JR厚別駅から徒歩5分。静かな住宅街に赤い屋根が目印の古い一軒家。もくばコミュニティハウスです。学習塾、フリースクールなど多目的で使われています。ここで毎月一回、第4木曜日に、こども食堂「もくきち」が開催されています。
こども食堂「もくきち」が開催されるもくばコミュニティハウス
すぐ近くに札幌市立信濃小学校があり、子どもが一人でも歩いてきて、友達と一緒に遊んだり、本を読んだり、宿題をやったりとにぎやかな声が絶えません。
「もくきち」では、おやつパーティは一人100円、よるごはんは一人200円という低額で提供しています。コロナ禍で中断した時期もありますが、「もくきち」の活動は8年目を迎えました。厚別中央と呼ばれるこの地域は共働きの家庭が多く、留守番をしている子どもたちだけでごはんを食べる、いわゆる“孤食”になることも多く、子どもの悩みや夢を聞いてあげられる時間の余裕も持てないこともあるといいます。そうした中、地域のお母さん、お父さんの有志が、子どもたちが安心して温かいごはんを食べる場所をつくりたいと2016年4月に活動がスタートしました。
「もくきち」にやって来る子どもたちは小学校2年生から4年生が中心ですが、幼稚園の時から皆勤賞という6年生もいるほど、「もくきち」は地域に溶け込んだ存在になっています。コロナ前は80人以上集まったそうですが、現在は予約制で20名ほどに制限しています。この日、「もくきち」にやってきたのは30名ほどの子どもたち。ランドセルを置くと、笑顔で思い思いの遊びを始めます。近くに厚別木馬公園があるので、外遊びする子どもたちも。
名前を書いたシールを子どもたちにつけているのは、「もくきち」の代表を務める米坂尚美さん。普段は会社を経営しています。3人の子どもの子育ても終わり、地域の子どもたちの成長に寄り添っています。
こども食堂「もくきち」代表 米坂尚美さん
「最初は地域のニーズがあるのか不安でした。でも、こども食堂を始める前に、おにぎりと豚汁を提供する会を開いたら、80人とか120人の子どもたちがやってきました。私も仲間もコミュニティの場が足りないんだということに気付いたのです。地域がしっかり回るためには、誰もが気軽に集える場があって、大人も子どもも高齢者も顔見知りになることが大事だと思います。互いに顔見知りであることが、子どもたちの見守りにもつながる。それが、こども食堂の役割の一つではないかと思っています」
8年前、米坂さんは近所の一軒家を買い取り、札幌市の地域支援事業の助成金を得て、地域の人たちが気軽に集えるコミュニティハウスに改装しました。こども食堂には大勢の子どもたちに来てほしいと、キッチンを改装して厨房設備も整えました。大きなキッチンでは、さっそくおやつとごはんの準備が始まりました。献立はボランティアに参加しているお母さんたちで考えたものです。
おやつパーティが始まる前に7名の大学生ボランティアがやってきました。「先生!」とさっそく子どもたちに囲まれ輪が広がります。2021年4月に新札幌に新しいキャンパスを構えた札幌学院大学が、翌年4月から地域貢献活動の一環として、同じ厚別区にある「もくきち」を応援しようと派遣しているのです。
大学生たちは子どもたちと公園で一緒に遊んだり、宿題を教えたり、ボードゲームをしたりと子どもたちの遊び相手でもあり、話し相手、そして見守り役でもあります。
札幌学院大学 心理学部臨床心理学科2年生 三木茅乃さん
「私は保育士の免許を取りたいと考えていて、子どもたちと触れ合う機会が欲しくてボランティアに応募しました。ここに来ると、子どもたちからエネルギーや元気を一杯もらって、大学ではできない経験だと思います」
きょうはメロンの入ったフルーツパフェ。食べる場所が狭いので2交代制です。子どもたちと一緒に大学生も加わって、一緒に食べることを楽しみます。
昨今の物価高、光熱費の高騰でこども食堂の運営は大変です。一番の悩みは食材の確保。「もくきち」では、JAさっぽろから毎月10kgのななつぼしを寄付してもらったり、知り合いの当別町の農家グループから野菜を提供してもらっています。また、大和ネクスト銀行が2019年2月から始めた「こども食堂応援定期預金」の支援対象に選ばれたり、イオンが毎月11日のイオンデーで実施している「幸せの黄色いレシート」に応募し、ギフト券で食材を買うこともあるそうです。
「もくきち」では、コミュニティハウスの維持費も入れると年間50万~60万円の予算が必要です。町内会である厚別中央振興会からの運営費や地域企業からの寄付などでようやく活動が続けられているのが実情です。米坂さんは、それぞれの地域に根差したこども食堂の実情に合った支援の充実が必要だと話します。
こども食堂「もくきち」代表 米坂尚美さん
「こども食堂に来るようになって、自宅で孤食だった子がみんなで食べる場があることで本当にたくさん食べてくれたり、偏食気味だった子が苦手だった野菜のおいしさに気づいたりします。みんなで一緒に食べるということには不思議な力があると感じています。最近の卵の価格高騰もそうですが、私たちの予算だけでは食材の購入がおぼつかなくなっている現実があります。多様な世代が集うこども食堂が子どもたちの成長につながるよう、例えば食材の購入にしか使えない助成制度など、地域ごとの実情にあった多様な行政の支援があればいいと思います」
私たちにもすっかり耳になじんだ「こども食堂」。学年や通っている学校を超えて子どもたちが安心して集まれる、つながることができる場をつくる社会活動としてますますニーズが高まっていくことでしょう。こども食堂北海道ネットワークに加盟登録しているのは全道13の市、8つの町にある119団体(2023年3月現在)で、札幌市には81団体が活動しています。3年に及ぶコロナ禍の影響で活動を中断せざるを得なかったり、運営が難しくなっている団体も少なくありません。持続可能な子どもたちの居場所づくりを目指して奮闘するこども食堂の活動をぜひ応援してほしいと思います。
(私たちのSDGs情報部)
こども食堂「もくきち」
「もくきち」を支援したい方へ
ゆうちょ銀行からお振込の場合
口座名:こども食堂もくきち
記 号:19030
番 号:44884901
銀行からお振込の場合
銀 行:ゆうちょ銀行 支店名:908
口座番号:普通預金 4488490
口座名義:こども食堂もくきち
・募金の振込先 ゆうちょ銀行口座
北海道こども食堂ネットワーク北海道
札幌学院大学 河西邦人学長からのメッセージ
札幌学院大学は「地域と共生する大学」を理念として掲げています。その一環としてこども食堂もくきちの「スタッフを確保したい」という課題解決と「学生に子どもたちとふれあう機会を増やしてほしい」という思いに応えるために地域連携事業が始まりました。参加している学生たちは、自分が地域貢献に役立っているんだという気持ちを持つことができるでしょうし、また授業で学ぶ地域貢献理論の実践の場としても成長することができると考えています。
SDGsゴールズ
3 すべての人に健康と福祉を
11 住み続けられるまちづくりを
17 パートナーシップで目標を達成しよう