HTB開局55周年映画「奇跡の子」監督のこぼれ話【幕間のつぶやき⑥】全編オリジナル楽曲の魅力 その演奏と世界観に思わず…
2024.01.19
HTB北海道テレビ放送開局55周年記念として製作された、映画『奇跡の子 夢野に舞う』。
この映画の監督である沼田博光が製作にあたっての裏話【幕間のつぶやき】をSodaneで綴ります。
今回は「テレビドキュメンタリー」を「映画化」する上でこだわった音楽についてのお話。札幌での演奏収録にも立ち会った沼田監督。当時の思いを語っています。
最もこだわった一つが音楽だった
トムとジェリーを見て育ちました。セリフがほとんどなく音楽に映像を合わせて、猫とネズミが逃げ回ったり、モノを壊したり、大笑いしたり、忍び歩きをする様子を様々な音で伝えるのが大好きでした。最近は差別的な表現が問題だとしてあまり地上波で見られなくなりましたが、私が小~中学生のころは学校から帰ると(現在私が所属する)HTBで繰り返し放送していました。当時、録画再生機なんてありませんから、カセットテープレコーダーをテレビの前に置いて音声だけを録音し、それを何度も聞いて楽しんでいました。音楽だけでも自然に映像が浮かんできます。家族が横で見ていて笑い声をあげると「録音してるんだから静かにして!」と、他のノイズを入れないことに必死でした。
テレビドキュメンタリーでは、ほとんどの場合、映像が完成した後に音響効果さんがそのシーンに合う音楽を、ストックしている膨大な音源から持ってきてあてはめます。曲がつくと作品は見違えるようにグレードアップし、ぴったりはまると思わずウルっときたりします。今回、映画を製作する上で最もこだわった一つが音楽でした。出来合いではなくオリジナルを作りたい。トムとジェリーのように音楽と映像がぴたりとマッチした作品を作りたい。
メイド・イン札幌を目指して
初めての映画チャレンジで目標に立てたのが「メイド・イン札幌」です。テレビ作品までは札幌産で作れても、そこから先、映画館で上映できるように劇場用のフォーマット=DCP(デジタルシネマパッケージ)に変換する作業ができるプロダクションは札幌で見つけることができませんでした。「HTBがやるならウチも挑戦する」と言ってくれたのが、カラーグレーディングを担当してくれたプロダクションのMAZEさんです。テレビ映像とは全く違うフォーマットを前に最初は「違う脳みそを使わなきゃならん!」と悪戦苦闘でしたが、製作側のリクエストに丁寧に対応してくれました。
DCPを担当したMAZE PROJECT
そしてもう一つ、北海道でできない分野が“音”でした。映画音楽というものは誰にどのように依頼されて製作されていくのか、皆目わかりません。“久石譲”、“坂本龍一”なんてビッグネームも思い浮かびましたが、映画の作曲家さんを北海道出身というフィルターで探すというのもなかなか困難でした。いよいよわからずネット検索しているうちに『SSM札幌ミュージック&ダンス・放送専門学校』という専門学校のHPに目が留まります。「ミュージックで放送も専門というならテレビ局の事情も理解してくれるのではないか。しかもトップページのキャッチは『音楽・エンターテインメント業界で“好き”を仕事に』と書いてある…あぁ、ここだ」きっと何か手掛かりがあるだろうとすぐに電話。「テレビ局のものですが、映画を作りたくて、しいては音楽についてさっぱりわからず・・・」私の依頼はかなり要領を得ないものでしたが、それでも講師の1人、風間泰弘さんが話を聞いてくれました。そして客席を取り囲むように6つのスピーカーを配置する5.1サラウンドなど、テレビと違う未知なる音の世界を教わることになります。
札幌札幌ミュージック&ダンス・放送専門学校
中村幸代さんとの出会い
作曲家さんは最終的に、東京の中村幸代さんにお願いすることになりました。プロデューサーの1人が以前テレビ番組で一緒に仕事をしたことがあり、曲の雰囲気が今回の映画に合うのではないかということで音源を聞いてみると、まぁなんて素晴らしい!のびやかでゆったりと歌い上げる旋律が何とも長沼町の田園風景に合うと感じました。しかも中村さん本人も環境問題に関心が高いということで、すぐに依頼し快諾をいただきました。イメージを掴んでもらうために実際に長沼町に来ていただいて、取材現場をあちこち案内しました。「一度、来ただけじゃまず見られないですけれど、タンチョウいたらいいですね~」なんて話をしながら町内を巡っていましたら、本当にタンチョウの親子が目の前に現れたのです。まさに「奇跡の子」が現れたと一同びっくりし、中村さんも「この広大なスケール感は、この地に来ないとわからなかった」と楽曲のヒントを得られたようでした。
作曲・ピアノ演奏 中村幸代さん
ただここで音楽プロデューサーをお願いした中脇雅裕さんから、「HTBさんが聞いた中村さんの音源は、フルオーケストラで演奏したものです。今回は(予算的に)打ち込みが中心になるので仕上がり具合は違ってきますよ」と補足情報が寄せられます。オリジナルの曲をオーケストラの演奏で、というのはとてもお金がかかり、ローカル局には手が出ない贅沢な話だったのです。
さぁお金はないけれど、トムとジェリーみたいに生演奏でシーンに合わせて曲を奏でたい。パソコンで一定のリズムで楽曲を作る打ち込みではきっと映画音楽なんて無理だろうと勝手に思い込んでいたものですから、諦めるのではなくその分、お金を集めることを考えました。企業回りもしていましたが、訪ねたのが札幌市。全国20の政令都市で唯一、映像文化の発信に少額から300万円、最大では1000万円の補助金を出しています。助成の申請書を提出し、長沼町の物語で札幌市はワンカットも出てこないけれど、製作陣はメイド・イン札幌を目指している!音楽制作は札幌にノウハウがないので、後輩たちに知見を残すようにする!と熱く訴え、まとまった額の支援をしていただきました。
すべての音を生演奏でということにはなりませんでしたが(というより打ち込みの音もなかなかすごい!)、中村さんのピアノと、ギター・ストリングスは生演奏が実現しました。東京と札幌の2か所で収録が行われ、東京では中脇さんが素晴らしい演奏家を集めてくれました。
札幌での演奏はこれもSSMの風間先生に相談し、全道から演奏家を集めてくれました。しかも「生徒の見学がOKなら」と、無償で収録スタジオも提供してくれました。
演奏の収録日は夢のような時間でした。オリジナル曲は33曲。中村さんの指示のもと、映画の進行順に次々と演奏されていきます。演奏家の皆さんは楽譜を見ていますが、私は頭の中にそのシーンが浮かんでいます。作品終盤の盛り上がってくるところで頭の中の映像と曲が一致するともう感極まってダメです。収録室を出て、誰もいない廊下で小窓から演奏の様子をのぞくふりをして、ボロボロと涙を流しておりました。
SSMでの演奏収録 中央右で立っているのが中村さん
全道各地から集まった演奏家
今回の作品は長沼町の綺麗な田園風景が見所ですが、それを際立たせる音楽もとっても素敵です。鳥の声、風のそよぐ音はミューズボックスが、6つのスピーカーを使う立体的な音空間は東京のヌーベルメディアが構築してくれました。5.1サラウンド対応です。是非劇場でお楽しみください。
ヌーベルメディア(東京)でのMA
(監督のこぼれ話はまだまだ…続く?)
奇跡の子 夢野に舞う
公式ウェブサイト:https://www.htb.co.jp/kisekinoko
北海道9つの映画館で先行公開決定。
◆1月19日(金)~
シネマ太陽函館
シネマ太陽帯広
T・ジョイ稚内
イオンシネマ旭川駅前
イオンシネマ釧路
イオンシネマ江別
◆1月20日(土)~
札幌 シアターキノ
ディノスシネマズ苫小牧
ディノスシネマズ室蘭
◆2月23日(金・祝)~
東京・丸の内TOEIで上映
農家は鳥に手を焼いている。撒いた種はほじくるし、芽が出ればバリカンで刈ったように食べつくす。張ったばかりのビニールハウスにはフンをかけていく。
そんな農民たちが地元に鳥を呼ぶと言い出した。それも絶滅危惧種のタンチョウだ。
北海道の東部にごくわずかしか生息していない希少種が大都市・札幌の近郊にある農村に来るはずもない。
それでも14人の農民が集まり、タンチョウの棲み家づくりが始まった。
治水対策で人工的に作られた遊水地の中に、タンチョウが生息できる「湿地」が回復してくると、やってくるのは予期せぬ訪問者ばかり。大量の渡り鳥に獰猛な外来種、カメラを抱えた人間たち…。
次々と巻き起こるトラブル。果たしてタンチョウはやってくるのか。
ースタッフーー
ナレーション:上白石萌音
監督:沼田博光
統括プロデューサー:坂本英樹
プロデューサー:四宮康雅 堀江克則
撮影:小山康範 石田優行
編集:上田佑樹
音楽:中村幸代
音楽制作:中脇雅裕
宣伝プロデューサー:泉谷 裕
製作・配給:北海道テレビ放送
宣伝・配給協力:東映エージエンシー
カラー / 5.1ch / 16:9 /1時間37分
令和5年度 文部科学省選定「少年向き」「青年向き」「成人向き」
環境省「推薦」
文化庁文化芸術振興費補助金 (映画創造活動支援事業)
札幌市映像制作補助金
HTB開局55周年映画「奇跡の子」監督のこぼれ話【幕間のつぶやき】シリーズの過去記事はこちらからもご覧いただけます!:https://sodane.hokkaido.jp/author/000493.html