「誰のための制度か」を問い直す――高額療養費制度の改正と、揺れる日本の社会保障 がんサバイバーが財務省の方と語る

「誰のための制度か」を問い直す――高額療養費制度の改正と、揺れる日本の社会保障

日本の医療制度は、今、大きな岐路に立たされています。なかでも、重い病にかかった際の家計を支える「高額療養費制度」の改正をめぐる議論は、患者、医療従事者、そして国それぞれの思惑が交錯し、揺れ動いています。


今回、CancerXが主催するWorld Cancer Week2026「医療経済セッション」での登壇の機会をいただき、財務省にお勤めで、厚生労働省でも保険制度の最前線にいたご経験を持つ神野さんとの対話を行いました。

制度の歴史と未来、そして私たちが持つべき「自分ごと」としての視点を見てみました。

誇るべき制度の「光」と、直面する「危機」


日本は、世界でも類を見ないほど手厚い「国民皆保険」を維持しています。私はがん教育の内容の一部として、高校生に向けて日本、カナダ、アメリカの医療制度を比較してみましたが、その際、改めて日本の制度の素晴らしさを痛感しました。しかし、その制度がいま、危機に瀕していることも事実です。

制度の複雑化と「救済」のジレンマ

高額療養費制度の改正が難航している背景には、「細かく設定すればするほど、取りこぼしなく救える可能性があるけれど、同時に制度が複雑化しすぎる」とバランスが難しいと思って仕事をしていると話す神野さん。

さらに当初の時期、患者団体など当事者との対話が少なかったことも課題としてあげてくださいました。

意外に浅い「国民皆保険」の歴史

日本の社会保障には長い歴史があるように感じますが、現在の形が整ったのは比較的最近のことです。


■1927年: 労働者向けの医療保険が開始
■1938年: 農家向けの医療保険が開始
■1961年: 段階的な動きを経て、ようやく「国民皆保険」が実現

神野氏は、「日本の保険はカバー範囲こそ広いが、歴史はまだ浅い」と指摘します。この制度を当たり前のものとして享受している私たちですが、それは先人たちが築き上げた、まだ「若い」システムであることを忘れてはいけません。

「当事者」になって初めて見える、公助の重み

私は両側乳がんを患った際、カードが使えない現金払いのクリニックで、一時的にちょっとおろすことも緊張するくらいの費用を支払う経験をしました。その時、退院していく患者たちが、制度の適用区分によって全く異なる金額を支払っていく光景を目の当たりにし、「制度による差」と事前に準備ができていると窓口での負担がないので、「知識の差」を肌で感じました。

医療費の明細書から見える「支え合い」

神野さんは「まずは医療費の明細書をしっかり見てほしい」と話します。例えば自治体が医療費を無償化している子育て世帯などは、窓口負担がゼロであるため、実際のコストを意識しにくい側面があります。しかし、明細を見れば「本来はこれだけの費用がかかっており、その8割を国が、2割を自治体が負担している」という事実が見えてきます。

「自分が支えられている側なんだ」と気づくことが、制度を自分ごとにする第一歩になるのではないでしょうか。

38兆円の予算をどう分配するか


現在、社会保障の財源は所得税などの税金と保険料で賄われていますが、それだけでは到底足りていません。


社会保障予算(約38兆円)の内訳はざっくりいうと・・・
年金 約3割
医療 約3割
介護 約1割
福祉・その他 残りという配分。


国民健康保険については国は法律で医療費の32%を負担する義務があります。高齢者が増え続ける現状では、こうした「義務的経費」の増加をとめて、削減することは容易ではありません。財務省の役割は、この増加をいかに「緩やかにするか」という苦渋の決断の連続だといいます。

効率化と尊厳のあいだで


制度を守るためには、「医療の使い方」そのものを見直す必要もあります。その一つが、神野さんが担当時に導入した「リフィル処方箋」です。症状が安定している患者が、診察なしでも薬を受け取れるこの仕組みは、医師の貴重な時間を守ることにも繋がります。


議論のなかでは、非常に厳しい現実も突きつけられました。


医療法人の男性の声: 「削減されても仕方ない医療はあるが、そこで生計を立てている人もいる。そこを避けては議論が進まない」


女性の声: 「治療の意思がある高齢者と、意思表示ができない高齢者を同列に保険適用していくのは、もう限界なのではないか」


「無駄を見直せ」という言葉は、時として誰かの尊厳を傷つけます。だからこそ、神野さんは「大きな哲学の共有」が必要だと言います。

損得勘定を超えた「大きなビジョン」を

社会保険は、みんなで出し合って、みんなで支える仕組みです。「払った分だけ得をしたい」という損得勘定では、この制度は維持できません。今後始まる「国民会議」では、単なる数字の調整ではなく、「私たちはどのような社会で、どのように生を全うしたいのか」という、国家としての大きな哲学が問われることにな
ります。一人ひとりが明細書を眺め、自分が受けている恩恵を知ること。そして、限られたリソースをどこに集中させるべきか、痛みを伴う議論から逃げずに参加すること。それが、私たちが誇る日本の医療制度を、次世代へ繋ぐ唯一の道なのかもしれません。

CancerX World Cancer Week2026  (アーカイブ視聴可能)

https://cancerx.jp/summit/wcw2026/

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この記事を書いたのは

阿久津友紀

乳がん患者さんが治療中に被災したら? 『防災の心がまえ』をもとに『女性の病と防災』を考える おっぱい2つとってみた作者とHTB森アナウンサーが本音トーク 
https://youtu.be/AO8Xzebt0Ys

『おっぱい2つとってみた がんと生きる、働く、伝える(北海道新聞社刊)10月6日発売

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これまでの動画は・・・
【乳がん】おっぱい2つとってみた

HTBノンフィクション おっぱい2つとってみた
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