映画『急に具合が悪くなる』病と死の不確実性の先にある、私たちが「今、できること」コラム:両側乳がんになりました。

少し出遅れた感があるが、シアターキノで第79回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した濱口竜介監督の最新作『急に具合が悪くなる』をようやく見ることができた。

ステージⅣのがんを患う日本人演出家と、フランスの介護施設長とのまさに魂の交流を描いたこの映画は、静かでありながら、どう死に向き合うのかを考えさせられる。(ネタバレ注意)

原作は、哲学者・磯野真穂さんと人類学者・宮野真生子さんによる同名の往復書簡。病を抱えて生きることの不確定性やリスクをめぐる研究者同士の対話を、濱口監督はフィクションという器に見事に落とし込み、原作者の一人が「アートになった」と評した通り、非常に哲学的なアートな映画になった。

タイトルにある通り、人はいつ、どのように「急に具合が悪くなる」か分からない。根底に流れているのは、その残酷なまでの「不確実性」である。

映画の中で上演される舞台。「健康な人は本当に生きている?」と問う。

近づいてみれば、誰もまともな人はいない、、というタイトルの舞台。重度の自閉症の男性が途中で声をあげて入り込むけれども、ハプニングか?という問いに Yes and No と答える。自分の信じる境界線や意識は本当にそれで正しいのか?ちゃんと生きているのか、を問われている気がした。

私自身、この映画を観ながら、がんと共に生き、そして旅立っていったある友人の姿を重ね合わせずにはいられなかった。私たちは普段、「死」や「病」をどこか遠い世界のもの、あるいは「知っているつもり」の知識として処理しがちだ。

しかし、いざ自分や大切な人が当事者になった途端、頭は真っ白になり、コントロールできない身体と未来に対する恐怖に直面する。劇中の主人公の女性もまた、自らのカラダが意志に反して衰えていく過程で、葛藤と孤独に苛まれる。

そんな暗闇の中で一筋の光となるのが、「人に頼る」という行為の発見である。私がかつて友人から教わった言葉がある。 「できることをやっていけばいい。できないことを無理して無駄な時間を使うより、できることを伸ばしたほうが絶対いい」

それはまさに、劇中で主人公がフランスの介護施設長との対話を通して辿り着く境地と重なっている。少しずつ「自分がやるべきこと」と「他者に任せるべきこと」を切り分けているように思えた。他者に身を委ねることは、決して敗北でも諦めでもない。それは、限られた時間の中で自分らしく生きるための、非常に前向きで力強い選択なのだと私は思える。

病状が進行し、文字通り「急に具合が悪くなる」日々が増えていく。死が近づくにつれ、できることは確実に減っていく。だが、濱口監督が映し出したのはその日々が単なる「具合の悪さ」や「悲しみ」だけで埋め尽くされるものではないこと。

なかなか日本映画では見ることのない、微細な日常の描写で描く。(3時間超えの長編)

私が友人に感じていた、お見舞いで食べられるものが減っても、交わす言葉が少なくなっても、SNSのやりとりの数々は、確かに「生きている日常」があったように思う。

命の長さには違いがあれど、限りがあるのは誰もが同じだ。だからこそ、今できることをやり、生ききる。悔しいのだ、と語る主人公。共感しかない。

病を特別な誰かの悲劇として消費することを許さない。誰もがいつか当事者になるからこそ、私たちは生と死のメカニズムを知り、語り合わなければならないのかもしれない。

遺された言葉や思いを一人だけのものにせず、誰かに伝えていくこと。主人公と施設長の国境を越えた対話がそうであったように、この映画自体が、監督から観客へと託された壮大な「手紙」なのかもしれない。

がんとともに、、、。

番組、SODANEへのご感想、ご意見お聞かせください。
番組制作、今後のイベント、SODANEなどで活用させていただきます。
がんとともに生きる方、ご家族を持つ方、そうでなくても、もちろん、どんなことでも、構いません。
決して1人ではありません。

メッセージはこちらから
1

この記事を書いたのは

阿久津友紀

乳がん患者さんが治療中に被災したら? 『防災の心がまえ』をもとに『女性の病と防災』を考える おっぱい2つとってみた作者とHTB森アナウンサーが本音トーク 
https://youtu.be/AO8Xzebt0Ys

『おっぱい2つとってみた がんと生きる、働く、伝える(北海道新聞社刊)10月6日発売

おっぱい2つとってみた がんと生きる、働く、伝える

「LINE特集 「失われる自分らしさ」。乳がんになった私たちの3年間。例え、心が折れそうでも…」
https://news.line.me/detail/oa-htbnews/bt2o2l9r6cfc

YouTubeで乳がんについて配信しています!

ピンクリボントーク【ホルモン治療の副作用と簡単ヨガ】 
https://youtu.be/gOOiLPH-n2I

温泉ソムリエも取得しました!

『アピアランスケアを考える』
https://youtu.be/3qVd1xXFvaU

ピンクリボントーク 患者と家族と社会 ~生きてくのに必要なコト~
アーカイブ配信:無料
https://youtu.be/PS4eJMy4GcY

第4弾の”がん患者さんとココロ” 北海道の斗南病院の精神科長で登録精神腫瘍医の上村先生に伺いました。アーカイブは
https://youtu.be/D-j4RrGSgkw

これまでの動画は・・・
【乳がん】おっぱい2つとってみた

HTBノンフィクション おっぱい2つとってみた
【2020年日本民間放送連盟賞 番組部門 テレビ報道番組優秀賞受賞】
【2020年ギャラクシー賞 奨励賞】

HTBonデマンドで無料配信中!
https://www.hod.htb.co.jp/pg_nf/pg_id_nf006

テレメンタリー2020『おっぱい2つとってみた~46歳両側乳がん~』年間最優秀賞 
ギャラクシー賞・選奨(報道活動部門)/民放連 放送と公共性 優秀賞
活動の一部は・・・
youtubeLIVEでピンクリボントーク① 見逃し配信中!
https://sciencefestival.jp/event/breast-cancer/