スキーの沼にハマる 家に帰ると右肩が 57歳、さっぽろ単身日記 

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雪上に降ろしたスキー板にブーツをはめた瞬間、目の前にゲレンデの光景が広がった。

家族連れやカップル、スキー教室のこどもたち。みなキラキラした笑顔で札幌の冬を楽しんでいる。

 

ああ、早く滑りたい

 

水泳や自転車は一度体が覚えたら忘れないと言われる。スキーはどうなのだろう。20年のブランクが不安だったが、リフト乗り場まではスケーティングで行くことができた。

コロナの影響もあってか待ち時間はほとんどない。「私をスキーに連れてって」時代リフト待ち1時間なんていうのも珍しくなかった。街中から15分でゲレンデに着き、すぐにリフトに乗れるなんて。やはり札幌は夢の国だ

 

3人用のリフトにKさんと並んで乗った。足がブラブラする感覚も懐かしい。降りる直前につま先をあげるルールも変わらない。ストックをうまく使いながらスムーズに降りることが出来た。

 

さあ、20年ぶりの滑降だ。

 

まずはしっかりとボーゲンから。両足でちゃんと止まれることを確認した。だんだんとコツを思い出。次は片足ずつ踏ん張って曲がる練習。カービングスキーの効果か、ちゃんとコントロールできている。

 

楽しい。

 

青空の下、冴えた空気を思い切り吸いながら、板をらせた。エッジが雪を削る音が心地いい。

これだからスキーはやめられない。

20年ぶりということをすっかり忘れてい

 

「ちゃんと滑れてますよ。そっちに行きませんか」

 

Kさんがストックの先で指し示したのは、別のリフト乗り場だった。いまのリフトよりさらに山の上まで続いている。これが初心者コースだとしたら、あっちは中級者向きだろうか。

 

行きましょう。

 

大丈夫体がしっかり覚えている。

そう自分に言い聞かせた。

 

ただそれは不安の裏返しでもあった

なにせ20年ぶりなのだ。体力も筋力も確実に衰えている。

そして、その不安は的中する

 

リフトを降りると眼下に札幌の山々が広がっていた。その向こうには札幌の街並みのぞく先ほどの初心者コースより明らかに急だ。

 

ここを滑り降りるのか。

 

躊躇していると、スキー教室のこどもたちがずらずらとリフトから降りてきた。ボーゲンをしながら列になって目の前を通り過ぎ

よし。意を決してその後に続いた

 

雪が堅いのか、かなりを入れないと曲がれない。ときどき横滑りをしながらなんとか中腹までたどり着いた。ここからさらに急斜面になっている。ところどころコブも見える

 

「びびったらけがするぞ」

体育の先生に怒られたことを思い出した。

 

ここは勇気を出しかない。

ストックを握る手に力を込めた

思った以上にスピードが出る。

谷側のブレーキをかけようとしたが、アイスバーンになってい踏ん張りが効かない。

 

やばい、暴走だ。

 

速度が落ちないまま、不整地の雪の中に突っ込んだ

板が外れ、体がはじき飛ばされ

斜面に思い切り右肩を打ちつけ

そのとき、何かがちぎれるような感覚があった

 

全身雪まみれになりながら何とか起き上がった

不思議なことに痛みはあまり感じない

ストックも握れる

さすがに初心者コースに戻ったその後も何本か滑ることができた。

 

体の異変に気付いたのは帰宅後だった。

着替えるために服を脱ごうとした瞬間、右肩に激痛が走った。痛くて腕を上げることができない。鏡を見ると明らかに右肩が腫れていた。

 

翌日、痛みがさらにひどくなる。

我慢できずに自宅近くの整形外科に駆け込んだ。

レントゲンを撮ったが、骨折はしていなかった。

どうやら肩のスジが切れたらしい

痛みと腕が上がらない状態数カ月いた

 

なぜ暴走してしまったのか。

なぜブレーキをかけることができなかったのか。

 

ユーチューブで検索すると、解説する動画がたくさん出てきた。

う~ん、谷側の足で踏ん張り続けるのは逆効果なのか。

やはり基本ができていなかった

 

頭では理解できても体が思うように動かな

繰り返し練習して体に覚え込ませるしかな

それには早く肩を治してゲレンデに行かなければ

 

こうして底なし沼にはまっていった。

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この記事を書いたのは

山崎 靖

元朝日新聞記者、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、温泉学会員、温泉ソムリエ

昭和40年生まれ
新潟県十日町市出身


コラム「新聞の片隅に」
https://www.asahi-afc.jp/features/index/shimbun

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