看護師になりたかった… ~命の救い手 絶たれた未来~ 看護学院 パワハラ疑惑を追う

悲痛な叫び 続々と寄せられる訴え

「助けて下さい、お願いします。」

今年3月、HTBに届いた一通のメール。そこから取材が始まりました。

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舞台となったのは北海道南部の小さな町・江差町にある北海道立江差高等看護学院。ここで学生が教師からパワーハラスメントを受け、理不尽な留年や休学・退学に追い込まれているという訴えが上がっています。

「あんたなんて死んだ方がいい。」

「殴るよ、蹴るよ。」

「あんたに指導する価値はない 」

「ペンでぶっさすぞ。」

いざ取材を始めると、続々と届いたのは同様の被害を訴える声。現役の学生や保護者だけでなく過去に在籍していた卒業生や退学者からも多くの声が寄せられました。中には自殺未遂をしたという人も…

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異常な卒業率 「私立であれば経営問題」 

取材をしていて見えてきたのは、学校を管轄する北海道庁のあまりにも杜撰な対応です。これはHTBが北海道に開示請求をして入手した北海道立江差高等看護学院の在籍者数などの資料です。

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例えば2013年度(H25)の入学者は30人。それに対して3年後の2015年度(H27)に卒業をしているのは17人だけ。退学や留年、休学の人数は個人情報だとして開示されなかったため正確なことは分かりませんが、単純に考えても13人はストレートで卒業できなかったことが分かります。もちろん、どんな学校でも一定の割合で卒業に至らない学生はいます。しかし。道内の看護学校の平均卒業率が90%程度なのに対して、あまりにも異常な数字であることは明確です。とある看護学校の関係者は「私立であれば経営問題。評判にも関わるので、すぐにテコ入れを図らないといけない状況」だと話します。

こうした状況を北海道庁は気づいていたのか、いなかったのか・・・

HTBの取材では2012年に保護者から退学者数の多さや教師の指導について苦情を受けて調査をしていたことが分かっています。しかし、その後も今に至るまで状況は改善されていません。

届かなかった訴え 聞く耳を持たなかった北海道庁

保護者や学生からの訴えは2012年の一件だけではありませんでした。

直近では去年9月、北海道庁に匿名の苦情が寄せられていました。しかし、匿名で具体的なことが聞けなかったとして追跡調査は実施されませんでした。その後、今年1月になって複数の人から頻繁に苦情が寄せられるようになったことを受けてようやく今年3月に北海道庁の職員が学生や教職員に聞き取り調査を実施。さらにそこから半年が経過していますが、いまだに北海道は調査中を繰り返し、ハラスメントの事実認定や学生への救済策は講じられていません。

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「速やかに対応する」と繰り返す北海道の鈴木知事。

一体いつになれば「速やかな対応」が行われるのでしょうか。

調査事案が1つではなく膨大にあるため、調査に時間を要することは仕方ありません。しかし、そこに行きつくまでのプロセスに数々の問題がありました。長年続く異常な卒業率を見て北海道が自主的に対策を講じることはできなかったのか、なぜ去年9月の匿名の苦情を受けた時点で本格的な調査に乗り出せなかったのか、最初から第3者調査委員会を立ち上げて調査をすればもっと早い結論を出せていたのではないか・・・

学生や保護者に言われて動く。

議員に言われて動く。

メディアに批判されて動く。

この半年間、そんなことばかりのように感じます。いまこうしている間にも、看護師を目指す学生たちの未来が絶たれている現状を真剣に受け止め、「速やかな対応」をすべきです。

テレメンタリー2021

「看護師になりたかった… ~命の救い手 絶たれた未来~」

9月11日(土)午後2時30分~午後3時(日時違い全国放送)

番組HPhttps://www.htb.co.jp/news/harassment/

テレメンタリーHPhttps://www.tv-asahi.co.jp/telementary/

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この記事を書いたのは

HTB報道部記者・喜多和也

映画「しあわせのパン」の暮らしに憧れて北海道に来たパン好き記者。パンシェルジュ。

2021年11月まで函館駐在で看護学院パワハラ問題などを取材。

https://www.htb.co.jp/news/harassment/

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