登山を甘く見た結果 体に異変が さっぽろ単身日記
2022.11.19
#おでかけ心が折れそうになりながらも、4時間かけて樽前山から風不死岳の頂上にたどり着いた。
雲が切れ、眼下に青い支笏湖が姿を見せたが、なぜか心は晴れない。
途中、ロープで岩場をよじ登りながら、ある不安を感じていたからだ。
ここ、降りられるだろうか。
ガスバーナーで沸かしたお湯で作ったカップラーメンで英気を養ったとは言え、4時間登り続けた疲労はたっぷり体に蓄積している。
果たしてあの岩場で踏ん張ることができるか。
下山して間もなく、不安がますます大きくなる。
冬の藻岩山で痛めた右膝がガクガク言い出したのだ。
夏に肉離れを起こしてギプスを巻いたのも右足だった。
私の足はもともと左右のバランスが悪く、左足に比べて右足の踏ん張る力が弱い。
このため下山では右足でしっかり支えることができず、左足の着地が不安定なのだ。
特に高低差のある足場では、左足を地面にたたきつけるような降り方になっていた。
岩場ではロープを握って後ろ向きになりながら慎重に降りた。
それでも着地のタイミングで左足が滑り、つま先を思い切り岩にぶつけてしまった。
同時に、左足の親指の爪を無理やりはがされたような違和感が襲った。
爪がめくれたか。
脳裏に浮かんだのは、出発前の朝、自宅で靴下を履こうとしたときに見た自分の足の指だった。
爪が伸びてるな。
切ろうかと一瞬考えたが、「まあ、いいか」とそのまま靴下を履いた。
その伸びた爪が靴の先端に当たり、はがれてしまったに違いない。
左足を地面に着ける度に激痛が走る。
靴の中は血だらけになっているのだろうか。
億劫がらずに爪を切っておくべきだった。
「爪を切って出直してこい」
柔道部だった高校時代、道着に着替えて畳の上に立った私は、顧問の先生から退場を命じられたことがある。
柔道をやる者にとって、指の爪を切ってそろえることは安全上、欠かせない準備行動だった。
足の爪が伸びたままだった私はその日から3日間、部活動を禁じられた。
先生、すみません。また、やってしまいました。
痛みをこらえて急坂を降りながら、天国の恩師に謝った。
贖罪の気持ちが届いたのか、傾斜が緩やかになるといつの間にか痛みも消えていた。
下山途中にあられも降り出す不安定な天気だったが、風不死岳のピークから2時間ほどで登山口に戻ることができた。
帰宅後、おそるおそる靴を脱ぐ。
血だらけにはなっていなかったが、左足親指の爪が内出血し、全体が紫色になっていた。
特に爪の先端部分と皮膚との結合部は血の塊で黒ずんでいる。
痛みは数日で消えた。
ところが、爪の色は日に日に濃くなっていく。
一応、近所の皮膚科に診てもらった。
病名は「爪下血腫(そうかけっしゅ)」。
登山のほか、ランニングやサッカーなどが原因でなることもあるそうだ。
治療の必要はなく、そのまま新しい爪が生えるのを待つだけだという。
「どのくらいで生え変わりますか?」
「数カ月はかかりますね」
数カ月…
またしても登山を甘く見た結果だった。
爪を切って出直します。