今年もCancerXのシーズン。2月4日のワールドキャンサーデーの前後で様々な視点・メンバーで語り合うイベントが開催されました。中でも印象に残ったセッションをお届けします。
今回は『CancerX R&D 患者中心の研究開発と事業』から印象に残ったコトをレポートします。
上野 直人 ( ハワイ大学がんセンター ディレクター / M.D., Ph.D., F.A.C.P./ CancerX 共同発起人・共同代表理事 )
眞鍋 淳 ( 第一三共株式会社 代表取締役社長兼CEO )
山本 眞基子 ( BCネットワーク(ヤングジャパニーズブレストキャンサーネットワーク)創立者、代表理事 )
モデレーター : 三嶋 雄太 ( 筑波大学 医学医療系 助教 / 附属病院 再生医療推進室 副室長 / 医薬学博士 / 薬剤師 / CancerX 共同発起人・理事 )
薬の研究開発に取り組む上野先生から、まずは『患者さん自身の声を反映することが大事』という臨床試験の一例とPRO(Patient Reported Outcome)という概念の紹介がされました。
臨床試験では新規の抗がん剤と医師がこれまで通りにチョイスした抗がん剤と比べていい結果が出ているものでした。しかし効果や副作用だけではなく、この臨床試験では生活の質、痛みについて患者さんへ科学的に基づいたアンケートを行い、その時間軸で蓄積したデータを集めたそうです。
上野先生『なぜこれが重要かというとこれまでのように効果と副作用を伝えることよりも、患者さんがそれをどうとるか、というのが重要なのです。これまでの効果と副作用を見るだけではなく、患者さんがよかった、という思いが感じられるデータとして得られる。患者さんが語ることを定量化したデータで見ることは重要で、薬の開発だけではなく、医療従事者にとって、データがあれば、患者さんにどう接すればいいのかがわかる。医療システムにおいてもどうリソースを割けばいいのかもわかり、より豊かな環境を与えることにつながると思うのです。』
Patient Reported Outcome(PRO)はこれまで患者さんによる主観的な要素を考慮することがなかった、治療結果の評価方法として注目されています。
患者さんとともに・・・。
医療を作っていくというひとつのやり方があるということが理解できました。
三嶋さん『昔からある概念だけれども知らない医療者もいる。でも社会情勢的に一層その重要性が高まってきているように思います。』
キャリアの中で大学病院での病理検査の経験から患者さんに貢献することが大事なことでただ安全な創薬をすることだけではないと実感したという眞鍋社長。
眞鍋社長『まだまだ患者さんとの対話が不足している。患者さん中心なだけではなく、患者さん自身にも様々なステークホルダーの中に入っていただき、医療関係者だけではなく、地方自治体や製薬企業など様々なひとたちもはいっていけるのが将来のビジョン』
これまで日本で患者が薬について知るためにはお医者さんにまず選択肢を提供してもらう、というのがメイン。診察室で患者さんが初めて薬名を聞くのが普通である、と三嶋さんは指摘します。
アメリカ在住で乳がんにり患、肺転移を経験されて、患者団体を設立された山本さんは・・・
『チョイスがあるわけではない、そんなに簡単には(治療薬は)ない。自分の場合は、2人の主治医にチェックしてもらっている。同じ効果であればどちらの副作用が私にとってはいいのかを聞く。17年も転移性乳がんから経っているので先生もよく知っている。
アメリカでもみんながそうだとは思わないが、日本では医師が忙しいから聞けないという声をよく聞くし、なかなか聞けない人が多いのだと感じます。』
アメリカではテレビのニュースやwebサイトで画期的な薬の情報は見ることはできる状況です。日本でもいまでは研究論文などは見ることはできますが、処方が必要なもの、保険収載されている薬剤は広告に当たらないように、という厳しいコードがあります。日本とアメリカはCM含めたプロモーションコードは違い、薬に関する情報を伝えられるのは先生だけです。
学会で効果が出たと発表されたものは承認前でもアメリカは使用される場合がありますが日本は承認を待つ形です。(保険の制度の違いもあり)それは患者さんを守るためのものでもあるのですが、情報をとりに行かなくてはならない中、この規制が本当に患者さんのためになっているのか、が考えてもいいのではないか』と三嶋さん。
眞鍋社長『ひとりひとりの困りごとを解決して健康医療領域、ライフジャーニー全体に寄与したいと考えています。最善の医療とは、何か?効率的にどういう情報を届ければいいのか。GoogleやIT企業なども入り、DXを駆使し、一例とすればメタバース病院でアバターで診察を受けて電子処方箋で薬が届くなど、それぞれの知恵を絞って場所が作れれば』と話します。
健康領域と患者領域のデータを共通IDで連携し、データ利活用を可能とするIT基盤としてトータルケプラットフォームを目指しているそうです。
リリース
薬だけじゃなくて、たとえターゲットじゃない人にもプラットフォームへも投資して、患者中心の研究開発にも生かしていくというトレンド。
上野先生は『患者さんの声、誰に聞くのか。初期だと時間がたつと、そのときのことを忘れてしまって正しくない。一方で本当に困っているときには声を出す機会がない。本当に拾えているのか、難しい。多様な社会の中で同じ情報を集めようとしても経済的格差、地域によって得られる情報が違う。両方上手にすり合わせる、複雑な多様性をどうするのかが課題』と指摘。
ひとつの団体だけでものごとができる時代は終わり、より幅広くネットワークを駆使してよりよいものをという空気が高まりつつあることが共有されました。
様々なセッションが続くCancerX主催のWorld Cancer Week 2023(https://cancerx.jp/summit/wcw2023/)。
次回はまた別のセッションをリポートします。
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