北海道・知床半島沖で乗客乗員26人を乗せた観光船が沈没した事故から1カ月。14人が死亡し、今なお12人の行方が分かっておらず、懸命な捜索が続いている。日本の海難事故の歴史に残る大惨事はなぜ起きてしまったのか。あの日、海でいったい何があったのか?関係者の証言を積み重ねると、ずさんな安全管理の実態と、それを見過ごしてきた制度や行政のチェックの不備が浮き彫りとなった。悲惨な事故が起きた背景や問題点を多角的に検証する。
「秘境知床が神秘のヴェールを脱ぐのは、船の上だけです―」
沈没事故を起こした「知床遊覧船」のホームページにはそんな美しい言葉が掲げられている。世界遺産・知床を満喫するはずだったツアーが一転したのは4月23日。「知床遊覧船」が他社に先駆けて今年の運航を始めた初日のことだった。
「カシュニの滝付近で船が浸水している!」
そんな緊迫した声を無線で聞き取った他の観光船運航会社が海上保安庁に通報したのが午後1時13分。斜里町のウトロ漁港を出た観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が本来帰港する時間帯だった。あの日、海で何があったのか。取材を通して新たな事実が分かってきた。
「海が荒れるようであれば引き返す、条件付き運航であることを船長と打ち合わせ、出航を決定しました」
事故から5日目に会見を開いた「知床遊覧船」の桂田精一社長。運航を統括する運航管理者でありながら、事故当日を含め、ほとんど事務所に常駐していなかったことが明らかとなった。関係者が語った数々の証言から、ずさんな安全管理の実態が次々と浮かび上がる。
「KAZUⅠ」には子ども2人を含む乗客24人と、乗員2人が乗っていた。そのうちの1人で、死亡が確認された鈴木智也さんは、事故当日が誕生日だった交際相手の女性にプロポーズをする計画だった。港に残された車から、女性への手紙とプレゼントが見つかった。父親は辛くて手紙を読むことができなかったと打ち明ける。
「これからの若い人生を奪われたと思うと、言葉になりません―」
「KAZUⅠ」は去年、接触事故と座礁事故の2回のトラブルを起こしていた。北海道運輸局が特別監査を行い、「知床遊覧船」は改善報告書を提出していたが、その教訓が生かされることはなかった。出航中止基準や連絡体制などを定めた「安全管理規程」の内容を順守するという約束は果たされなかった。
背景には、会社のずさんな態勢を見抜けなかった国や運輸局のチェック体制や制度の問題がある。安全対策はなぜ見過ごされてしまったのか。そして悲惨な事故をなぜ食い止めることができなかったのか。様々な証言を積み重ね、多角的に検証する。
■番組名 イチオシ‼スペシャル 検証・観光船沈没 見過ごされた安全対策
■放送日時 2022年5月21日(土)午前10時40分~11時10分(北海道ローカル)
■出演者・ナレーター 森さやか(HTBアナウンサー)依田英将(HTBアナウンサー)
■制作スタッフ プロデューサー :金子 陽 /ディレクター :須藤真之介/櫻井靖大/ 編集 :上田佑樹