「奇跡の子」監督【幕間のつぶやき⑧】 「奇跡の子のその後」

HTB北海道テレビ放送開局55周年記念として製作された映画『奇跡の子 夢野に舞う』。この映画の監督である沼田博光が製作にあたっての裏話【幕間のつぶやき】をSodaneで綴ります。

映画には「次の長沼町が現れてほしい」という思いが託されていましましたが、今回はそんな願いが現実になりそうな嬉しい報告です。

奇跡の「一枚」

先ずはこちらの写真をご覧ください。もちろん合成でもフェイクでもありません。

北海道の人は「え?」っと思うでしょう。道外の人でも野球ファンなら「ホント?そうなの?」と驚くことでしょう。

2023.10.21①.jpg

空を舞う2羽のタンチョウ。

その背景にある大きな建物は北広島市にある日本ハムファイターズのエスコンフィールドです。

プロ野球の球場をバックにタンチョウが飛ぶという信じられない一枚です。

北広島市の森下肇さんが撮影しました。

位置関係をおさらいです。

長沼町は札幌中心部から車で東に1時間くらい。その間に北広島市があります。

北広島市は札幌のベッドタウンとして発展しましたが、国土交通省が2023年3月に発表した公示地価では、
新球場の開業で住宅地・商業地ともに地価上昇率が全国1位を記録した発展著しい街です。

その北広島市にタンチョウが住み着いたのにはちょっとした訳があります。

長沼の夢物語の第2章です。

長沼町にタンチョウを呼ぶプロジェクトでは、
千歳川の洪水対策のために作られた舞鶴遊水地の中に湿地を作ってタンチョウが住める環境を作りました。

実は、千歳川沿いに作られた遊水地は長沼も含めて全部で6か所あります。

北広島市の東の里遊水地はエスコンフィールドから直線でわずか3キロ程度のところにあります。

夏なら歩いてでも行けそうな距離です。

◆国交省の千歳川遊水地群概要
https://www.hkd.mlit.go.jp/sp/release/gburoi000000py50-att/gburoi000000wj6u.pdf
(長沼町・舞鶴遊水地/北広島市・東の里遊水地/恵庭市・北島遊水地/南幌町・晩翠遊水地/江別市・江別太遊水地/千歳市・根志越遊水地)

6か所の中で一番早く完成した舞鶴遊水地には2018年から2羽が住み着き、2020年以降、毎年ヒナが生まれています。

舞鶴遊水地は1つがいが縄張りにする程度の広さしかないため、いま、生まれたヒナたちが繁殖できる新たな場所がありません。

プロジェクトに参加しているタンチョウ研究の第一人者正富宏之さんは、計画立ち上げ当初から

「舞鶴一か所ではダメ。ほかの5か所についてもタンチョウが住める環境を作れないか。
ピンポイントではなく面で生息できるエリアができないと数は増えない」

と提言してきました。

長沼育ちのヒナたちが繁殖できる場所を求めて周辺を飛び回り、今、1つがいが北広島の東の里遊水地に定着しようとしているのです。

遊水地を管理する国交省は、遊水地の中の活用方法については各自治体に委ねています。

長沼町では周辺の農家が「タンチョウを呼び戻す」と提案したため、湿地づくりが認められました。

北広島市にも「タンチョウ」をめぐる動きが…

北広島市は遊水地の中の活用方法について、自然観察エリア、除雪の雪捨て場、多目的広場、駐車場などを計画し、造成が始まっています。

◆北広島市の遊水地活用内容
https://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/hotnews/files/00127600/00127636/keikaku.pdf

3月10日、北広島市で初めてタンチョウとどう向き合うかを考える市民集会が開かれるというので取材しました。

◆当日のニュース

https://youtu.be/wjYJ7euSwsU

講演した正富さんは、

「遊水地の中に駐車場を作ってしまうと、人との距離が近くなってタンチョウはここを離れてしまうかもしれない。
東の里遊水地の活用法を考えた時、まさかタンチョウが来るなんて誰も思わなかった。
だがいまタンチョウが来て定着しようとしている。
想定外のことが起きたのだから、ここは一度立ち止まって、
このタンチョウとどう共生していくかということを北広島市民は考えてはいかがでしょうか」

と提案しました。

◆正富宏之さんの講演の様子

https://youtu.be/292UtsCMVoY

こちらの写真は集会を開いたメンバーの一人、河野 潤さんが撮影した1枚。

東の里遊水地にタンチョウが3羽。その向こうにエスコンフィールドが見えます。


野球観戦をしているときに上を見上げると、あけ放った屋根の向こうにタンチョウが飛ぶ姿が見えるかもしれません。

写真②河野潤さん.jpg

エスコンフィールドは道民にとっても北広島市民にとっても宝です。

そしてタンチョウが飛来するこの風景も新たな宝だと私は思います。

映画の中で伝えた通り、長沼では大勢の見物人やカメラマンがやってきたときに農家の皆さんが見守り隊を結成して、
タンチョウをおどろかさないよう声をかけて回りました。

北広島もほんの一部のマナーの悪いカメラマンなどが追いかけまわしたりするだけで、
あっという間にここを見限って姿を見せなくなるかもしれません。

すでに長沼生まれのタンチョウの子供たちは北広島だけではなく、恵庭市、江別市、南幌町、千歳市の6か所すべての遊水地に姿を見せています。

遊水地の活用方法についてはそれぞれの地元住民が声をあげ行政に働きかけるしかありません。

誰かがやってくれるのではなく住民が自ら活動することが求められます。

何をどう始めたらよいかわからないという人も多いかもしれませんが、長沼町という素晴らしいお手本があります。

彼らに学ぶところから始めても良いかもしれません。

(監督のこぼれ話はさらに続く…)

奇跡の子 夢野に舞う

公式ウェブサイト:https://www.htb.co.jp/kisekinoko

ースタッフーー
ナレーション:上白石萌音
監督:沼田博光 
統括プロデューサー:坂本英樹 
プロデューサー:四宮康雅 堀江克則 
撮影:小山康範 石田優行 
編集:上田佑樹 
音楽:中村幸代
音楽制作:中脇雅裕
宣伝プロデューサー:泉谷 裕 
製作・配給:北海道テレビ放送 
宣伝・配給協力:東映エージエンシー 

カラー / 5.1ch / 16:9 /1時間37分

令和5年度 文部科学省選定「少年向き」「青年向き」「成人向き」
環境省「推薦」
文化庁文化芸術振興費補助金 (映画創造活動支援事業) 
札幌市映像制作補助金 

沼田監督のこぼれ話【幕間のつぶやき】シリーズの過去記事をご覧いただけます!

https://sodane.hokkaido.jp/author/000493.html

1

この記事を書いたのは

沼田博光

HTB 報道部デスク
環境問題や野生生物、アイヌ民族の先住権問題などをテーマにしたドキュメンタリーをてがけています。

合わせて読みたい