小樽市の絶景秘境「オタモイ」に眠る3000体の地蔵…いったいどうする?
2023.07.14
#ニュース秘境の奥に眠る3000体の地蔵…いったいどうする?
小樽市屈指の絶景、オタモイ海岸。
急峻な崖が連なる秘境につくられた遊歩道が落石などの理由で通行止めになって17年。
その先の断崖絶壁のふもとに、3000体以上もの地蔵が残されていることがわかりました。ひとり地蔵堂を守ってい
た堂守の突然の死。巡礼地にもなっていた地蔵堂の保存を巡る問題が浮上しています。
絶景を誇る小樽市オタモイ海岸
かつて多い時には1日、数千人が参拝に訪れたという霊場は、深い草木の茂る崖の下にあるといいます。一体、どんな場所なのか。特別な許可を得てカメラが向かいました。
現場を案内してくれたのは小樽商科大学の高野宏康客員研究員です。小樽の郷土史や文化遺産について研究しています。オタモイ地蔵堂は小樽黎明期の歴史を今に伝える地蔵信仰の拠点だとして保存を訴えています。
急な崖を下っていくと、突然廃墟が・・・
特別な許可を得て急な崖を下って地蔵堂へ
背丈ほどの草木をかき分け、崖を下ること1時間。陸の孤島ともいえる崖のふもとに少しだけ開けた場所があり、そこに半分潰れてしまった家屋がありました。
この冬の雪の重さで潰れてしまったようでした。
この家には村上洋一さんという男性が一人で住んでいました。
曽祖父の代から続く堂守として、この地にある地蔵堂を1人で守っていました。
しかし今年4月、住んでいた家の中から遺体で見つかりました。
冬の間に病気で亡くなったとみられています。
断崖絶壁のふもとに廃墟が…
家屋の横に地蔵堂があり、オタモイ地蔵尊が祀られていました。
そして壁には小さな地蔵がびっしりと並んでいます。洋一さんがひとり守り続けた地蔵です。子どもが授かった御礼にと参拝者が供えた地蔵も含め、実に3000体以上が残されていました。
地蔵堂には3000体以上の地蔵がひっそりと保管されている
神威岬沖に身を投じた女性の伝説とは
オタモイ地蔵堂は江戸末期、1848年に建てられました。高野さんによると、この地に地蔵尊が建立された伝説が残っているといいます。
オタモイ地蔵堂
1847年、富山県の医者の一人娘が親しくなった青年の子を身ごもりましたが、両親の反対にあい、青年は北海道に渡って漁夫になります。女性は北前船に密航して青年の後を追いますが、積丹半島の神威岬沖で嵐に遭い、海の神の怒りをおさめるため船から身を投じます。女性の遺体はオタモイ海岸に流れ着きますが、妊娠していたため母乳が流れてあたりの海を白く染めたといいます(ニシンの群来だったという説もあります)。哀れんだ漁夫たちが地蔵尊の近くに埋葬し、供養のために地蔵尊が建立されました。以来、母乳不足の女性がこの地蔵を祈願し、昭和初期には諸病にも霊験があるとされるようになりました。
昭和初期のオタモイ海岸の様子
断崖絶壁に竜宮閣 北海道随一の巡礼地に
こうしてオタモイ地蔵堂は積丹沖の海難事故で亡くなった人の魂を祀り、子宝にも恵まれる地蔵堂として毎日数百人、年に一度の例祭には多い時で数千人の参拝者が訪れる北海道随一の霊場となりました。その参拝客を見こんで、海水浴場や巨大リゾート施設「オタモイ遊園地」が建設されました。中でも断崖絶壁にできた高級級料亭「龍宮閣」が人気となり、オタモイ海岸は観光地としても栄えていきました。
しかし1952年に龍宮閣が火災で焼け落ち、オタモイ遊園地は閉鎖に。いまは跡地しか残っていません。
海水浴客でにぎわうオタモイ海岸
竜宮閣
高野さんは地蔵堂を前に「非常に参拝することが難しい状態。この後のあり方を検討していく必要がある」と指摘します。
洋一さんに後継者はいませんでした。堂守の突然の死で、175年続いた巡礼の地を誰が管理するのか、大きな問題が浮上したのです。
堂守の死で保存問題が浮上
亡くなった堂守・洋一さんの親戚、村上テル子さんです。
「お地蔵さんにその人が頭が痛ければ小石をお地蔵さんの頭にあてて撫でて、そしてお腹の痛い人は、小石を握って地蔵さんのお腹をさすってやったもんですよ」と、オタモイ地蔵堂での思い出を話します。
幼いころから親に連れられて地蔵堂に通ったといいます。そして「(相続については)親戚で話し合う人がいないの。
私も来年80歳だし、ここに(洋一さんの)土地もあるし、お地蔵さんが残されていることも心配。どうすることもできないですね」と悩みを打ち明けました。
オタモイ地蔵尊
4年ぶりの慰霊祭の開催
テル子さんと高野先生ら有志が、今も時折訪れる参拝者のために、洋一さんが毎年開いていた例祭を復活させる計画をたてました。
地蔵堂には近づけないため、場所は400メートルほど離れたかつての遊園地の跡地で行うことにしました。
オタモイ地蔵堂慰霊祭
6月25日、4年ぶりにオタモイ地蔵堂の例祭がいとなまれ、全国各地からおよそ60人の参拝客が集まりました。
参拝客の一人は「もう来れないかなと思っていた。
やっぱりお地蔵さんのそばでお参りしたいなという気持ちはあるけど仕方がない」また別の参拝者は「(堂守の)村上さんのご冥福をお祈りするとともに、感謝の気持ちも。
きょうは絶対来ようと仕事を休んで来ました」と話して手を合わせていました。
参列した村上テル子さんは「お守りした洋一さんに感謝しながらお参りしました。
お地蔵さんは寂しくなっていると思うので、違う場所探して、安心して納めていきたいと思います」と話しました。
オタモイ海岸の再開発計画で注目集まる
地蔵堂があるオタモイ海岸ではいま、再び観光地として復活させようという再開発構想が注目されています。ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長は2021年に現地を訪れ、「景色は非常にすばらしい。ですけど開発するには相当お金がかかるなと」と感想を語りながらも、オタモイ遊園地の跡地を新たな観光地にしてほしいと小樽商工会議所に調査費用として5000万円を寄付しました。
これまでに海岸線の絶景を見渡せるテラスなどの案が検討されていますが、地蔵堂は再開発の計画地に隣接しているものの対象には含まれていません。
再開発計画を検討している小樽商工会議所の笹原馨さんは、今後、地蔵尊をどうするのかという記者の質問に「再開発の中でオタモイ地蔵尊の話は含まれていないですが、地蔵尊をなくすことはできない。オタモイとは切りはずすことはできないと思っています」と答えました。
再開発と一体での保存を訴える小樽商科大学の高野宏康客員研究員
高野研究員は、そもそもオタモイ地蔵堂への参拝客がいて、人が集まる観光地となったとしたうえで、「再開発の話が出ることは、小樽にとってオタモイは景勝地の一つだからとても良いことだと思います。ただ聖地にある原点がお地蔵さんなので、いい形で開発の中にオタモイ地蔵尊を含めて活性化につながればいい」と、今後の保存の方向性について考えを述べました。