スキーの沼にハマる 家に帰ると右肩が 57歳、さっぽろ単身日記
2022.12.24
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雪上に降ろしたスキー板にブーツをはめた瞬間、目の前にゲレンデの光景が広がった。
家族連れやカップル、スキー教室のこどもたち。みなキラキラした笑顔で札幌の冬を楽しんでいる。
ああ、早く滑りたい。
水泳や自転車は一度体が覚えたら忘れないと言われる。スキーはどうなのだろう。20年のブランクが不安だったが、リフト乗り場まではスケーティングで行くことができた。
コロナの影響もあってか待ち時間はほとんどない。「私をスキーに連れてって」の時代はリフト待ち1時間なんていうのも珍しくなかった。街中から15分でゲレンデに着き、すぐにリフトに乗れるなんて。やはり札幌は夢の国だ。
3人用のリフトにKさんと並んで乗った。足がブラブラする感覚も懐かしい。降りる直前につま先をあげるルールも変わらない。ストックをうまく使いながらスムーズに降りることが出来た。
さあ、20年ぶりの滑降だ。
まずはしっかりとボーゲンから。両足でちゃんと止まれることを確認した。だんだんとコツを思い出す。次は片足ずつ踏ん張って曲がる練習。カービングスキーの効果か、ちゃんとコントロールできている。
楽しい。
青空の下、冴えた空気を思い切り吸いながら、板を滑らせた。エッジが雪を削る音が心地いい。
これだからスキーはやめられない。
20年ぶりということをすっかり忘れていた。
「ちゃんと滑れてますよ。そっちに行きませんか」
Kさんがストックの先で指し示したのは、別のリフト乗り場だった。いまのリフトよりさらに山の上まで続いている。これが初心者コースだとしたら、あっちは中級者向きだろうか。
行きましょう。
大丈夫、体がしっかり覚えている。
そう自分に言い聞かせた。
ただそれは不安の裏返しでもあった。
なにせ20年ぶりなのだ。体力も筋力も確実に衰えている。
そして、その不安は的中する。
リフトを降りると眼下に札幌の山々が広がっていた。その向こうには札幌の街並みがのぞく。先ほどの初心者コースより明らかに急だ。
ここを滑り降りるのか。
躊躇していると、スキー教室のこどもたちがずらずらとリフトから降りてきた。ボーゲンをしながら列になって目の前を通り過ぎる。
よし。意を決してその後に続いた。
雪が堅いのか、かなり力を入れないと曲がれない。ときどき横滑りをしながらなんとか中腹までたどり着いた。ここからさらに急斜面になっている。ところどころにコブも見える。
「びびったらけがするぞ」
体育の先生に怒られたことを思い出した。
ここは勇気を出すしかない。
ストックを握る手に力を込めた。
思った以上にスピードが出る。
谷側の左足でブレーキをかけようとしたが、アイスバーンになっていて踏ん張りが効かない。
やばい、暴走だ。
速度が落ちないまま、不整地の雪の中に突っ込んだ。
板が外れ、体がはじき飛ばされる。
斜面に思い切り右肩を打ちつけた。
そのとき、何かがちぎれるような感覚があった。
全身雪まみれになりながら何とか起き上がった。
不思議なことに痛みはあまり感じない。
ストックも握れる。
さすがに初心者コースに戻ったが、その後も何本か滑ることができた。
体の異変に気付いたのは帰宅後だった。
着替えるために服を脱ごうとした瞬間、右肩に激痛が走った。痛くて腕を上げることができない。鏡を見ると明らかに右肩が腫れていた。
翌日、痛みがさらにひどくなる。
我慢できずに自宅近くの整形外科に駆け込んだ。
レントゲンを撮ったが、骨折はしていなかった。
どうやら肩のスジが切れたらしい。
痛みと腕が上がらない状態は数カ月続いた。
なぜ暴走してしまったのか。
なぜブレーキをかけることができなかったのか。
ユーチューブで検索すると、解説する動画がたくさん出てきた。
う~ん、谷側の足で踏ん張り続けるのは逆効果なのか。
やはり基本ができていなかった。
頭では理解できても体が思うように動かない。
繰り返し練習して体に覚え込ませるしかない。
それには早く肩を治してゲレンデに行かなければ。
こうして底なし沼にはまっていった。