きのとや創業者の新たな挑戦! 札幌・盤渓で挑む「リジェネラティブ農業」の最前線
2026.06.26
こんにちは!HTBアナウンサーの森さやかです。
日々、見慣れているはずの札幌の街。ですが、中心部から車を西へわずか20分ほど走らせた盤渓の山の中に、まさかこんな世界が広がっているなんて……。
「えっ、札幌盤渓のこんなところに、農場があったんだ!」
車を降りた瞬間、私は新鮮な驚きに包まれました。
今回は、株式会社ユートピアアグリカルチャーが展開する実験農場を視察しました。
案内してくださったのは、札幌市民にお馴染みの洋菓子メーカー「きのとや」の創業者であり、現在は70代にして若き日の夢だった牧場経営に再び乗り出した、長沼昭夫会長です。
盤渓の自然の中で伺った、ワクワクするような未来のお話をお届けします。

70代で再び追いかける夢「きのとや」創業者・長沼昭夫会長の情熱
今回盤渓の山を案内してくださった長沼昭夫会長。1983(昭和58)年に札幌で「きのとや」を創業し、一代で大人気洋菓子メーカーへと育て上げた立役者です。
そんな長沼会長が今、若き日に夢見たという「牧場経営」に挑戦しています。長沼会長が率いる「株式会社ユートピアアグリカルチャー」は、北海道の札幌と日高を拠点に、酪農、養鶏、お菓子作りなどを行っている農業法人です。「洋菓子きのとや」などを中心としたグループ企業8社のうちの1社でもあります。
美味しいお菓子作りの原点である「農業」に立ち返り、ただ作物を育てるだけではない、世界中が注目する新しい農業のカタチに挑戦されています。

日本の最前線を走る!「リジェネラティブ農業」とは?
ユートピアアグリカルチャーが実践しているのは、「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」というスタイルです。「再生農業」とも呼ばれています。
土壌を回復させる方法は様々ありますが、こちらの最大の特徴は「放牧酪農など、動物の力を使って土壌を回復させる」というアプローチです。その実験的な試みが行われているのが、この盤渓の農場なのです。
長沼会長に連れられて山へ入ると、まず驚いたのは、そこがかつて「大人の背丈を超えるほどの笹藪に囲まれた荒地」だったということ。約50年間、何のメンテナンスもされずに放置されていました。
「人の手が入っていない山なら、緑豊かな自然」と思われがちですが、実は、メンテナンスされていない山は荒れていくのだそう。
特に北海道の山は背の高い「笹」でびっしりと覆われてしまい、地面の土まで日光が届きにくくなっています。
そんな険しい荒地を、どうやって切り拓いたのか?
ガガガガと大きな音を立てる「重機」を入れて開墾するのを想像するかもしれませんが、この盤渓農場のような山間部には重機を入れること自体が難しいのです。
ここで大活躍したのが、なんと「馬(道産子)」たちでした!

「道産子」たちが切り拓く農地・山の未来
盤渓の実験農場では、最初の2年間、この深い笹藪に馬を放牧しました。道産子は笹を好んで食べてくれるため、彼らが山に入ることで笹が減り、地面に日光が差し込むようになります。すると、新しい植物の成長がぐんと促されるのです。
動物たちがもたらす恩恵はそれだけではありません。
牛や馬が植物を踏み倒すことで、新しい光の通り道ができ、雨水もしっかり土に染み込むようになります。排泄される糞尿が、そのまま豊かな肥料となります。
動物たちが動き回ることで、土への栄養素の入り込み方が何倍にも活性化されます。
これらの経過を、北海道大学とタッグを組み、共同研究として土壌や植物の調査・測定をしながら開拓をすすめています。

そして、馬たちが綺麗にしてくれたその地面に、今度は牧草の種を蒔く――。
重機を一切使わず、馬の習性を生かして少しずつ開墾し、農地を広げていく。
そもそも、新しく農業を始めようとする人(新規就農者)や、家族経営の小さな農場にとって、高額な重機を購入したりレンタルしたりすることは、金銭的な負担が大きすぎて、到底無理な話です。長沼会長はそうした現状を指摘します。
「平地の条件が良い場所は、もう大きな農場などが経営している。新規の人が得られる土地は、荒地や条件の悪い土地が多い。それでも、重機を使わずにできる農業の形をみせたくて、ロールモデルになりたいと思って挑戦している。」
長沼会長のその言葉に、日本の農業の未来を切り拓こうとする本気の優しさを感じました。
馬が開墾し、種を蒔き、大規模ではなく、家族で経営できる持続可能な農業を促進したい。今年で5年目を迎えるこの盤渓ファームでの挑戦。新規就農を目指す人たちへの希望の光です。

「牛たちが嬉しそう!」長沼会長の後をトコトコ、ジャージー牛
馬たちが作ってくれた牧草地に案内されると、さらに素敵な光景に出会いました。
私たちが牧草地へ足を踏み入れると、放牧されているジャージー牛たちが、長沼会長の姿を見つけた瞬間、耳をピコピコと動かして、なんとも嬉しそうに集まってきたのです!
驚いたのはそれだけではありません。長沼会長が歩き出すと、牛たちがトコトコと後ろをついてきて離れないのです。
「牛たちが嬉しそう」
まさにこの表現がぴったりな、ほっこりする光景でした。
狭い牛舎に閉じ込められることなく、盤渓の豊かな自然の中で、ストレスフリーに暮らしている牛たち。のびのびと、本当に幸せそうに過ごしているこのジャージー牛たちから搾乳される生乳は、絶対に、間違いなく美味しいはずです!このお乳から作られるお菓子や乳製品を想像するだけで、期待に胸が膨らみます。

元気な鶏たちと、絶品卵の無人直売所も!
現在この農場を管理しているのは、長沼会長と、スタッフの立花さん、林さんの3人。
盤渓の農場には養鶏場もあり、およそ800羽ほどの鶏が伸び伸びと飼育されています。
狭いケージの中ではなく、自由に歩き回れる環境で育った鶏たちはストレスフリー。そして、この施設内には「卵の無人直売所」も設置されています。
大自然の恵みを受けて育った鶏たちの産みたて卵。実際に購入していただいてみると、臭みがなく、レモン色の黄身が鮮やかで、卵かけご飯が最高のご馳走になりました!

「完成するのは30年」―健康の秘密は“夢”を食べているから
現在70代の長沼会長。驚くべきことに、全国を忙しく飛び回りながらも、週に3回は自らこの盤渓農園に足を運び、作業をしているといいます。そのバイタリティとタフさには、ただただ圧倒されるばかりです。
山道を軽やかに歩く長沼会長に、私が感嘆していると、会長は山を見つめながら笑顔でこうおっしゃいました。
「森さん、ここが完成するのは30年かかるよ」
30年――
壮大なスケールですが、長沼会長が70代を迎えてどうしても挑戦したかったという農業。
「会長、どうしてそんなに本当にお元気なんですか?」という質問に、返ってきたのはこんな格好いい言葉でした。
「“夢”を食べてるからね」
お茶目に笑う長沼会長の言葉が、ジーンと胸に響きました。
若き日に夢見た牧場経営。それを今、環境再生という地球規模のテーマと、日本の未来の農業へのエールを込めて実践している長沼会長。文字通り、未来の“夢”が会長の原動力であり、最高のエネルギー源なのだと深く納得させられました。

おわりに
「札幌盤渓のこんなところに……」という驚きから始まった今回の視察。
そこにあったのは、大自然と動物の力を信じる知恵と、重機に頼らない持続可能な農業ビジネスモデル、そして何より、嬉しそうに寄り添う牛たちと、夢を追いかけ続ける長沼会長の、どこまでも熱く素敵な情熱でした。
馬が拓き、牛が育み、農業の新たな可能性を感じられる盤渓の山。
美味しいお菓子の未来だけでなく、日本の農業の未来を優しく、力強く変えていくに違いありません。
私も一人の道民として、そして長沼会長のファンとして、この盤渓農園の30年の歩みをずっとずっと応援し、見守り続けたいと思います!

