ああ、憧れの薪ストーブ① 人はなぜ、火に癒やされるのか… さっぽろ単身日記


薪ストーブがこんなに心地いいとは思わなかった。

雪が積もり始めた昨年11月、以前から気になっていたB社のログハウスを見学した。

江別市にある展示場は、ドーム型やキャンピングカー型といったユニークな建物から本格的な和風の家まで、多種多様なログハウスが並んでいる。さながら小さなテーマパークのようだ。


最初に案内されたのは、大きな丸太で組み立てられた、スキー場のロッジのようなログハウス。分厚い木のドアを開けて中に入った瞬間、思わず声が出てしまった。


ああ、気持ちいい。


まず目に映ったのは薪ストーブ。

オレンジの炎から熱が体にダイレクトに伝わってくる。
玄関で靴を脱ぐと、吸い寄せられるように、ストーブの前に置かれた革製のソファに腰を下ろした。

冷たかった顔や手がみるみる赤らんでいくのを感じる。

マンションにある電気蓄熱機とは暖かさの質が明らかに違う。


この心地よさは一体、何なんだろう?


ときどきパチパチと音を立てながら燃える薪の火をガラス越しに眺めながら、時間が過ぎるのを忘れてしばらく考えた。

遠赤外線の効果なのか、それとも目の前の炎のゆらぎなのか。


あっ、この臭いだ。


薪の炎で暖められた空気が鼻腔を通るときに感じる、ほんのりとした木の香り。


懐かしい。


でも、何で懐かしいんだろう?


新潟県の豪雪地帯で育った私だが、実家の暖房は石油ストーブとこたつが主で、薪ストーブを使った記憶はない。
ただ、思い当たる節はある。

小学生の頃、ときどき遊びに行っていた祖母の本家の家だ。

私の実家よりさらに山深い里にある集落にその家はあった。

祖母の家系は代々村長を輩出するほど、集落でも有数の農家だった。

その家は茅葺き屋根に大きな土間と囲炉裏がある、いまで言う古民家だ。


一歩、家の中に入ると独特の臭いがした。
家全体が煙でいぶされたような臭い。

子供の頃は田舎くさい感じがして、決して好きな臭いではなかった。

それなのに、薪が焚かれたB社のログハウスで、その時の記憶がよみがえってきたのだ。


なぜだろう?


囲炉裏の古民家と薪ストーブのログハウスとでは、漂う臭いは全く違う。
無数ある臭気成分のなかで一つか二つ一致する成分を嗅ぎ分けたような、そんな感覚だった。


大げさかもしれないが、命の危険を感じたときに心の動揺を抑える効果のある成分なのかも知れない、と思った。

本家の古民家はとにかく寒かった。

夜は体が冷えすぎて眠れなかったので、毛布で体を包んで囲炉裏の前でじっとしていた。
かろうじて赤みが残っている炭に、竹筒で息を吹きかけながら暖を取った。

囲炉裏に残るかすかな火のぬくもりが、どれだけ暖かく感じたことか。


ログハウスで赤々と燃える薪の火を眺めながら、何とも言えない安心感に包まれていることを感じた。


ノルウェーのジャーナリスト、ラーシュ・ミッティングの著書によると、ノルウェー国防軍の冬季戦闘訓練校では、実地演習を行う際、危険な状況に直面したときにはできるだけすぐ火を焚くよう指導するそうだ。焚き火が安心感を与え、やる気を起こさせてくれるからだという。


火の暖かさは生きていることの証しなのだ。


このままずっと炎を見つめ、薪の暖かさに癒やされていたい。


展示場では1泊2日の宿泊体験もできると聞いて、早速申し込んだ。

実現したのは3月の休日。

その夢のような1日がやってきた。

(続く)

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この記事を書いたのは

山崎 靖

元朝日新聞記者、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、温泉学会員、温泉ソムリエ

昭和40年生まれ
新潟県十日町市出身


コラム「新聞の片隅に」
https://www.asahi-afc.jp/features/index/shimbun

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