パワハラ問題浮上から2年 江差高等看護学院のいま | 看護師になりたかった…⑤

11人の教師による53件のパワハラ その後は…

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HTBで継続取材してきた北海道立高等看護学院を巡る教師によるパワーハラスメント問題。最初に大きく報道されたのは2021年4月で、まもなく2年が経ちます。これまでに江差町と紋別市の2つの学院で、11人の教師が学生に対し53件のパワーハラスメントを行っていたことが認定されています。その後、学院はどう変わったのか・・・1月27日、江差高等看護学院で学校関係者評価会議が初めて公開の場で開かれました。

・これまでの経緯については…

HTB 北海道立高等看護学院パワハラ問題 特設サイト:https://www.htb.co.jp/news/harassment/

「閉鎖的な学院」から「開かれた学院」へ

学校関係者評価会議は学院運営の改善を図るために行われているもので、江差高等看護学院では2018年度から開かれています。これまでは非公開で行われてきましたが、今回は第三者調査委員会からハラスメントの背景には「閉鎖的な学院運営があった」と指摘されたことを受け、学生や地域住民も参加して初めて公開の場で会議が行われました。

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学院運営を改善するためにパワハラが発覚した後に着任した石谷絵里学院長は、会議の冒頭にハラスメント問題で多大なる迷惑をかけたと関係者らに謝罪し、学院が再出発をした去年4月以降の状況について次のように述べました。

「昨年4月以降、ハラスメントの有無や学院生活の満足度などについて定期的に学生にアンケートを実施して参りました。去年12月には初めてハラスメントがないという結果となり、さらには学生の満足度や自己肯定感も向上してきていること、また学生が明るく元気に学んでいる様子が確認できて学院が正常化しつつあることを感じているところです。とはいえ、ようやくスタートラインに立ったところですので、学院としましては、今回のピンチをチャンスに変えてしっかりと気を引き締めて学院の信頼回復と、よりよい学院運営、そして何より学生が安心して学べる環境づくりに一層努めていきたいと考えております。」

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変わる学院運営 「目安箱」に「ほめ活」

今後の学院運営の改善策として第三者調査委員会から、第三者によるハラスメントなどの相談・通報窓口の周知や通報や相談があった場合の解決に至るまでのフローを定めて機能させていくことなどを指摘された江差高等看護学院。こうした意見を受けて、学内に2人、学外に2人のハラスメント相談員を配置し学生たちに周知しているほか、ハラスメント以外の意見を投げ込める目安箱も設置しました。さらには学生や教職員がお互いの良いところをほめたり認めたりしあう「ほめ活推進プロジェクト」を展開。お互いのコミュニケーションの活性化や自己肯定感を高めることに役立っているといいます。

この他にも地域との交流など様々な取り組みを始め、その成果もあってか年に4回実施している学生アンケートでは、去年12月に初めてハラスメントを受けたとする回答がゼロになりました。

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<江差高等看護学院 令和4年度学校関係者評価会議 資料より>

「看護師になりたいと思える学校になった」

こうした学院の取り組みについて、会議に参加した現役の学生からは次のような意見が出ました。

学生Aさん:

「学校を辞めようかな、先生たちに指導してもらえない、先生たちの好き嫌いもすごかったのでそう思っていた。いま学校が変わってすごい勉強しやすい環境で、先生方が学生に真摯に向かって対応してくれるので、今は学校に居づらいということもないし、看護師になりたいと思える学校になったのですごい本当に良い方向に変わったなと思う。」

学生Bさん:

「最初に入学した時はパワハラというニュースを聞いて大丈夫なのかなという不安もあったが、どんどん改善されていって、今は先生も不安や悩みを相談すると聞いてくれて、相談に乗ってくれるのですごい勉強しやすい。」

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<2022年度江差高等看護学院 学院生活・ハラスメントに関する学生アンケート結果より>

ピンチをチャンスに! まだまだスタートライン

確実に変わりつつある江差高等看護学院。しかしまだまだ課題もます。その1つが、今後いかに学生を確保していくかという点です。江差町がある檜山振興局管内には看護師養成校が江差高等看護学院だけです。しかし、この10年以上の間、入学者数が定員の40人を超えたことはありません。少子化や大学指向の強まりに加え、看護師養成校の多くが札幌に集中しているという背景もあります。これは学生だけではなく教師の採用面でも課題になっているといいます。ある看護学校関係者は、「看護学校の教師になるためには北海道専任教員養成講習会を受けるが、これが札幌で9か月間もの期間で、地方から受講するには宿の手配や費用も負担になり、地方になればなるほど看護学校の教師採用も難しい状況がある」と打ち明けます。

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<江差高等看護学院 令和4年度学校関係者評価会議 資料より>

しかし、医療過疎の地方にとってこそ必要な医療人材の育成。それを担うのが北海道立の高等看護学院です。江差高等看護学院では今後、オープンキャンパスや学校見学の実施などPR活動に力を入れるほか、入試制度を一部見直して学生の確保に向けた取り組みを進めていく考えです。

いまも続くもう1つの第三者調査委員会

そして、学院の変化とともに忘れてはならないのは被害を受けた学生たちの存在です。この2年間、取材を続ける中で看護師になりたいという夢や希望を持って学院に入学したにも関わらず、教師からのパワーハラスメントを受けて、その夢を諦めた若者たちを多く見てきました。いまも苦しみ続けている人もいます。北海道には以前から苦情や相談が寄せられていました。しかし、その声に耳を傾けず十分な対応を行ってこなかったばかりに問題が深刻化し、絶たれた未来があります。この事実を、北海道や学院には忘れることなく向き合い、学院の運営改善に取り組んでくれることを願っています。

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2019年には江差高等看護学院に通う男子学生が自殺しました。遺族の要望を受けて、現在新たな第三者調査委員会が立ち上がりパワハラとの因果関係などの調査を続けていて、そう遠くない日に調査結果の取りまとめが行われるとみられています。引き続き、取材を続けていきます。

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この記事を書いたのは

HTB報道部記者・喜多和也

映画「しあわせのパン」の暮らしに憧れて北海道に来たパン好き記者。パンシェルジュ。

2021年11月まで函館駐在で看護学院パワハラ問題などを取材。

https://www.htb.co.jp/news/harassment/

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