「女性リーダーが増えると、社会は変わる」パリテ・アカデミー札幌開催レポート
2026.06.09
こんにちは。HTBアナウンサーの森さやかです。ジェンダーコレクティブ北海道の運営メンバーとしても活動している私ですが、今回は2026年6月6日に札幌市男女共同参画センターとの共催で開催された、パリテ・アカデミー「on the road in Sapporo」に参加してきました。
私がジェンダー課題に強く意識を向けるようになった大きなきっかけの一つが、5年前に発表された「都道府県版ジェンダーギャップ指数」でした。
北海道が行政・経済・教育の3つの分野で最下位(47位)という結果に大きなショックを受け、HTBでも毎年この課題を伝えてきました。さらに「現状を変えたい」という思いから、3年前から国際女性デーの3月に「ミモザマルシェ」というイベントを立ち上げ、北海道の女性たちのエンパワーメントを訴え続けています。
このランキングを発表し続けているのが、上智大学の三浦まり教授です。
今回、三浦先生が札幌にいらっしゃるということで、「どうしてもお会いして直接お話を伺いたい!」と会場へ足を運びました。
熱気にあふれたイベントの内容を、レポートします!
パリテ・アカデミーとは?
「パリテ(Parité)」とは、フランス語で「同数・均等」を意味し、政治における男女同数を目指す概念です。パリテ・アカデミーは、三浦まり先生らが共同代表を務め、女性の政治参画を広げるための実践的なトレーニングを提供する機関です。
今回は「on the road」という名前の通り、出張版として初めて札幌で開催されました。冒頭、札幌市男女共同参画センターの菅原さんから「私たちの足元から変化が生まれるといいな」というご挨拶で、温かくも熱いセミナーが幕を開けました。
第1部:三浦まり教授 講演「地方政治に女性の参画が必要な理由」
第1部は、三浦先生による基調講演です。法律や予算といった社会のシステムチェンジには、意思決定の場(議会)に女性が入っていくことが不可欠だと語られました。
国政では首相が女性になったものの内閣にはまだ3人しか女性がおらず、衆議院では女性議員が減少し、参議院でも3割にとどまるなど、長年の10%時代からは脱したものの停滞が見られます。一方で、「グッドニュースとしては、地方選において女性候補者が強い」という力強い言葉がありました。
都道府県版ジェンダーギャップ指数から見る北海道
5年前のランキングで北海道は政治以外の分野で47位でした。政治分野が比較的良かったのは、高橋はるみ前知事の存在や女性国会議員がいたためです。その他の分野が低迷している理由として、北海道特有の面積の広さ(地理的理由)や、第一次産業が多く町村単位の構造が残っていること(経済的構造)が挙げられました。
道庁もプロジェクトチームを立ち上げ、直近では46位に上がったものの、長野県や茨城県のように「トップ10に入る」と知事が明言し予算をつけるような、トップの強いリーダーシップと熱量が北海道にももっと必要だと指摘されました。
なぜ女性リーダーは増えないのか?
三浦先生は、地域で女性を増やそうとする際にぶつかる「壁」についても解説してくださいました。地域の意思決定層には、以下のような声が根強くあります。
- 今までこれで問題なかった
- なんで変えなきゃいけないの?
- 数値目標は単なる数合わせだ
- 女性自身がリーダーになりたがっていない
これに対し三浦先生は、「問題がないのではなく、問題に気づいていないだけ。声が届いていないということなのでは?」と率直に伝えるそうです。
ジェンダーギャップの放置は、女性が抱える困難が放置され、能力を発揮できず、結果的に経済的・社会的損失につながります。さらに、女性が都市部へ流出し、地域社会の縮小を加速させるという「本質的な危機感」を地域全体で腹落ちさせる必要があります。
女性が政治家になることで、多様な当事者の声が反映され、これまで「当たり前」とされてきた政策や社会の仕組みが根本から変わっていく。その必要性を考えさせられました。

女性議員が増えると、社会はどう変わるのか?
では、実際に議会に女性議員が増えると何が変わるのでしょうか。
三浦先生の分析は、非常に興味深く、そして希望も感じられるものでした。
日本にはいまだに「性別役割分業」の意識が色濃く残っています。しかし、それは見方を変えれば、女性たちが生活の中でより多くのケア労働や困難に向き合ってきた分、「女性の方が、生活に根ざした経験値が圧倒的に多い」ということでもあります。
また、議員を志す「動機」にも違いが見られるそうです。男性中心の政治の世界に女性が飛び込むには、周囲の反発を押し切るなど、相当な覚悟をしなければ入れません。だからこそ、なんとなくではなく「強い動機と明確な使命感を持っている人が、男性よりも多い傾向にある」のだそうです。
議会に入った女性は、まずは「女性を代表する立場」として奮闘し、活動の中で改めて「女性が抱える困難の多様性」を自覚していく人が多いと言います。しかし、ここからが非常に興味深いポイントなのですが、江別市議会のように女性議員の割合が4割、5割に達すると、フェーズが変わるそうです。
女性が少数派のうちは、どうしても「女性代表として女性のための政策をやらなければ!」と重い責任を背負いがちです。しかし、人数が増えて当たり前の存在になれば、その重い肩の荷を下ろし、「女性性をおろした活動」が可能になってくるのです。「女性議員」という枠組みから解放され、一人の議員としてより自由に、多様な課題にフラットに取り組めるようになるというお話には、大きな可能性を感じました。
私たちが日々の暮らしの中で感じている「生きづらさ」。
その背景には、実は国の制度や政策が大きく関わっています。
だからこそ、その本質的な解決には「政治」の力が絶対に欠かせないのです。
第2部:女性地方議員によるパネルセッション
第2部は、北海道内で活躍する現役の女性地方議員4名をパネリストに迎え、三浦先生のモデレートで進められました。
「議員になって感じた“やりがい”」
旭川市議会議員の小林ゆうきさんは、女性支援団体の代表として要望しても動かなかった行政が、議員になると「あなたの後ろには3000人の支援者がいる」と話を聞いてくれるようになったと語りました。
4年間訴えても変わらなかった図書館のWi-Fi設置や、ある時ふとコメントした男性トイレの小便器の仕切り設置など、議員になったことで反映されるようになったエピソードを紹介。
三浦先生は、それが選挙で選ばれた正当な『権力』であるとし、『ふと口にしたことが社会に反映される』という事実から、『これまでの男性議員の意見がいかに大きな影響力を持っていたか』を指摘しました。「旭川市民は小林さんがいることで、女性の視点を反映できるという恩恵を受けているのだと思う」と、感想を述べられました。
室蘭市議会議員の滝口紘子さんは、コロナ禍での「生理の貧困」への対応を挙げました。女性課長との連携もあり、学校への生理用品配置を実現。また、ことばの教室へのアクセス格差をなくすため、室蘭市内の拠点を2カ所から3カ所に増やすなど、生活に密着した課題を次々と解決しています。
江別市議会議員の高柳りささんは、ご自身の不登校経験を活かし、当事者の保護者に深く寄り添えることをやりがいとして挙げ、浦幌町議会議員の竹田風子さんは、人口4000人弱の小さな町だからこそ、町民から直接声を届けやすい身近な存在になれる喜びを語ってくれました。

立ちはだかる障壁と困難
一方で、リアルな苦労や失敗談も赤裸々に語られました。
- 無意識のジェンダーバイアス: 竹田さんは「福祉や子育ては俺たち男性には分からないから頑張れよ」と悪気なく言われることへのモヤモヤを吐露。役所の非正規雇用に女性が多い現状に対し「予算がない」と片付けられるなど、根深い性別役割分業との戦いが続いています。
- SNSの恐怖とルッキズム: 滝口さんと高柳さんは、SNSでの発信の難しさを指摘。切り取りやバッシング、ルッキズム的な批判のリスクがあり、時には割り切ってSNSから離れ、自分を守る時間も必要だという切実な声がありました。
- 孤独さと議会ルールの壁: 小林さんは「孤独さ」を語りました。また、会派制の壁により同じ女性議員同士でも協力しづらい現状や、「議場への水持ち込み禁止(旭川市)」といった議会ルールの存在も浮き彫りになりました。
三浦先生からは、過去に「ゴムスカート禁止」「サブリナパンツ禁止」といった不可解な議会ルールが存在したことや、議員の住所公開によるセキュリティリスクなど、まだまだアップデートが必要な仕組みが多いことが補足されました。
政治を孤独にしないために
会場からの質問では、ハラスメントの現状についても問われました。
小林さんは、党内や味方であるはずの陣営内でも人権意識が低く、「子どもがいれば母親として売り出せるのに」といった言葉を女性議員から投げかけられることもあると、厳しい現実を共有してくれました。
私たち市民がどう議員と関わるべきかという問いに対し、登壇者からは「選挙の時だけでなく、普段から政治を孤独にしない雰囲気を作ってほしい」「議員は完璧な存在ではなく、市民である限り誰でもなれる仕事」というメッセージが送られました。
「女性リーダーが増えると、社会は変わる」。
今回のパリテ・アカデミーに参加して、その言葉が確かな現実であると感じました。
Wi-Fiの設置、生理用品の配備、ことばの教室の拡充。これらは決して小さなことではありません。政治の場に多様な視点が入ることで、これまで「見過ごされてきた声」が掬い上げられ、私たちの日常の景色が確実に変わっていくのです。
北海道のジェンダーギャップは、まだまだ課題が山積しています。しかし、各地域で奮闘する彼女たちのような存在が「都市の風」を周辺地域へ届け、着実に波紋を広げています。私たち一人ひとりが、一緒に考え、声を上げていくこと。それが、この北海道をもっと豊かで住みやすい場所にしていく第一歩だと強く感じました。
~森さやかの思うコト~
北海道がジェンダーギャップ指数の行政・教育・経済の3分野で最下位に沈んでしまった理由。
それは「北海道は面積が広く、地理的なハードルが高いから」「第一次産業が多く、経済的な構造によるものだから」といった要因ももちろんありますが、今回三浦先生のお話を伺って、それ以上に深く突き刺さった言葉がありました。
それは、道庁もプロジェクトチームを作って努力しているものの、他県と比べると「知事のリーダーシップが弱い」というご指摘です。
例えば長野県は、知事が「全項目をトップ10に引き上げる」と明言して県を挙げて動いています。茨城県に至っては、知事が「3年以内にトップ10に入る」と明確にコミットし、そのための予算もしっかりとつけて仕組みを回しているそうです。
三浦先生の「他の県は、もっと熱量がある」という言葉に、私はハッとさせられました。北海道も現在進行形で様々な努力を重ねてはいますが、「何としてでも現状を変えるんだ!」というトップの、そして地域全体の本気の熱量がまだまだ必要なのだと、痛感させられたのです。
そしてもう一つ、強い危機感を覚えたのが地域コミュニティの現状です。
行政の各種審議会などでは女性の参画が比較的進んできましたが、地域の防災会議や自治会となると、女性のリーダーが極端に少ない現状があります。これは、消防団や町内会など、各分野の代表(トップ)がそもそも男性ばかりであることが大きな原因です。
三浦先生から「みなさんの地域は、一人一票の自治会ですか?」と問いかけられた時、思わず息をのみました。「一家一票」のシステムだと、どうしても世帯主である男性の意見がメインになってしまいます。つまり、私たちの生活に一番身近な地域の決定において、「女性にはまだ実質的な参政権がないに等しい」ということです。
国や道といった大きなシステムの変革ももちろん不可欠ですが、まずは私たちの足元である「地域」のあり方、意思決定の場を変えていくことがいかに重要か。
今回のパリテ・アカデミーでの気づきを胸に、私自身ももっとしなやかに、一歩ずつ確かな足取りで活動を続けていきたいと、改めて心が動かされました。
