タマゴが手に入らない…この状況は予見されていた?12年前に「大げさでは?」と評されたHTBのドキュメンタリー番組を再放送します。

2010年から11年にかけての冬。九州から関東にかけての養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが発生し、国内で約185万羽のニワトリが殺処分されました。北海道ではまだ野鳥の感染が報告されているだけで、多くの養鶏場がいつ北海道に被害が広がるのかと戦々恐々としている状況でした。

私は当時、鳥インフルエンザって何?渡り鳥が運ぶってどういうこと?強毒性の高病原性に変異するって何のことだかさっぱりわからないんですけど…という状態から取材をはじめ、九州、東日本大震災直後の東北、ロシアのサハリンでの取材や北海道大学の専門家のもとでインタビューを重ねました。

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高病原性鳥インフルエンザへの対策の重要性を訴える齊藤慶輔獣医師

そして高病原性鳥インフルエンザウイルスは、もともと自然界にあったものではなく人間の世界で作られ、自然界に放たれてしまったこと、起源は中国といわれ、シベリアで繁殖した渡り鳥がロシアや韓国を経由して日本に渡ってきていること、日本のみならず、アメリカ、ヨーロッパなど世界中に拡大していることを知りました。ウイルスの脅威を一人警鐘を鳴らし続けて奔走する獣医師に密着し、2011年5月に番組をまとめました。タイトルは「タマゴが消える日」。近いうちに鶏卵が食卓から消えるのではないかという恐れがあったのと、もう一つ、人間の目の届かないところで野鳥のタマゴも消えていっているのではないかという2つの危惧を重ねました。

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日々の食を支える「鶏卵」と「野鳥の卵」に忍び寄る危機とは


番組は全国放送されましたが、大げさだ、おどろおどろしい、煽っているのではないか、といった声を多くいただきました。放送から12年たって、ニワトリの殺処分は頻繁にみられるニュースとなり、殺処分数は当時の8倍を超える1,500万羽に達しています。養鶏場での対策に手詰まり感すら広がる一方で、最前線の対策は、絶滅が危惧されている野鳥や動物園で飼育している希少種が感染した場合にいかに治療するかという“種の保存”というステージに移ってしまったように見えます。つまりまだ数多く生息する野生のガンカモ類などは、例え大量死しても救えないという状況です。

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養鶏場の消毒作業


私たちは次の冬も1,000万羽を超えるニワトリの死をニュースにして伝えていくのか。根本的な解決策は本当にわからず、取材を続けていくしかありませんが、一度立ち止まってアウトブレイクと言われた年に、北海道で、日本で何があったのかを振り返ってみることも意義があるのではないかと考え、再放送を決めました。

「タマゴが消える日 ~この冬 日本を渡った脅威~」再放送

放送日時:2023年5月23日(火)深夜2時25分~55分 (北海道でのみ放送です)

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この記事を書いたのは

沼田博光

HTB 報道部デスク
環境問題や野生生物、アイヌ民族の先住権問題などをテーマにしたドキュメンタリーをてがけています。

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