができます!
お申込みお待ちしています。

Next Ribbon2024
「がんとともに生きる、寄り添う」

1月17日(水)

第2部 プログラム
司会:原元 美紀 氏(フリーアナウンサー)

18:30-18:35 挨拶
18:35-18:55 「自分らしく生きる~肺がんステージ4からの独立、出産~」
清水 公一 氏 (社会保険労務士事務所 Cancer Work-Life Balance代表)
18:55-19:15 「がんで働いちゃダメですか?~取材者から当事者に」
阿久津 友紀 氏 (北海道テレビ 東京支社編成業務部長)
19:15-19:35 「新たな患者サポートへの挑戦~治療後の生活も支えたい」
松浦 成昭 氏 (大阪国際がんセンター総長)
19:35-19:55 「 不妊治療か、がん治療か 46歳で出産した私の選択」
だいた ひかる 氏 (お笑い芸人)

オンライン配信 申し込みフォーム

https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11012609

『おっぱい2つとってみた がんと生きる、働く、伝える(北海道新聞社刊)10月6日発売

おっぱい2つとってみた がんと生きる、働く、伝える

日本癌治療学会 市民公開講座 9月23日(土)

https://www.jsco.or.jp/public/public_seminar/upcoming_seminar.html


「LINE特集 「失われる自分らしさ」。乳がんになった私たちの3年間。例え、心が折れそうでも…」
https://news.line.me/detail/oa-htbnews/bt2o2l9r6cfc

YouTubeで乳がんについて配信しています!

ピンクリボントーク【ホルモン治療の副作用と簡単ヨガ】 
https://youtu.be/gOOiLPH-n2I

温泉ソムリエも取得しました!

『アピアランスケアを考える』
https://youtu.be/3qVd1xXFvaU

ピンクリボントーク 患者と家族と社会 ~生きてくのに必要なコト~
アーカイブ配信:無料
https://youtu.be/PS4eJMy4GcY

第4弾の”がん患者さんとココロ” 北海道の斗南病院の精神科長で登録精神腫瘍医の上村先生に伺いました。アーカイブは
https://youtu.be/D-j4RrGSgkw

これまでの動画は・・・
【乳がん】おっぱい2つとってみた

HTBノンフィクション おっぱい2つとってみた
【2020年日本民間放送連盟賞 番組部門 テレビ報道番組優秀賞受賞】
【2020年ギャラクシー賞 奨励賞】

HTBonデマンドで無料配信中!
https://www.hod.htb.co.jp/pg_nf/pg_id_nf006

テレメンタリー2020『おっぱい2つとってみた~46歳両側乳がん~』年間最優秀賞 
ギャラクシー賞・選奨(報道活動部門)/民放連 放送と公共性 優秀賞
活動の一部は・・・
youtubeLIVEでピンクリボントーク① 見逃し配信中!
https://sciencefestival.jp/event/breast-cancer/

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