櫻坂46(以下櫻坂)は11月8日(火)、9日(水)の2日間、東京ドームにおいて『2nd TOUR“As you know?”』ツアーファイナルを開催した。
既に発表されていたように、2日目の公演をもって欅坂46(以下欅坂)からグループのキャプテンを務めてきた菅井友香が卒業。真っ直ぐな眼差しでグループのために奔走してきた彼女のラストステージは「卒業コンサート」ではなく、あくまで櫻坂としてのツアーファイナルにて卒業セレモニーを行う形となった。
櫻坂として初のフルアルバムをリリースして挑んだ全国ツアー。メンバーがステージ上で口々に「櫻坂らしさ」に自信を漲らせたステージは、どのような彩りを放ったのか。そして、菅井が残した笑顔の「じゃあね」に紡がれたストーリーとは。――再び辿り着いた、東京ドームという地でのライヴレポートをお届けする。
世界を見据えた「らしさ」
菅井の卒業という余りにも大きなトピックはあれど、あくまで彼女たちが東京ドームで披露するのは櫻坂としてのツアーファイナル。MCで二期生の武元唯衣はこのように話していた。「真っ直ぐ頑張っていたら、いつか櫻坂らしさがみえるかな、櫻坂としての形がみえてくるかなと信じて、後ろを振り向かずにがむしゃらにやってきて、その結果が今回のツアーだと思っています」――彼女たちが櫻坂となってから探し続けた「らしさ」は、本ライヴで遂にひとつの方向性を示したと言っていい。山﨑天が「世界にも櫻坂のパフォーマンスを届けていきたい」と話したように、演出、ダンス、楽曲、表現力……そのすべてに「世界」を見据えるからこその「らしさ」が香り立っていた。
まずライヴ演出の面では、観客にペンライトの使用を制限する中で届けた最初のタームに明確なメッセージが秘められていたと言える。完全消灯された会場に白色が輝く中で英語のアナウンスが流れ、硬質なエレクトロニカと共に披露されたダンストラックを皮切りに、楽曲と演出が一体となったパフォーマンスを彼女たちは放った。ステージはもちろんのこと、花道やトロッコ演出に至るまでLEDの仕込まれたセットと大量のレーザー演出は、オープニングから“流れ弾”に至るまでの一連を圧巻のエンターテイメントショーとしてBuddies(櫻坂ファンの総称)に届けた。ライヴでありながら「ショー」として構築された演出は、アイドルとしての姿以上に、ダンスボーカルグループとして世界に眼を向けたアーティスト然としたものだった。
そして、彼女たちのダンスの面に話を移す。今回のセットリストを通して改めて感じたことは、彼女たちのダンスは女性アイドルという枠組みとしては、明確にストリートダンスの潮流に根ざしたものが多い。例えば、2曲目に披露された代表曲“BAN”はオールドスクールなLOCKの要素を多く取り入れ、世界に共通言語として伝わる振付として構成。小さな身体を駆使してキレのあるダンスを繰り出す森田ひかるを中心に、小林由依といった実力派と共にダンスの一体感が明らかに増していたことで、よりその特徴が浮き彫りになっていた。また、本編ラストで披露された最新アルバム『As you know?』のパイロットソング“摩擦係数”では大胆にブレイクの要素も取り入れるなど、こちらも世界に届く共通言語のダンスジャンルを内包。取り上げたのはごく一部だが、全体としてダンスの面から見ても、彼女達の持つ世界基準のパフォーマンスの魅力が光っていた。
そもそも、櫻坂の楽曲は音楽性自体、世界基準のポップスに敏感なものが多い。“BAN”や“断絶”に色濃いパーカッシヴなアコースティックサウンドは、間違いなく現代のトレンドに即しているし、“制服の人魚”には世界から逆輸入的に流行となっているジャパニーズシティポップの要素が見える。そして“One-way stairs”や“摩擦係数”は、ストレートにブラックミュージックとヒップホップの要素を内包した世界的なダンスボーカルグループが描くど真ん中を見据えている。もちろん、“タイムマシーンでYeah!”のようなアイドル然とした楽曲の披露もあったが、以前までのライヴに比べて、セットリスト全体が明確に音楽性として現代のシーンに則す楽曲が増えたライヴの色は、今後の彼女たちの「らしさ」となっていくに違いない。
演出、ダンス、楽曲の世界観を映し出す表現者としての彼女たち自体の進化も目を見張るものがあった。冒頭、“条件反射で泣けてくる”でセンターを務めた山﨑に注目するだけでも、その歩みは明白。最早、最年少メンバーという肩書で語られることなく、フロントマンとして終始圧倒的なオーラを放っていた彼女。ピアノを用いた演出で見せた激情と、観客の視線を釘付けにする憂いの表情は、言語の壁を超える雄弁さを持っていた。
改名から2年が経ち、初のフルアルバムのリリースツアーを経ることで遂に開花した櫻坂らしさは、「世界」を基準に構築されたステージだった。正直、飛び道具ではない方向性でグループのらしさを構築するのは、今後他と一線を画すクオリティを求められる茨の道でもある。しかし、欅坂として、櫻坂として、一貫して「自由」であることを歌ってきたグループが、より大きな場所へ羽を伸ばそうとすることは余りにも腑に落ちる到達点であり、現在地と言えるだろう。東京ドームという場所で今までのオールタイムベスト的なセットリストではなく、あくまでアルバムの世界観を中心にライヴを披露した挑戦的な部分も含め、開花した櫻坂らしさの未来に期待できるライヴ本編だった。
「全員」に緑を手渡すために
櫻坂としてのライヴ本編を終えると、アンコールを受けた会場には懐かしの“Overture”が流れる。約3年ぶりに東京ドームに鳴り響く欅坂の“Overture”で会場は緑一色に包まれた。事前に公開されていたトレイラー映像で「fusion」という言葉と共に示唆がされていたものの、実際に会場に鳴り響いた瞬間に会場の雰囲気が変わったのは明白だった。菅井が歩んできた時間がギュッと詰まった映像のラストには、欅坂のロゴが登場。しかし、更なる熱狂を会場に生んだのは次の瞬間だ。――“不協和音”が東京ドームに帰ってきたのだ。欅坂時代においても一度は封印された楽曲。偶然にも、前回の東京ドーム公演時にも長らく披露されていなかった同曲が披露されたことが大きなトピックとなったのだが、おそらくファンも予想していなかった選曲だっただろう。欅坂としての『THE LAST LIVE』の時と同じ衣装に身を包み、当時と同様にセンターに立つのは菅井。彼女が観客に叩きこんだ、イヤモ二を振りほどくほどの鬼気迫るパフォーマンスも相まって、楽曲終了後には真っ赤に染まった会場に大きなどよめきが残った。続けて披露されたのは、菅井のセンター楽曲“砂塵”。菅井の宙に舞うワイヤーアクション、振り切れたようにテンションの高いメンバー達――笑顔に溢れたステージを観て改めて感じたことがある。菅井はキャプテンとして、本当の意味で欅坂というグループのすべてを、櫻坂に渡したかったのではないだろうか。
本当の意味で、というのは新二期生の存在にある。東京ドーム公演時はまだグループに所属をしていなかった彼女たち。彼女たちを含めた欅坂としてのパフォーマンスにこそ、意味があったのだろう。初日公演も含め、欅坂として東京ドームを経た記憶を彼女たちにも手渡すような時間は一瞬のように過ぎていったが、間違いなくエポックな出来事だった。
優しき正義
欅坂としてのパフォーマンスを終え、遂に菅井の卒業セレモニーとなった。彼女が大切にしてきた想い出を振り返るVTRを経て、サイリウムカラーのドレスに身を包んだ彼女は真っ直ぐに観客を見つめながらこの場に立てる感謝を伝えたのち、丁寧に言葉を紡いだ。
「思い返すと、本当に波乱万丈のアイドル人生でした」
「複雑でアンバランスな部分のあるグループをまとめるのは、凄く、凄く難しかったです」
「私はキャプテンとして、せめて皆さんとグループを繋ぐ架け橋になれるように頑張ろうと向き合っていました」
「周りを信じることが難しくなってしまって、心にも嘘をつかなくちゃいけなくなってしまい、なかなか笑えることが難しくなってしまった時期もありました」
余りにも素直な吐露だった。7年間のアイドル人生を過ごした彼女。余りにもデビューからセンセーショナルな存在として世の中を席巻した欅坂というグループのキャプテンとなり、衝撃的な櫻坂への改名も経て今に至るまでの道は想像も絶する苦労があったに違いない。それでも彼女が伝えたのは感謝だった。「前に進むきっかけをくれたのは、いつも見守って下さる皆様でした」と涙を押し殺すように話す姿には、余りにも彼女の暖かなパーソナリティが滲み出ていた。そして、この後に彼女が残した言葉の中に、最も印象的だった一節がある。
「大切な欅坂46も、大好きな櫻坂46もそれぞれにしかない楽曲、グループ、メンバーの魅力が沢山あります。どっちがいい悪いじゃなく、それぞれを尊重しながら、魅力を受け入れて、どっちも愛していただけたら嬉しいなと思っています」
――今まで、誰もがはっきりとファンに向けて口にせずにきたことだった。菅井はまるで“不協和音”における主人公のように、彼女の正義の上で真っ直ぐ言葉を残した。嫌が応にも比較論で語られることの多かった欅坂と櫻坂。両者が傷つけ合ってしまうような論調へのはっきりとした意思表示は、大好きなグループのことを想った彼女の願いであり、愛そのものだろう。余りにも凛とした、キャプテン菅井友香の卒業スピーチだった。
笑顔の「じゃあね」が語る未来
ファンへの感謝と櫻坂への応援を祈る言葉を残して、菅井のスピーチは終了した。その後ステージにはメンバー全員が集結。サプライズでメンバー全員が菅井に手紙を読み上げ、花を贈った。口々に語られるのは、彼女がメンバーに与えていた安心感と感謝の言葉の数々。ただその言葉以上に、菅井の卒業に際して書き下ろされた“その日まで”で生まれた光景こそが、メンバーと菅井の間に流れる愛情を語っていた。
<サヨナラ サヨナラ サヨナラ/悲しくなんてないよ>と菅井が歌って飛び込んだ同曲。独りステージに残った菅井の手を彼女のことを人一倍慕う増本綺良が誘い、アイドル人生最後の花道へと進む。二期生の後輩と絆を確かめながら走り抜けた最後には、菅井を後輩たちが抱き締める。「大好き!」という言葉を交わし合い、待つのは一期生だ。
アイドル人生すべてを共に過ごした仲間たちと綴られるステージは<今 想い出がはらはらと/瞳の奥から落ちる>という歌詞とリンクするように時間が流れていく。花道の先のステージで見せた一期生だけのパフォーマンスは、涙ではなく笑顔に溢れた時間に。1点の曇りもなく、彼女への労いと明るい未来へ繋ぐための姿がそこには存在していた。楽曲が最後へ進む中、菅井が言葉を届ける。
「今日までグループを守るために戦ってきました。悲しいこともありましたけど、最っ高に楽しかったです。7年間の応援、ありがとうございました!」
東京ドームがこの日最大の拍手に包まれる中、迎えたラストシーン。菅井は、メンバーが彼女の代名詞でもある「がんばりき」のポーズをしたメンバーたちが彩った花道を走り抜けた。そして花吹雪が舞う中、自らも「がんばりき」のポーズをとって満面の笑みでステージを去った彼女。最後の最後まで、逞しくアイドル人生を走り続けてきた彼女に余りにも似合うフィナーレだった。
最後は、菅井のあとを継いで新キャプテンとなる松田里奈がBuddiesへ言葉を届けて大団円。彼女が力強く語った「またこのステージに立てるように、切磋琢磨していきたいです。どうかこれからも櫻坂46の応援、よろしくお願いいたします!」という言葉には、新たな決意が漲っていた。東京ドームで描いた「櫻坂らしさ」を携えて、今後加入する三期生と共に進む彼女たちはどんな未来を描くのか。どんな形であれ、きっと未来は澄み渡っているはずだ。菅井が曇りのない笑顔で「じゃあね」と言えた理由は、櫻坂というグループが持つ未来そのものなのだから。
(カメラ:上山陽介)(テキスト:黒澤圭介)
セットリスト
櫻坂46「2nd TOUR 2022 "As you know?" TOUR FINAL」
2022年11月9日(水)
at 東京ドーム
Overture
1. 条件反射で泣けて来る
2. BAN
3. Dead end
4. 断絶
5. 流れ弾
6. タイムマシーンでYeah!
7. One-way stairs
8. ずっと 春だったらなあ
9. 制服の人魚
10. 五月雨よ
11. なぜ 恋をして来なかったんだろう?
12. Nobody's fault
13. I'm in
14. Buddies
15. 車間距離
16. 恋が絶滅する日
17. 摩擦係数
Overture(欅坂46ver)
En1. 不協和音
En2. 砂塵
W-En. その日まで
セットリストプレイリストはこちらから
https://sakurazaka46.lnk.to/20221108-09
櫻坂46 最新リリース情報
櫻坂46 Digital Single 『その日まで』
発売日:2022年11月8日(火)
ダウンロード&ストリーミングはこちらから
https://sakurazaka46.lnk.to/8vnizO
櫻坂46 2nd Blu-ray & DVD『櫻坂46 RISA WATANABE GRADUATION CONCERT』
発売日:2022年12月7日(水)
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初回仕様限定盤:応募特典シリアルナンバー封入
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1st Album『As you know?』
発売日:2022年8月3日(水)
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【完全生産限定盤】
CD+BD / SRCL-12174〜12176 / ¥6,800(tax in)
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応募特典シリアルナンバー封入・メンバー生写真(各形態別21種より1枚ランダム封入)
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CD+BD / SRCL-12177〜12178 / ¥5,800(tax in)
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CD only / SRCL-12179 / ¥2,800(tax in)
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