『警戒ステージ3へ 冬を前に・・・』”介護崩壊”はなぜ起きた? 新型コロナウイルス第3波を前に②

今年5月、北海道を襲った新型コロナウィルスの感染第2波。
その波の中で起きていたのは”介護崩壊”でした。

札幌市の介護老人保健施設、茨戸アカシアハイツ。
最終的には92人が感染、17人が死亡しました。

HTBは市の報告書と施設の報告書、さらに独自取材を加えて
なぜ起きたのかを検証しています。

5月、新型コロナ関連の札幌市の感染会見で記者が尋ねました。

記者『感染症の防護の専門家はいるのでしょうか?』
市「介護老人保健施設なので、ドクターの方がいらっしゃると。」

アカシアには施設長として、医師がいたのです。

記者「アカシアハイツのことを聞きたい…」
医師「あまり詳しく知らない」

この医師は80代後半と高齢でした。
自らの感染を防ぐため、入所者の診察や直接の治療はしていなかったと
複数の関係者が証言しています。

関係者は「普段から何かあれば病院に回すだけの医者だから、コロナ患者に何か医療をと言っても難しいでしょう」と取材に応えています。

本人を何度訪ねても、当時の話は聞けませんでした。
「何も答えられない」「何もないんだって。」

”介護老人保健施設”通称 ”老健”。

病気やけがで入院した高齢者が、自宅へ戻るためリハビリを受ける”短期入所施設”です。
健康管理のため、入所者100人に一人、常勤の医師の配置が義務付けられています。

国は『陽性の高齢者は原則入院』としながらも医師がいることを理由に、老健での陽性の入所者の留め置きを容認。
そのため、全国で大きなクラスターが発生し、富山県の老健では15人が、千葉県の老健でも14人の入所者が亡くなりました。

33年前、老健の設立にかかわった平山登志夫さんは、
老健への感染者の留め置きは、国の押しつけだと話します。

平山さん「最初のスタートのときから、病気が安定している人を入れるっていうのが老健の条件だったから」「治療する医者じゃなくて管理する医者が1人いる施設だって認識がないとね。」

リハビリが主な目的とされ、もともと医療設備は最小限。ほとんどが相部屋で感染症に弱い作りです。設立当初と違って、認知症や介護度の高い人も増えています。

「いまは入所する人はもう90歳が平均、そうなると病気がいくつもあるし家にも帰れないというのがいまの老健になっちゃった。」
「そこへコロナの人を入れるっていうのはもともと無理な話。」

5月の連休が終わろうとするころ、札幌市は重症者用のベッドを準備したと発表しました。

秋元札幌市長「病院のほうは、32床に加えてほぼ50床近く準備はできております。」

しかし、まだ搬送は始まりませんでした。アカシアには基礎疾患や介護度、感染後の経過をまとめた資料がなく受け入れ先の病院との調整が進まなかったのです。人手不足、さらに感染エリアとそうでないエリアへの行き来が困難で、資料も満足に作成できる状況にはありませんでした。

5月1日に感染がわかった、87歳の女性。家族はずっと入院を求め続けていました。

遺族「汚れたシーツ、汚れた洋服、そういう状態で」「レントゲンひとつ撮られないで、状況がわからなくてただ亡くなった。で、戻ってきたら骨箱ですよ。」「腰椎を骨折したので車いすだけど、自分で食事もできるし話も普通にできるし」「職員はどんどん入院させているわけですよね、なのになぜそこに入っている老人だけは、年寄りだからということで入院させなかったのかって。」

5月11日に容体は急変。新型コロナウィルスの感染拡大で面会も叶わず、最後に見た姿はテレビ電話越しの苦し気な表情でした。この翌日の未明に、女性は心肺停止の状態で見つかりました。

遺族「「命の選別」をしたんです。やっぱり。私たちはずっと確信的にそう思ってます。」

アカシアハイツから初めて患者が搬送されたのは、女性が亡くなった、その日の午後でした。

この4日後から、対策本部が設置されましたが、人出不足はまだ解決していませんでした。

~つづく~

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この記事を書いたのは

HTB 新型コロナウイルス取材班

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