「奇跡の子」監督【幕間のつぶやき⑪】彼らは“屈強な男軍団”だった…8年目の真実

HTB北海道テレビ放送開局55周年記念として製作された映画『奇跡の子 夢野に舞う』。

この映画の監督である沼田博光が製作にあたっての裏話【幕間のつぶやき】をSodaneで綴ります。

念願の地元での鑑賞会

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公民館での特別鑑賞会 

2024年1月の北海道上映を皮切りに、東京、名古屋、大阪、広島、博多、久留米と各地で上映いただいている「奇跡の子 夢野に舞う」ですが、全国行脚の合間を縫って撮影の舞台となった長沼町で特別鑑賞会が開かれました。

長沼町に映画館がなく「観たくても遠くの町の映画館まで行けない」という町民の声を受けた長沼町役場さんが、町内の公民館や学校で上映会ができないかと検討してくれたのがきっかけです。

長沼の皆さんには是非見ていただきたいたいという個人的な思いもありましたし、何より役場の皆さんのご尽力で手作りのあったかい鑑賞会が実現しました。初日は長沼中学校で生徒さんを対象に、翌日は公民館で午前の部、午後の部の2回行われて、多くの皆さんに楽しんでいただきました。

私もご挨拶のため会場にお邪魔したのですが、そこで驚くべき事実を耳にすることになったのです。

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中学校体育館での鑑賞会

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会場には手作りの掲示板も

赤字丼の席上、町長から驚きの事実が…

午前の部が終わり、齋藤良彦町長、政策推進課の皆さんと“赤字丼”で有名な「いわき」で昼食をいただくことに。

巨大な海老天が5本並ぶ圧巻のどんぶりを前に、果たして食べきれるのかと少々びびりましたが、そのお味にぺろりと平らげてしまいまして、大満足の昼食となりました。昼食の席上、担当の課長さんが「それにしても沼田さん、よく1人でデジカムなんか持って、舞鶴の農家さんのところに通いましたね~。私なんておっかなくてそんなことできないですよ」としみじみ話しだしたのです(注:「おっかない」=「おそろしい」の北海道弁)。

齋藤町長も「私もちゃんと向き合ってあそこの農家さんと話せるようになったのは、ここ10年くらいかなぁ」とおっしゃいます。

「えっ?おっかない?どういうことですか?」

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「長沼名物 赤字丼」

詳しく聞いてみると、「タンチョウを呼び戻す会」のメンバーである舞鶴地区の農家さんは、町の中でも屈強な男軍団として有名で、その結束力と男気はすさまじく、農業に向ける情熱やひたむきさも半端なく、役場からうっかり頼みごとをしたり、中途半端な提案などをしようものなら、追い返されて話も聞いてもらえないというのです。

そんな男衆の中に、おだち気味の私が「タンチョウ、いるかな~」などとふらふらやってきて、7年も通ったというのが信じられない!と言うのです。

注2:「おだつ」=「調子に乗る」の北海道弁

泣く子も黙る屈強軍団とは露知らず、2016年から撮影を続けたわけですが、そう言われれば思い当たる点が多々あります。まず会長の加藤さんと普通に話をさせていただくようになるのにちょっと時間がかかりました。

メンバーの中には千歳川放水路問題で取材を受けた時のメディアへの不信感を未だに持ち続けている人もいて、「ウチは取材NG」という人もいます。皆さん実直で良い悪いがはっきりしていて、親しくはなっても “なあなあ”にはならない緊張感みたいなものがありました。ただこれが当たり前というか、農家さんの取材とはこういうものだと思っておりました。

舞鶴地区はかつて2年に1度のペースで洪水に見舞われ、地域の仲間が犠牲になったという歴史があります。大雨で川の水が溢れそうになれば女性や子供を非難させ、男たちは力を合わせ命がけで堤防を守ります。地域が水につかれば、ひと月も家に帰らず水をポンプで抜く作業を続けます。水がついた農家、水がつかなかった農家、助け合って地域を守ってきました。

その仲間意識、団結力はいまも引き継がれていて、この地域を子どもたちに残したいという強い思いがタンチョウを呼び戻す活動へと繋がっていきました。そんな人たちでしたので、対等な立場で取材するというより、むしろ農業のこと、地域のこと、命のことを教えてもらう8年でした。

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舞台挨拶の加藤幸一会長と沼田監督

上映会の壇上で加藤会長に「役場も怖れる屈強な男軍団なんですってね」と話しかけると、「父親たちの代はそうだったみたいだけど、俺らの代はそんなことないよ」と笑っていましたが、確かにその表情には凄みがある。あぁ、私は鈍感で良かった。この農家さんたちの取材を続けられて良かった。

さて最近は映画を観た人から「加藤さんのファンになっちゃいました~」とか、「握手してくださ~い」なんて声をかけられ、すっかり愛されキャラとなった加藤会長。あれ?あんな笑顔は見たことないぞなんて感じているのは私だけでしょうか。

各地での上映会が可能になりました

長沼町での上映会を経験させていただいたことで、映画館のない町でも上映会が開ける体制を作ることができました。大型のスクリーンとスピーカーを持ち込み、映画館クォリティ(DCP)での上映もできますし、再生機などの設備が整っている場所ではブルーレイだけの貸し出しも可能です。規模や予算に合わせて対応いたしますので、先ずはこちらのフォームからご相談ください。

あなたの町でも『奇跡の子 夢野に舞う』を自主上映しませんか:https://www.htb.co.jp/kisekinoko/jisyujouei_form/

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この記事を書いたのは

沼田博光

HTB 報道部デスク
環境問題や野生生物、アイヌ民族の先住権問題などをテーマにしたドキュメンタリーをてがけています。

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