「クマを殺すな」道外から苦情電話殺到で道や町が困惑 過去にも同様のケース【福島町 男性襲撃グマ駆除問題】
2025.07.28
道南の福島町で7月12日、新聞配達員の男性がクマに襲われて死亡した。男性の死因は出血性ショック。腹を中心に全身に傷があったという。
「怖くて外を歩けない…」町民が恐怖の日々を過ごす中、猟友会などによるクマの捜索が続けられた。そして悲劇から6日後、クマはハンターによって駆除された。
全国からも注目を集めていたこのニュースが伝えられた後、道や福島町の職員を悩ます事態が訪れる。
「クマを殺すな」苦情電話が殺到 対応する職員の仕事を邪魔するかのような長電話も
7月25日の定例記者会見で北海道の鈴木直道知事はクマの駆除後、道や町に対しクマを駆除したことへの苦情電話が殺到したことを明らかにした。
苦情電話をかけてきたのはほとんどが道外の人たち。中には2時間以上におよぶ電話もあり「仕事にならない」と鈴木知事は話した。
クマ駆除への苦情は過去にも…クマの怖さを知らない道外の市民からの電話
こういった事例は今に始まったことではない。クマを駆除するたびに、関係する自治体に対し、全国から苦情が寄せられる。
「忍者グマ」と呼ばれ道東の牧場などに大きな被害をもたらした「OSO18」を駆除したときにも「なぜ駆除したんだ」などの抗議電話が殺到した。そしてこういった電話は道外でも…
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2023年11月、秋田県内で1頭のクマが駆除された。2023年、東北地方では秋田県や岩手県でクマの出没が相次ぎ、住民が噛まれるなど60件を超える人への被害があった。
しかし、そんな中でも駆除に対し1500件を超える苦情が殺到。県や市町村の職員はその対応に追われた。
(イメージです)
秋田県にかかってきた苦情電話には以下のようなやりとりも―。
男性:「納得できない、クマを殺す必要はなかったんじゃないか」
職員:「人身被害の危険もあるので、自治体としてはその対応しかなかったんです」
男性:「税金泥棒」「役場を辞めろ」
職員:「役場を辞めることはできません」
男性:「クマと一緒に死ね」
当時、秋田県などの自治体は「クマが出没した町内に住む人からの苦情は一切来ていない」と説明していて、秋田県佐竹知事(当時は)は「仕事ができません。これ業務妨害です。最初から(強く)こられたら、これは『ガチャン』です」と会見で怒りを表しました。
福島町で駆除されたクマは4年前にも…駆除せざるを得ない現状
7月18日に福島町で駆除されたクマは4年前にも町内の女性を襲い、死亡させたクマと同一個体だということが分かった。「一度人を襲ったクマは 人を怖がりにくい」と言われる危険な存在だ。
そのような危険な野生生物を住民のために駆除したとしても、常に苦情電話はかかってくる。
2025年7月25日のHTBニュースより
鈴木直道知事は「クマと対峙する想像が出来ないかもしれないが、人が亡くなっている。加害個体に対して命の危険を持ちながら捕獲していただいている」とし、「理解してもらいたい。電話をする前にしっかり考えていただきたい」と述べました。
クマの生息域に近い地域で住む人々とそうではない地域に住む人々との意識の隔たり。
電話してくる人たちの多くは「クマとの共生」を目指したいと理想を持って訴えているのかもしれない。しかし、危険と隣り合わせの地域に住む人々は「それどころではない」というのが正直なところだろう。
「クマとの共生のために」学会の声明
2023年、「野生生物と社会」学会は緊急声明を発表した。
「クマ類は人との軋轢も大きく付き合い方を間違えれば人命を奪うこともあり、一定数の捕獲は欠かせません」
「関係者への配慮の無い電話や執拗なクレームは、関係者の努力をくじき、かえってクマとの共存を妨げる結果を招きます」