アオカビを使って熟成するブルーチーズ。
このブルーチーズが織りなす輪で旭川市江丹別の新たなマチづくりが始まっています。
「どうせだったら世界一のチーズを作ってやろうと思ってそこからずっとチーズのこと考えてますね」
ブルーチーズへの愛を語るのは、青かび王子こと伊勢昇平さん35歳。
Tシャツももちろん青カビ柄です。
「青かび王子」こと伊勢昇平さん(35)
周りにからかわれ…江丹別に生まれたことがコンプレックスだった時も
日本で一番冬が厳しいといわれる旭川市江丹別。
旭川市の中心部から車でおよそ30分、人口は270人ほどの小さなマチです。
伊勢さんのチーズ作りは朝から始まります。
氷点下の午前7時。
牛舎か搾りたての牛乳を運びます。
【伊勢さん】
「温度だけは結構敏感にやらなきゃいけなくて。」
0.3℃違うとチーズの性格が変わるので…温度計を片手に丁寧に牛乳を混ぜます。
酵素を入れて固まったら、次はカッティング。
型に入れて固まったチーズは、貯蔵庫でおやすみ。
2カ月半じっくり熟成します。
【伊勢さん】
「これはもう出荷直前ですね。」
小さな工房で一人で作っているため、一度につくれるのは9個だけ。
貴重な『江丹別の青いチーズ』はブルーチーズが苦手だった人にも、臭みがなく、ミルクのうま味が感じられると人気だそうです。
チーズの名前に、ふるさと「江丹別」を入れた伊勢さん。
実は、高校生まで、江丹別で生まれたことがコンプレックスだったといいます。
【伊勢さん】
「周りにからかわれたりしていたので、つまらないところで生まれちゃったなと」
とにかく江丹別から出て世界に行きたい。そう思っていた伊勢さんを変えたのは、通っていた英語教室での先生の一言でした。
【伊勢さん】
「先生がお前の親父の牛乳でチーズを作って世界に出すのも世界にでることになるっていってもらって、どうせだったら世界一のチーズを作ってやろうと思って。」
そこで伊勢さんは29歳のとき、チーズを学ぶために単身、本場フランスへ。
チーズ工場で働いたり、ときにはレンタカーで寝泊まりしながらの武者修行。
フランス中のブルーチーズ生産者を訪ねて技を習得し、今の『江丹別の青いチーズ』を作り上げました。
伊勢さんの作り上げる「江丹別の青いチーズ」
その味は世界でも認められ、大手航空会社の国際線ファーストクラスの機内食に採用されたことも。
広がりはじめる「移住の輪」
そんな伊勢さんは今、新たな夢に向かって動き出しています。
【伊勢さん】
「3年ぐらい前から江丹別を世界一の村にしますといって色んな人に移住を呼び掛けたり、一緒に仕事しましょうって声かけてるんですけど。」
【フレンチのランチプレート】
旭川や近くの町の食材を生かしたメニューがちょっとずつ楽しめるランチプレート。
実はこのプレートにも『江丹別の青いチーズ』が使われています。
フレンチレストラン『チライ』のシェフ、嵯城要介さんは独立してレストランを開業する場所を探していたときに伊勢さんと出会い、3年前、江丹別に移住してきました。
【伊勢さん】
「料理の腕もいいし、釣りが好きで、自然が好きで、いずれ田舎で独立したいっていうからこれ江丹別しかないなということで、ありとあらゆる方向から江丹別がいかに良いかっていうことをアピールして来てもらいました。」
旭川近郊の東川町や当麻町も移住先の候補でしたが、最終的に江丹別を選んだ決め手は伊勢さんの『江丹別の青いチーズ』だったといいます。
【嵯城さん】
「それを使ってケーキを、スイーツを作って販売してレストランとして営業していったら成功できるんじゃないかなと」
【子どもたち】
「きゃー!」
4人の子どものお父さんでもある嵯城さん。
店と自宅がつながっていて、仕事がひと段落すると、子どもたちと外で雪遊び。
【嵯城さん】
「自然のなかで暮らすのが好きなので、そういう環境で子どもたちをのびのびと育てるのが一番のメリットかなと思いますね。」
熱意に共鳴した男性がもうひとり・・・
【伊勢さん】
「もともとここが知り合いでパン屋をやりたい後輩、友達がいると聞いて、これももう絶対誘おうと思って」
ワンプレートランチに添えられたパンを作っていたのは、小倉孝太郎さん。
レストランの目の前に開いたお店で地元食材を生かしたパンを焼いています。
【小倉さん】「心強いメンバーがいっぱいそろってますので、江丹別に/(移住して)良か
ったと思います」
江丹別産のそば粉を使ったカンパーニュは、噛んでいくと甘みが感じられると人気商品の1つです。
【小倉さん】
「きょうもおいしく焼けました。」
「青いチーズ」が広げた、移住の輪です。
(左から)嵯城さん、伊勢さん、小倉さん
「やりたいことをやり続ける」
伊勢さんの情熱はチーズに留まりません。
最近力を入れていることがあると、案内してくれました。
【伊勢さん】
「こちらがサウナになります。」
雪の壁に囲まれた場所に現れたのは、なんとサウナ。
日本一冬が厳しいマチで、本格的なサウナ体験ができる施設をオープンしました。
コロナ禍でもうれしい、貸し切りスタイル。
めざすのは、江丹別の盛り上げです。
【伊勢さん】
「僕自身サウナ好きでしたし、今江丹別移住者が多くて人を雇うところが必要だったので」
サウナをつくったことで雇用が生まれ、実際に移住した人も。
去年3月函館から移住して、サウナの管理人として働いているんだそうです。
この春も若者2人が移住して、サウナで働く予定です。
【伊勢さん】
「来る人それぞれがやりたいことをやって結果的にぼく1人の人間が思いつかないようなすごく楽しい場所が更新され続けていくというか、毎年毎年変わり続けていくことが世界一の村だと思っていて、(自分も)ひたすら自分のやりたいことをやり続けて一緒にやってみたらいいんじゃないって。」
【スタジオ】
江丹別では移住した人が廃刊になった地域新聞を復活させたり、森を守る活動をしたりと江丹別の文化や自然を尊重する活動をしているんだそうです。
自治体に頼らず自分たちが楽しんでマチを変える、新たなまちづくりの形でした。