『次の受け入れ先が見つからない』コロナ最前線の病院・・院長が語る

第1波、第2波をコロナの最前線に立つ病院はどのように乗り越えてきたのでしょうか?
院長が語る、医療現場の“現在地”です。

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市立札幌病院は北海道医療センターとともに新型コロナの患者を多く受け入れてきました。3月中旬、第1波の最盛期のときに、27床。重症患者4床。4月に入った第2波以降は一時的に31床まで増やして、重症用も8床。さらに4月下旬には51床まで増やしていました。一番逼迫すると予想していた連休明けには全部で71床。重症者も16床、人工呼吸器も16台まで使えるような体制にして臨んだといいます。

病院内では一部の病棟を止めるなどして対応に追われていました。もともとあった感染症病棟の所に別の病棟の看護婦を配置するなどそのときに応じて体制を変えていったといいます。
市立札幌病院 向井 正也院長は『普段7:1って、患者さん7人に対して看護師が1人が常に配置されるような状況なんですけど、その状況、感染症の対策として看護師さんの方が非常に必要だということで、だいたい患者さん2人に看護師さん1人が配置できる体制が必要になったものですから、全病棟から看護師さんの応援を出しまして、普通に入れる患者さんの数が大幅に減ってしまった状況になったのと、救急部を全面的にコロナに特化したので、3次救急や2次救急を全く受けられなくなってしまった。』と話します。

取材をした6月24日の時点で、病床は49床を準備、入院患者は減って11人。6階の東西と救急のHCUとICU、4階の精神フロアもまだコロナ用です。
人工呼吸器を付けた患者は最大で9人ほど。急変しやすいこともあって対応は難しく、主に救急の医師が請け負っていたそうです。

『これまでの受け入れ患者数は全部で177人。札幌市全部で患者は760名(6月24日現在)。札幌市外からも来るが石狩管内はほぼすべて北海道医療センターと当院で受け入れていて、みなさん協力してやり切った』と話します。

医療従事者の疲労も蓄積

『かなり疲労は蓄積していて、市民も一緒だと思うが、医療者も日々同じことを繰り返すだけなんですね。病院と自宅との往復を繰り返していて、ストレスを発散したりというのは全くできない状態なので、かなり心身ともに疲れていると思う。(差別偏見は)当初は理不尽な差別というか偏見はあったけど、最近は耳にすることも減ったので、市民の方への理解が深まったのかなと思っている。』

介護施設の集団感染

『幸いなことにコロナの感染者は最大で71床の6割しかはいらなかったのでちょっと余裕はありました。ただ人員的には(茨戸)アカシアハイツの介護が必要な人がたくさん入ったので、その人たちへの看護度っていうのは極めて高かったので、看護師の疲労はかなり大変だった。我々は高度急性期医療で、普段、介護が必要な人はあまり入ってこないので、あんなにたくさん、また介護の質も違った人も入ってきましたので、看護師さんたちもかなり大変だったのと、院内感染がおこるのが一番心配だったので、それだけは防がなければいけないというところで苦労したところだと思います。』

『アカシアは札幌市から状況を聞いたときにかなり悲惨な状況だったので、あそこの感染者を病院で引き受けなければ、改善するのは難しいだろうということで、そういう事態を聞いてからは当院で積極的に患者を受けるようになりました。他のところもそうだと思うが、看護師もかなり大変だったんですけど、積極的に受け入れてなるべく患者をいい状態に保とうと努めました。』

『全然動けない人がいたり、そういうヒトたちの体位交換も一人の患者に2~3人かけてやったりとか、動ける人は徘徊していろんなところに出てきたりということもあったので、そういうヒトたちを止めたりなだめたりすることも必要だったので、けっこう看護師たちは大変だったと思います。あとは動いたらすぐわかるようなセンサーを付けたりして、動いたらすぐ飛んでいくというようなことはやってましたけど、看護師も一回防護服を着ると、一回に2時間くらいしかできないものですから、その間にまた人を交代したりというのがあるので、なかなか大変なんですね。』

病院に介護スタッフの配置は難しい

『病院にはそもそも介護士はいない。高度急性期病院なので介護スタッフは普段常駐していないので、そこはこういう急性期の病院ではなかなか難しいところ。一時的に市内のほかの医療現場から介護スタッフを一時的に市立病院に置く案も出たが、制度的にそれをすぐに実行することも難しいところもあったのと、介護スタッフを感染症病棟に入れるとなるとその人たちの感染防護にもかなり気を遣うことになりますので、なかなか知識もない人が多いので、教育にも時間がかかるので院内感染を防ぐのが一番大きな命題だと思いますのでそういう意味では看護師さんに大変負担にはなったけど、当院の看護師ずいぶん頑張ってやってくれたんじゃないかなと思っています。』

次の課題は“アフターコロナ” 高齢者の陰性後の病床確保

『別な札幌市以外の高齢者の医療機関でもクラスターが発生したことがありまして、その患者さんもアカシアハイツの前に受け入れたのですけど、その方々も陰性になっても元の病院に移せないということがあって、札幌市内でもいまはコロナの陰性感染者を受け入れてくれるところがあるのですが、その当時はなかったので、どこにも移せないってことで、次の受け入れ先を探すのがかなり大変でしたね。ひとつはいろんなところで「再陽性化する」ということが報じられていたので、どの施設も同じですけど、院内感染はぜひとも防ぎたいということがあるので、再陽性化したときに当時は10日以上経ってもまだ感染力があるんじゃないかということが疑われていたので、いったん陰性になってもまた陽性になるのではということをかなり恐れられていた。その結果として受けてくださらなかったということだと思いますね。』

『人工呼吸器にいったん付けた方で、うんと高齢だと肺がおちついても人工呼吸器を外せない人がいらっしゃる。ウイルスが陰性になっても。そういう方は人工呼吸器のリハビリの病院に移らなければいけないのですが、そういうところが充足していないので、そういう施設を増やしていただきたいのと感染して10日くらいした場合にはウイルス陽性でも感染力が大幅に落ちているということもありますので、医療資源の有効利用のためにも後方病院の施設を充実させて置いた方が、将来のためにもいいのではないかと思います。』

新たな課題の解決策は?

『とくに民間病院の協力が必要。我々のところでも今回の病床の削減に伴って5月だけでも5億の収入減、4月5月だけでも8億の減収になっていますので、民間病院にそういう負担を強いれるのかということになるので、経済的な裏付けが国の方で民間病院が協力してもあるんだって示していただかないと、民間病院ではなかなか医療施設の継続ができるかということに関わってくると思いますので、そういう裏付けがなければなかなか難しいのではないかということがわかりました。設備よりもベッドを確保しなくてはいけないので、日々入ってくる、例えばうちの病院だと一人当たりの単価が7万円あるのですけど、それが半分くらいまで患者が入らなくなると、それだけでも一日当たり何百万と減収ということになりますので、その分、確保していても患者は入ってこないし、コロナの患者さんが入ってきても確保した分の一部しか入らないことになりますから、大変そういう意味では医療を継続するのは経済的には難しいと思います。』

“アビガン“”サイトカイン“ 治療法は?

『大きくは変わっていないんですけど、当初はアビガンも使う時期がうまくいけばいいのかなと思ったのですけれど、遅くに使うとあまり有効性がどうかなというところもありますので、対象群を置いたきちんとした治験をやらないと評価はできないのかなと思っているところですね。』

現状は、治療法は一部の薬と人工呼吸器しかないのでしょうか?

『いまのところそれしかないのかなと。重症化を防ぐために私は専門がリウマチや膠原病なのですけれど、そちらの薬の中でサイトカインという免疫でいうホルモンみたいなもの、その暴走を抑える薬が治療にある程度有効なんではないかということで、それについても治験をやりたいということでやっているんですけど、なかなか患者が今いないので。現在、いくつかの製薬会社から様々な治験の話は来ているが、患者が減ってきているので新たな薬を試すのは難しい状況になってきているのかなと思います。』

『一方、いったん免疫がついたときに再感染しないかということなんですけど、東大の実験で、実験動物で一度感染させてもう一度再感染させようと思ったら感染しなかったというのがありまして、もしかしたらいったん免疫がついたらしばらくは感染に対する防御ができるのかなと思いますので、ワクチンができたらうまく感染をコントロールできる可能性があるのかもしれない。ただ、終生免疫になるかはわかりませんので、そこは長い目で見ていかないといけないのかなと』

第3波へどう備える?

『現在はずいぶんみなさんから支援をいただいて、すぐに足りていないものはないけど、今後はサージカルマスクとか第3波がきたら足りなくなるかも、しれないということは心配している。』

『病院としては今回のことでどうやって病床を準備したらいいかっていうことがある程度ノウハウがつかめたので、それに対しての以前の経験を糧にして何とかできると思う。それでもせいぜい当院で用意できるのは71床が限度かなと思います。ですから、それ以上に患者が増えると当院だけでは対応できないということになりますし、市内の病院の状況をみても、北海道医療センターもずいぶんたくさんやっていただいて、われわれと北海道医療センターとほかの医療機関と、ここまで準備できたのが一応、最大数だとは思いますので、やはり爆発的に患者が増えるということは避けていただかなくてはいけないので、“新北海道スタイル”、“3密を避ける行動”を今後しばらく、ワクチンができるまでは肝に銘じてやっていただければと思います。』

HTBでは医療従事者の日々のたたかいを描いたドキュメンタリー テレメンタリー2020 たたかう生命の守り人 を 放送します(北海道 7月11日(土)午後1時半~ 日時違い全国放送)。こちらも是非ご覧ください。

テレメンタリー2020 たたかう生命の守り人

7月11日(土)午後1時半(北海道)
https://www.htb.co.jp/telemen/inochi/

全国日時違い放送
https://www.tv-asahi.co.jp/telementary/

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この記事を書いたのは

HTB『たたかう 生命の守り人』スタッフ

7月11日(土)午後1時半からコロナ禍での医療従事者の方のドキュメントです。
【テレメンタリー2020 たたかう 生命の守り人】
(全国放送の時間は【テレメンタリー2020】 のサイトにてご確認ください)
20代の女性ディレクターが心を込めて絶賛編集中!

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