日向坂46(以下日向坂)は、4月1日(土)&2日(日)の2日間、グループにとって初となる神奈川・横浜スタジアムにおいて『4回目のひな誕祭』を開催した。
約1年前に開催されたひな誕祭は、彼女たちがおひさま(日向坂ファンの総称)と“約束の卵”という楽曲を通して交わし続けた「東京ドーム公演」という約束を果たす、メモリアルな時間となった。その後本公演に至るまでの1年間は、グループにとって様々な変革期だったと言っていいだろう。渡邉美穂、宮田愛萌というメンバーとの別れを経て、本公演の開催直前に不参加が発表された一期生・影山優佳も先日卒業を発表。一方、新たに四期生という仲間を得て(残念ながら山下葉留花は怪我で不参加がアナウンスされた)挑んだ4回目の祝祭はどのような時間となったのか。四期生の存在が浮き彫りにした原点回帰の循環、そして何よりも、彼女たちがひとつの到達点に至ってから挑んできた新たなライヴスタイルが遂に現実のものとなった時間の2日目を中心にレポートを贈る。
序盤に見た新聖地との相性
2日間共に、バックステージ席も含め超満員なった会場に影ナレが鳴る。2日目は、先日発表された最新シングル『One choice』にて表題曲のセンターとなることが発表された丹生明里、そして前シングルにてセンターを務めた齊藤京子の声が野外に響いた。中でもこれまでと違う言葉は、初日に続いて観客の「声出し」の解禁についてだろう。
コロナ禍以降、ライヴ会場でおひさまの声がメンバーに直接届くことはなかった。無観客の配信ライヴから始まり、ようやく会場の収容人数の制限が撤廃された有観客ライヴが行われたのがちょうど1年前の「ひな誕祭」。その後1年間を経て、先日の四期生「おもてなし会」では既に声出しが解禁されていたものの、日向坂全体のライヴとしては、イベントではあるものの、2020年2月に開催された『日向坂46×DASADA LIVE&FASHION SHOW』が最後の声出し可能なライヴ。以来、偶然にも同じく横浜という場所で、実に約3年振りのライヴにおける「声出し」が解禁となった。
既に影ナレの時点で会場に大きな歓声が響く中、“OVERTURE”に突入。メンバー全員がスクールバスに乗って入場し、ステージにメンバー全員が揃うとキャプテンの佐々木久美(以下久美)が「4回目のひな誕祭いくぞーー‼」と叫んでハイテンションに飛び込んだのは“HEY!OHISAMA!”だ。久美が中心となってコールを引っ張り、会場全体をグループとおひさまが笑顔で声を交し合う空間に変貌させた。
この時点で少し腑に落ちたことがある。率直に感じたのは、日向坂というグループと横浜スタジアムという野外球場との相性のよさだ。
事前に「横浜」を聖地としたい、と発信していた彼女たちだったが、正直なところ、その言葉に驚いたおひさまも多かったのではないだろうか。もちろん日向坂としてのデビューカウントダウンライヴの開催や、MV撮影などの縁はあったが、その意図は事前に掴み切れなかったところは多かった。しかし、蓋を開けてみれば、普段から選手と観客の間で応援の声が鳴り響く球場という環境で交し合う彼女たちとおひさまのコミュニケーション、空色をグループカラーとする彼女たちによく似合うブルーを基調とするスタジアムカラー……端的に言えば、彼女たちはこの地がとても似合っていた。さらに発現した彼女たちとこの地の相性のよさはライヴ最終盤で再び確かなものとなるのだが、その点はまた後述させていただく。
最初のMCでキャプテンの久美が伝えたように、ここから彼女たちは空の旅をテーマに構成されたライヴを披露していく。空色のCA風の衣装に身を包んで放った代表曲“ドレミソラシド”が会場に大きなポップネスを広げ、地元開催でいつにも増して気合十分の富田鈴花の堂々たるラップがさらに会場に熱を灯す。続いての“アザトカワイイ”は、舞台出演で多忙な中での出演に心配の声もあった佐々木美玲(以下美玲)がセンターとして抜群の安定感を見せつけ、ライヴナンバー“ソンナコトナイヨ”までを走り抜けた。
ここまでの序盤戦、特に印象的だったメンバーがいる。今回のライヴで遂に全編に登場し、本格復帰を果たした小坂菜緒だ。久しぶりにセンターに立った“ソンナコトナイヨ”で会場に響き渡った同曲名のコールを噛みしめるような表情をはじめとして、自然体の笑顔でステージに立つ彼女の表情がとても煌めいていた。実は、同曲を有観客かつ声出しができる状態で彼女がセンターに立ったのは初のこと。グループとしてもエポックな瞬間を過ごした彼女の笑顔は、やはり不可欠なものであると再確認する時間となった。
日向坂のポップに満ちた楽曲でまず序盤戦を走り抜けた彼女たちは、ここから次のタームへ移っていく。『ひな誕祭』というイベントが特別なものである所以を存分に証明することとなる、グループとしての美しい循環と進化を目撃する時間となっていった。
新世代が際立たせた循環する原点と個性
ここから展開された終盤に入るまでのライヴは、各期生楽曲やレアなユニット曲、そしてひらがなけやき時代の楽曲を披露する時間となっていた。
まず触れたいのは、冒頭を飾った四期生の姿。残念ながら山下はMCでの出演のみとなったが、彼女たちが見せた姿が過去のひらがなけやき時代の日向坂のメンバーの姿と重なったことに触れたい。『おもてなし会』というひとつの節目を越え、さらに堂々としたステージを目撃することとなった“ブルーベリー&ラズベリー”。しかし、初めてのステージとなった昨年の秋に比べてパフォーマンス自体は間違いなく洗練されていたのにもかかわらず、彼女たちの姿に最も感じた要素は「我武者羅さ」だった。特に正源司陽子の姿がその象徴的なもので、力いっぱい腕を振り上げながらおひさまを扇動する姿は、かつてひらがなけやきが欅坂46のライヴの中で与えられた短い時間で観客を掴もうと、すべてを出し尽くす姿を想起させるものだった。
ライヴ後半、その理由は更に明確になる。彼女たちは“青春の馬”という楽曲を本ライヴで披露したのだ。楽曲前に会場に流れたVTRの中でTAKAHIRO氏が「初めから最後まで全力で走るんだ」と語っていたように、全力のパフォーマンスと共に日向坂というグループのハイライトを生み続けてきた同楽曲は、今新たな仲間の背中を押す存在に。ひらがなけやき時代のような我武者羅さを彼女たちが携えることができたのは、同楽曲のパフォーマンスを経たことも大きな要因だったに違いない。間違いなくグループの根幹にあるバトンは引き継がれているーーそう確信を持てる四期生のステージは、逆説的に「我武者羅さ」の先で独自の個性を掴んだ、先輩メンバーの個性をより際立たせる結果ともなった。
四期生に続いて“ゴーフルと君”を披露した三期生は、髙橋未来虹がMCでも話したように、先にグループに加入していた上村ひなのを除いて、初の声出しが解禁されたライヴを存分に楽しんでいた。彼女たちも我武者羅さばかりが目立つ時期もあったが、加入当初から配信や歓声のない環境でのライヴを余儀なくされていた結果なのだろうーー彼女たちは今グループの中で、最も表情をコロコロと変化させながらステージングをする集団となった。彼女たちに与えられた楽曲がすべてカラフルかつポップな楽曲だったこともあり、今日向坂の中で唯一無二のアイドル然とした存在感を放つ彼女たち。上村のソロ曲としてリリースされた“一番好きだとみんなに言っていた小説のタイトルを思い出せない”を今までにない笑顔を携えて三期生全員で披露した姿、上村が初日に語った感謝の言葉に同期が涙するシーンなど、彼女たちにとって、これまでで最もハイライトの連続となるような時間となったに違いない。
初日の一期生に代わって、スタンド席に乗り込んで“Dash&Rush”を披露した二期生の姿は、彼女たちが今グループの中心であることを完全証明する時間に。彼女たちが初期より携えていた美しさと力強さに加え、おひさまとのコミュニケーションも忘れない余裕のあるパフォーマンス。昨年からグッとエース格として確立した金村美玖の頼もしさはもちろんのこと、昨年の悔しさを歓びで表現するようにおひさまと笑顔でコミュニケーションをとる濱岸ひよりの姿も印象的だった。しかしながら、やはり真骨頂は後半に披露した“半分の記憶”か。ここ最近グッと大人びた河田陽菜の表情も相まって、彼女たちだけがもつ情熱をセンチメンタルに描く姿はさらなる進化を遂げていたと言える。「全員エースの日向坂」を地でいくようなパフォーマンスは、仲間との別れを経た今、さらに強固なものとなっただろう。
しかし何よりも圧巻だったのは、“好きということは…”で一期生が魅せた姿。彼女たちがこのグループの根幹を創ったという事実を再確認する、底抜けの明るさと絶対的なライヴパフォーマンスの強度を見せつけた。中心で全体を引っ張る美玲はもちろん、加藤史帆の振り切れたような笑顔のパフォーマンスは、彼女がグループの最前線に立ち続けてきた時間をすべて証明するような時間に。我武者羅さの先にある、おひさまと最短距離でハッピーオーラを分けあうような時間は圧巻だった。
四期生が我武者羅な姿をみせたからこそ際立った、各期生の個性と実力。その状況をグループとして不変の姿勢が生んだということは明白だった。変化し続けるグループの状況下においても、『ひな誕祭』の度にひらがなけやき時代の楽曲は多く披露される。その際に、今なお会場は緑に染まり、会場はハッピーオーラに包まれる。その光景は新たな仲間である四期生にも強く刻まれるはずだ。『ひな誕祭』という存在は、ただの祝祭であるという側面を越え、グループ全体が原点を失うことなく進むためにも存在しているのだ。
グループの原点となるような姿勢は今も新たな仲間にしっかりと受け継がれているということ、そして立ち止まることなく歩み続けたからこそ生まれた、それぞれの個性。グループとしての美しき循環が未来へ繋がっていくことを再認識する時間となった。
遂に具現化した終着地
山口陽世×アレックス・ラミレスによる始球式を行うなど、多くのトピックに溢れる時間の中で、もちろん日向坂としての強固なパフォーマンスは健在。“こんなに好きになっちゃっていいの?”では、久しぶりにセンターに立った小坂の儚げな美しさが最大限に発揮され、“月と星が踊るMidnight”では今メディア露出もメンバー随一の齊藤の凛々しき歌声と憑依型の表情変化に痺れる光景を目にすることができた。
そして、最早大舞台での代名詞ともいえる、会場が大きくなればなるほど圧倒的な熱量を放つ久美のファシリテーションに乗せて届けられたキラーチューン“誰よりも高く跳べ!2020”は、疑問の余地もなくおひさまを最高潮の熱狂に誘うハイライトを描いた。
しかし、この日ライヴとして最も触れるべき楽曲は、“知らないうちに愛されていた”。「遂に」という表現が最もふさわしい瞬間を本楽曲で迎えたからだ。
“約束の卵”というライヴにおけるゴールを失った彼女たちが、『W-KEYAKI FES.』から挑んできた本楽曲を終着地に据えるライヴスタイル。「いつか一緒に歌える日が来ますように」という言葉をおひさまに伝えながら披露され続けた日々は、終わりの見えないコロナ禍にあって、「願い続ける」月日だった。ーー愛というものの刹那が歌われる中、久美がおひさまに語りかける。
「“知らないうちに愛されていた”という楽曲は、まだまだコロナ禍で声が出せない時に生まれた楽曲です。でもいつかおひさまの皆さんと一緒に歌える日を願って、ずっと歌ってきました。その夢が今日叶います! 皆さんで一緒に歌ってください!」
遂に訪れた、互いの声の足跡が重なる瞬間。ーーステージから退場する際に「素敵な声だった、ありがとう!」と呼びかけた富田の言葉がメンバーの想いだろう。「あれからこの曲が 風に乗り流れて来ると/ピアノを弾いている君を思い出すんだ」という歌詞にあるように、横浜に吹く風の中で共に歌ったメロディを、きっとおひさまもメンバーもこれから先思い出すに違いない。新聖地が野外であるという偶然も相まって、最も美しい形で目指してきたオーディエンスとの一体感が創出された瞬間は、グループの歴史がひとつ刻まれた瞬間だった。
再び“ハッピーオーラ”と語るセンター
その後のアンコールでは、新シングル“One choice”、“NO WAR in the future 2020”、“JOYFUL LOVE”が披露された。影山の登場、アカペラの“期待していない自分”で美玲を同楽曲の演出のように走らせるシーン、新たなセンター丹生がラジオで話していたようにオレンジ一色に染まった会場から元気玉をもらうシーンなど、多くの心温まるシーンがあった。しかし、何よりも語るべきは、ラスト、影山や山下も含めた32人全員で披露された“JOYFUL LOVE”の中で目撃したシーンである。
今回の『ひな誕祭』は昨年とは大きく異なるものだった。昨年は遂に辿り着いた東京ドームという場所で、ひらがなけやき時代からの足跡を明確に辿り、未来への可能性を示すセットリストが2日間で組まれていた。一方、今年は変動の1年を経て、再び原点を取り戻しながら、目指し続けたライヴを現実のものとした上で、未来を提示する時間だったと言える。前述したように、グループに流れる美しき原点の循環はライヴ自体からも伝わってくるものだったが、さらに大きなトピックが存在していた。新たにセンターとなった丹生が残した言葉である。
「私は、私たちは絶対に初心を忘れずに、そして感謝の気持ちを忘れずに世界中のみなさんにハッピーオーラを届けたいです」
ひらがなけやき時代から一時期まで、彼女たちを表すキーワードとして最も大きなものは「ハッピーオーラ」という言葉だった。しかし、この2日間のように節目節目で同名の楽曲自体は披露されてきたものの、実は最近の彼女たちのライヴの中でこの言葉はそこまで口にされていなかった。しかし、この日新たなシングルでセンターに立つ丹生は、はっきりと「ハッピーオーラを届けたい」と言葉にした。
昨年約束の地でのライヴを終え、大きな別れと出逢いがあった1年間。グループは間違いなく変革期だった。ライヴスタイルの変化も余儀なくされ、メンバーが置かれる環境も、すべてが約束の地へ向かう時間とは異なるものだった。しかし、本ライヴで新たな仲間にもグループの原点ともいえる我武者羅さが発露し、新たなライヴの終着地も遂に現実のものとなった。そんな状況の中で、新たなセンターが再び「ハッピーオーラ」というワードを口にしたこと……それは、また日向坂というグループが新たなページに向かう準備ができたという証ではないだろうか。昨日公開された“恋は逃げ足が早い”のMVも含め、過去に縋るのではなく、再び原点を見つめることで、過去を捨てることなく先へ進むという意思表示。ーーやっと、日向坂は本当の意味で新章へ向かうことができる。
最後に、「横浜」そして「横浜スタジアム」は新たな日向坂にとっての聖地となっていくのか?ということに関して触れ、このテキストは終わりとする。その答えは、この日も会場に生まれたペンライトの虹が示していたように思う。横浜という街のシンボルでもある極彩色に輝く観覧車が、この地にもうひとつ生まれたような光景ーー日向坂とおひさま以外は創り出せないあまりにも美しき光景が産まれた事実にこそ、その答えはあるように思う。
「これから私たちはどんなことがあったって、一緒に大きな夢をかなえていけると信じています」ーー久美が語った言葉と共に、本当の意味で新たなタームへ向かう彼女たちの、たったひとつの選択に期待したい。
(カメラ:上山陽介)(テキスト:黒澤圭介)
セットリスト
日向坂46「4回目のひな誕祭」
2023年4月2日(日)
at 横浜スタジアム
Overture
1. HEY!OHISAMA!
2. ドレミソラシド
3. アザトカワイイ
4. ソンナコトナイヨ
5. ブルーベリー&ラズベリー
6. ゴーフルと君
7. Dash&Rush
8. 好きということは...
9. ハッピーオーラ
10. ひらがなで恋したい
11. Footsteps
12. 線香花火が消えるまで
13. Cage
14. ハッピーバースデイ
15. 一番好きだとみんなに言っていた小説のタイトルを思い出せない
16. こんなに好きになっちゃっていいの?
17. 半分の記憶
18. 月と星が踊るMidnight
19. 青春の馬
20. My fans
21. 誰よりも高く跳べ!2020
22. 知らないうちに愛されていた
EN1. One choice
EN2. NO WAR in the future 2020
EN3. JOYFUL LOVE