【祝!M-1 決勝進出】芸歴26年 49歳にしてブレイク  長谷川雅紀(錦鯉)

2020年のM-1グランプリで決勝進出を決めた9組の中に「錦鯉」というお笑いコンビがいる。
向かって左側のスキンヘッドでボケ担当の男が芸歴26年、札幌出身の長谷川雅紀49歳だ。

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 同期はタカアンドトシ。随分遅いブレイクだな・・・、昔の彼を知る私としては感慨深いものがある。カレーのココイチでバイトしながら札幌吉本所属の芸人だった雅紀はかれこれ19年前の2001年、「東京に進出して有名になってきます!」と言い残し、生まれ育った札幌を離れて行った。

 私と雅紀との出会いは20年前に放送していたHTBの夕方の情報番組「夕方Don!Don!」。
毎週月曜から金曜の放送だったが、金曜日は放送時間を1時間前倒して拡大版としてOA。雅紀は「ハセガワフライデー」というコーナーをもっていた。衣装は上下茶色のジャージ。雅紀が何をそのコーナーで紹介していたかは全く覚えていないが、タイトルコールとともに鳥が羽根を広げるようなポーズをしていたのは記憶がある。放送後、みんなで宴会をしていたときのこと。「雅紀、何か面白いギャグ言えー」といったスタッフがいた。雅紀はニコニコしながら立ち上がり「テンション高く、マンション安く!」と自信をもってギャグを披露した。シーンとなるのも悪いので、一応笑ってやった(笑)。雅紀が東京に行ったのは、その楽しかった宴の後、30歳のときだった。

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 雅紀が上京して10年後の2011年、再び一緒に仕事をする機会が訪れた。当時私はHTB深夜開拓魂「帰省なう」という番組を企画・プロデュースしていた。どんな番組かというと故郷に帰省する北海道出身の芸能人に密着し、帰省前のワクワク感、親と数日間過ごす懐かしさもある喜び、そして実家を離れる時の切なさを表現する番組である。この番組には平成ノブシコブシの吉村崇さんや元プロボクサー内藤大助さんらに出演してもらった。次の出演者は誰にしよう・・・と思ったときに浮かんだのは長谷川雅紀だった。久しぶりに電話し番組へのオファーをしたところ、快諾。驚いたことに雅紀は2001年に上京後、一度も札幌に帰省していなかった。東京の築60年家賃3万円のアパートを取材で訪れると、驚くほどボロかった。ネタを披露する舞台を覗くと、驚くほど笑いは起きていなかった。後輩らがどんどん有名になっていく姿をみて焦りもあっただろうに、雅紀は深夜の牛丼店松屋で週5日間10年、アルバイトしながら夢を追いかけていた。

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 白石区で母親と10年ぶりの対面の日。当初、母は親不孝な息子に怒った表情だった。しかし久しぶりに息子と話をし、決して面白くはない芸をみているうちに「将来有名になって欲しい」と応援する母の表情になっていた。一泊二日の短い帰省。新千歳空港に向かうためJR白石駅から列車に乗ろうとする雅紀に母はビニール袋に入ったあるものを渡した。「いつでも帰ってきなさい」と見送る母に雅紀は何も言わなかった。有名になるまでは帰らないと決めていたかもしれない。列車が走り始めホームの母が徐々に徐々に小さくなり、やがて消え、雅紀は渡されたビニール袋を開けた。出てきたのは小さな容器に入った雅紀の大好物ポテトサラダと2個のおにぎりだった。おにぎりを頬張るたびに涙があふれ出す。ありがとう。親不孝でごめん。絶対売れる芸人になるから。それまで元気でいてね・・・。今回の帰省で面と向かって言えなかった思いが雅紀の脳裏をよぎっていたに違いない。

あれから9年が経ち、雅紀はM-1グランプリのファイナリスト9組に残り脚光を浴びている。2018年優勝した霜降り明星は4640組の頂点だった。2019年優勝のミルクボーイにいたっては5040組の頂点だ。2020年も、同じくらいの数の芸人が出場したと思うが、ファイナリストとして残っているライバルは、全員後輩だ。芸歴26年、49歳。若手に紛れて決勝進出。いいじゃないか。年齢を聞いただけでも笑えてくる。昨日、雅紀本人から連絡があって驚いたのが、いま歯が8本抜けていること。どうやら唐揚げは飲み込んでいるらしい(笑)そんなエピソードが言えるのもベテランならではだ。

 夢を追いかけるのに年齢制限はない!錦鯉、絶対優勝!次の帰省が楽しみだ。また会おうぜ。

戸島龍太郎 とじまりゅうたろう 

1967年宮崎県宮崎市生まれ。1990年に北海道テレビに入社。報道記者を経て、1991年7月「気分は天気730」ディレクターに。その後1993年5月から4年4か月「マイステーション」のニュースキャスター。1997年9月から1年間、奥様向けバラエティ番組「今日もすっぴん」のスタジオMCを経験し、1999年から情報番組「夕方Don!Don!」の中継リポーターやスタジオMCを担当。

2003年からは報道部に籍を移し、中継や特集担当の記者として飛び回る。その一方でテレビ朝日系列全国ネット番組「心の中の国境」(投手スタルヒンの生涯を追った番組。出演:徳光和夫)、「青いツバメ」(小樽出身の国際政治学者秋野豊のドキュメンタリー。出演:泉谷しげる、優香)、「旭山動物園日記」(出演:関根勤・麻里、キャイ~ン・ウド鈴木、中山秀征、優香、次長課長)、テレメンタリーなどを制作。2008年にはHTB開局40周年記念番組「カムイの夜明け」(出演:宇梶剛士)を制作。木彫り熊のルーツはスイスにあることを紐解いた。2009年4月から1年間「イチオシ!」のニュースの編集長、2010年4月からはプロデュース部のプロデューサーになり、HTB深夜開拓魂(毎週木曜日深夜0時50分から)シリーズを担当。「平成ノブシコブシのヨルオシ!」「我思う、故に我ラーメン」「美女動画」「もしものが~まる」「帰省なう」「探検!秘境駅」「壇蜜古画」等を制作。

2012年2月25日に放送した「時を超えたエール」では、さっぽろ雪まつりの大通会場に出来た福島県会津若松市のシンボル「鶴ヶ城」をきっかけに、北海道と東日本大震災の被災地福島の200年にも渡る長く深い絆を描いた。2013年7月、夕方の情報番組「イチオシ!」のチーフディレクターに。プロデューサーになってからは特別番組「さよなら江差線」「カイミの104㎞ふれあいウォーク」「六角精児とカイミの鉄道で行こう!」を制作。2018年6月からは「イチモニ!」のプロデューサーに。特別番組「イチモニ!イチオシ!新春初合体スペシャル」を制作したほか、「イチモニ!スペシャル 挑め!超過酷な絆のレース」(2019年7月13日午後3時55分から)「イチモニ!スペシャル なまら!ボイメンLover♡」(2019年7月20日午後2時55分から)のプロデューサーでもある。9月20日(月・祝)午後4時から放送した「鉄道で行こう!留萌線の旅」(出演:宇梶剛士、土屋まり)は同時間帯トップの高視聴率だった。11月9日(土)午前10時48分からの「イチモニ!スペシャル響け!笑顔で奏でるハイタッチ」もプロデューサーを担当。2020年1月4日(土)午前9時半からの「イチモニ!新春スペシャル なまら!ボイメンLover♡2」のプロデューサー。3月9日(月)午後7時から放送した「宇梶剛士と土屋まりの鉄道で行こう~ぐるり噴火湾 絶景&絶品探しの旅」の演出・プロデューサー。現在は「おにぎりあたためますか」ゼネラルプロデューサー、
毎週土曜日午前9時半から放送の「イチモニ!」のプロデューサーでもある。HTB公式YouTubeチャンネル「昼下がりの女子アナ」では企画・演出・撮影も担当している。
2021年1月2日午後5時30分から放送の「イチモニ!スペシャル里里コンビが行く!砂川グルメ食べまくりツアー」のプロデューサー。

Twitterは HTB戸島P @tojima_p

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この記事を書いたのは

戸島P

HTB総合制作部プロデューサー。報道、情報、バラエティなど各種番組を作ります。
ナレーションを書いて、自ら読むこともあります。ときどき出演も。
ツイッターは @tojima_p
番組のことや微笑みの国・タイのこともつぶやきます。

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