斎藤歩さん一周忌追悼朗読劇「すすきの育ちの憂哀歌(ブルース)」
2026.06.22
北海道の演劇界を力強く牽引し続けた俳優であり、演出家、劇作家の斎藤歩さんが、がんのため60歳という若さで旅立たれてから、早いもので1年が経ちました。
昨年放送したドキュメンタリー番組で、私はナレーションを務めました。余命わずかと告げられながら舞台に上がり続ける斎藤歩さんの生き様を伝えるテレメンタリー「生ききる~俳優と妻の夜想曲~」です。
https://www.htb.co.jp/telemen/ikikiru/
2021年に尿管にがんが見つかり、2023年には「何もしなければ余命半年」との診断を受け、ステージ4の末期がんでありながらも舞台に立ち続ける斎藤歩さん。そんな歩さんを支える、妻であり俳優の西田薫さんの二人の姿を伝える番組でした。互いを思いやり、未来へ向かって歩む。映像を通して歩さんと薫さんの想いに触れることができ、私の中でも深く記憶に刻まれています。
そんな歩さんの一周忌を偲ぶ舞台が、札幌の「シアターZOO」で開かれました。
今回は、その客席で私が受け取った温もりと、西田薫さんの想いをリポートしたいと思います。

劇場に蘇る、1990年代のススキノと「斎藤歩」の原点
今回の舞台は、歩さんが生前に雑誌で連載していたエッセイを読み聞かせる朗読劇。
タイトルは「すすきの育ちの憂哀歌(ブルース)」です。
「私がススキノの裏町で暮らしていた1990年ごろ…」
その一言から、物語の幕が静かに上がりました。
学生時代に演劇の魅力に取りつかれて以来、舞台、テレビ、映画、そして声優と、表現の可能性をどこまでも広げていった斎藤歩さん。そんな彼がまだ「駆け出し」だった1990年代、生活の拠点にしていたのがススキノでした。
朗読劇で描かれるのは、きらびやかな歓楽街の裏側にある、人間臭くて、少し寂しくて、だけどどうしようもなく愛おしい人々の人間模様。そして、役者・斎藤歩の“原点”となった街の記憶です。歩さんが紡いだ言葉は、ただの昔語りではありません。
当時のススキノの匂いや、そこに生きた人々の息遣いが、30年以上の時を超えて劇場の空間にまざまざと蘇ってくるようでした。
この特別な作品の朗読を務めたのは、歩さんの妻であり、同じく俳優として歩み続けてこられた西田薫さんです。
薫さんの素敵な朗読によって、若かりし歩さんの姿が映像になって目に浮かぶようでした。
薫さんは、歩さんがいなくなったあとの日々の変化を、飾らない言葉でこう振り返っていらっしゃいました。
「歩がいる時は、朝起きて何を食べようかと考えることがあったんだけど、そういう人がいなくなったので、何を食べようかというのも苦痛。考えることが楽しかったけど、そういうことが喜びではなくなったので、夜もすることがなくて……。でも途中から、暇にしているといけないんだと思って、よし働こうと思って(笑)」
舞台も終盤、ラスト近くのフレーズにさしかかった瞬間、西田さんの瞳に涙がにじみ、言葉が震えました。
「そろそろ限界のようです。艶っぽく、人の情けに満ちた街、すすきの」
歩さんの言葉で語り直す中で、こらえきれない想いも溢れました。
客席にいる私たち観客もまた、薫さんの想いに寄り添う時間となりました。
斎藤歩さんの生き様を、西田薫さんの朗読でつまびく「すすきの育ちの憂哀歌(ブルース)」は、
2日間とも満席。多くの人が歩さんを慕い、その不在を惜しみながらも、彼の残した文化の豊かさを再確認するステージとなりました。
7月25日からは、同じシアターZOOを舞台に、斎藤歩さんが作・演出を手掛けた朗読劇「今は逢えない~七夕の憂哀歌(ブルース)」が上演されます。
こちらは「札幌演劇シーズン2026」のラインナップのひとつです。
札幌の演劇や文化を体感しに、ぜひ劇場へ足を運んでみてください。
札幌演劇シーズン2026
https://s-e-season.com/
