HTB開局55周年映画「奇跡の子」監督のこぼれ話【幕間のつぶやき②】テレビと映画の違いに撃沈 前編

HTB北海道テレビ放送開局55周年記念として制作された、映画『奇跡の子』。

この映画の監督である沼田博光が制作にあたっての裏話【幕間のつぶやき】をSodaneで綴ります。

今回はこの作品が映画になるまでの、とても昔からの長い道のりのお話。

テレビ作品をなぜ映画に?

始めまして。HTB55周年記念映画『奇跡の子』の監督をつとめた沼田です。

「テレビ作品をなぜ映画に?」

この映画製作を始めて一番多く聞かれる質問。映画製作に関心があるという人のためにも、この点についてちょっとだけ経緯を紹介します。

映画化の理由は大きく2つあって、一つはやはり映像でものごとを伝えるテレビマンとしては、いつか大きなスクリーンでじっくり見てもらえる作品を作ってみたいという、昔からの夢みたいなもの。もう一つは長沼町の農家の皆さんと会話しているときに「鳥嫌いの俺たちがタンチョウを呼ぶことになるとはな」と笑って話しているのを聞いて、その理由を知ったときに映画にしたい!と強く思いました。

ただ、それから5年近くたってようやく作品が完成しましたけれども、今振り返るとテレビと映画は全く違うもの。その違いも分からずに映画を作りたいとか、映画にすべき!とかなんと無謀だったというか、ものを知らないとは恐ろしいというか…。 

『札幌シアターキノ』

大学生のときに演劇部に所属し脚本を書いたりしていましたので、いっとき映画や舞台をずいぶんと観てあるきました。しかしながらHTBに入社して報道部に配属になってからは会社と現場とススキノを巡る日々。映画や舞台からはすっかり遠のきました。札幌に日本一小さなミニシアターとして「シアターキノ」が誕生したのはそのころです。アートや前衛作品、ドキュメンタリー映画など、世界中から支配人が見つけた名作が上映され、たまにではありましたが、気になる作品を見つけると殺伐とした日常から逃げ込んで、シートに身をうずめてました。そして「いつか映画を作ることになったらキノで封切りしたい」などとぼんやり思うようになりました。

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29席の日本一小さな映画館として札幌に誕生したシアターキノ(1992年)

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当時の座席

シアターキノ30周年のニュース。監督沼田が報道取材:https://youtu.be/xXktPHA8FXI

撃沈

記者人生も中堅どころを越えて、いくつかドキュメンタリー番組も制作するようになりまして、そんな中「これは映画になるんじゃないか!?」という自信作もできました。

ところがどうしたら映画館で上映してもらえるのか全くわかりません。そこで番組をDVDにダビングして、東京にいくつかあるドキュメンタリー映画の聖地と呼ばれる劇場の一つにいきなり送り、「意見をききたい!」とお願いしました。ようやくアポがとれて、私の東京出張に合わせて映画館の事務所でお話を伺う機会を得ました。

「DVDは見ましたか?これは映画になると思うのですが」と切り出しましたが、返ってきた言葉は『全く話になりません』『テレビと映画は違います』『テレビ番組の尺を伸ばしたところでテレビはテレビ…』と10分あまりで撃沈しました。せめて何をどうしたら良いのかたずねて「編集をかえなきゃだめだ」と教わりましたが、その意味がわかったのはそれから10年後。

このときは「なんだ、ずいぶんと上から目線じゃあないか」とか「あの人は私の作品の良さがわかってない」とか、まぁ自分の作品が期待するほど評価されなかったことのほうに頭がいってしまい、「ふん、映画なんてたいしたもんじゃない」と負け惜しみを言いながら北海道に戻りました。この時、私に学ぶという姿勢があれば、あるいはきっぱり諦めていれば、あとで苦労することはなかったんでしょうね、きっと。

そしてまた会社、現場、すすきのとエッシャーの滝に流される日々が続きます。消えたと思った映画への情熱がまた勢いを増したのは、長沼の農家さんたちに出会ってからでした。

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舞鶴遊水地にタンチョウを呼び戻す会の勉強会

~~ 後編に続く ※後編の発行は12/29(金)を予定しています

奇跡の子 夢野に舞う

公式ウェブサイト:https://www.htb.co.jp/kisekinoko

2024年1月20日(土)から札幌・シアターキノほか道内の映画館で上映 
*一部、シネマ太陽帯広/函館、T・ジョイ稚内で1月19日(金)に先行公開

2月23日(金・祝)から 東京・丸の内TOEIで上映

農家は鳥に手を焼いている。撒いた種はほじくるし、芽が出ればバリカンで刈ったように食べつくす。張ったばかりのビニールハウスにはフンをかけていく。

そんな農民たちが地元に鳥を呼ぶと言い出した。それも絶滅危惧種のタンチョウだ。

北海道の東部にごくわずかしか生息していない希少種が大都市・札幌の近郊にある農村に来るはずもない。

それでも14人の農民が集まり、タンチョウの棲み家づくりが始まった。

治水対策で人工的に作られた遊水地の中に、タンチョウが生息できる「湿地」が回復してくると、やってくるのは予期せぬ訪問者ばかり。大量の渡り鳥に獰猛な外来種、カメラを抱えた人間たち…。

次々と巻き起こるトラブル。果たしてタンチョウはやってくるのか。

ーースタッフーー

ナレーション 上白石萌音

監督:沼田博光 

統括プロデューサー:坂本英樹 

プロデューサー:四宮康雅 堀江克則 

撮影:小山康範 石田優行 

編集:上田佑樹 

音楽:中村幸代

音楽制作:中脇雅裕

宣伝プロデューサー:泉谷 裕 

製作・配給:北海道テレビ放送 

宣伝・配給協力:東映エージエンシー 

カラー / 5.1ch / 16:9 /1時間37分

令和5年度 文部科学省選定「少年向き」「青年向き」「成人向き」

環境省「推薦」

文化庁文化芸術振興費補助金 (映画創造活動支援事業) 

札幌市映像制作補助金 

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この記事を書いたのは

沼田博光

HTB 報道部デスク
環境問題や野生生物、アイヌ民族の先住権問題などをテーマにしたドキュメンタリーをてがけています。

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