豚肉、タレ、炭火。勝つのはどれだ?――「豚丼クッキー」を食べてみた
2020.01.21
前回ジンギスカンキャラメルを食べ、鼻から口にかけて大ダメージを受けた。
(参考記事:北海道が誇る究極の"珍"土産――「ジンギスカンキャラメル」を食べてみた)
しかし、これは連載企画なので、ダメージを受けたからといって休んでもいられない。
そんなわけで「北海道"珍"土産シリーズ」2回目は、道東グルメの定番とみんな大好きなお菓子を組み合わせた商品を紹介する。
気軽に持ち帰れる、帯広らしいお土産を。底知れぬ気遣いから生まれたクッキー
今回紹介する北海道珍土産は、有限会社南製菓が企画した「豚丼クッキー」だ。
豚丼とクッキー。どうしてその2つを組み合わせてしまったんだ。
開発経緯についてご担当者様に話をうかがったところ、「気軽に持ち帰ることができる、帯広らしい商品を開発したかった」という答えが返ってきた。
なるほど......と一瞬納得しかけたが、ちょっと待ってほしい。
豚丼を気軽に持ち帰ることができるように、という発想は素晴らしい。
なぜなら、帯広豚丼は絶品だからだ。
甘辛い醤油ベースのタレをつけて焼き上げた豚肉を、白飯の上にドッサリと乗せる。
花が日の光を浴びてふんわりとはなびらを広げるように、丼の上に豚肉の花が咲く。
見た目は美しく味もおいしい、まさに至極の一品。それが帯広豚丼である。
だが、なぜクッキーと組み合わせてしまったんだ。問題はそこだ。
しかし、豚丼とクッキーを組み合わせる意味がわからないという私の考えが、素人的で浅はかなだけかもしれない。
地域に貢献したいと考えるお菓子メーカーだからこそ、帯広名物・豚丼の要素を加えたクッキーを作るというのは、自然な判断だったのだろう。
私の脳みそが追いついていないだけだ。きっとそうだ。
半ば無理やり自分を納得させたところで、いざ実食。
炭火の匂いが強く感じられる、甘さ控えめな1品
今回は、日勝峠にお土産店と展望レストランを構える「十勝亭」のネットショップで、豚丼クッキーを注文した。
ダンボールを開け、豚丼クッキーを取り出すときに思わず飛び出た一言。
でけぇ。
週間少年ジャンプほどの大きさがある箱の中には、豚丼クッキーが18枚も入っていた。
多くない?枚数を半分にして、もっとコンパクトなサイズで売っても良いんじゃない?
そう思いかけたが、豚丼クッキーは「十勝へ行った楽しい思い出を伝えるためのお土産」として販売されている商品である。
つまり、みんなでワイワイ分け合うことを前提に作られているのだ。
そう考えると、18枚入りという大容量なのもうなずける。
パッケージには、見るからにおいしそうな帯広豚丼の写真が印刷されている。
「僕の居場所はここですけど?」と言わんばかりの顔で、「豚丼クッキー」の文字上に堂々と鎮座している。
あえてわかりきったことを言わせてもらおう。お前の居場所はここではない。
お前の真の居場所は、帯広豚丼屋のメニュー表だ。決してクッキーの箱ではない。
あぁ、お肉が丼からはみ出すほど豪快に盛られた帯広豚丼が恋しい。
嘆いたところで私の目の前には豚丼クッキーしかないので、覚悟を決めて食べてみよう。
と、包装紙をチェックしてみると、とんでもない文字が。
「香料(豚丼フレーバー)」
よく存在したな、この世に。感動すら覚える。
さて、腹をくくって実食するため、まずは匂いを嗅いでみる。
......香ばしい。
これは豚丼の匂いというか、炭火の匂いだ。
長時間嗅いでいるとクッキーの甘い匂いも若干感じられるが、炭火特有の香ばしさがとにかく強い。クッキーなのに。
何度も嗅ぐと脳が混乱してくるから、一度匂いを確認したら潔く口に放り込むのが良いだろう。
意を決して口に運ぶと、軽くサクサクとした心地よい食感が伝わってくる。
肝心の味は、甘さ控えめクッキー〜炭火をまとわせて〜という感じだ。
豚丼のタレのような濃い醤油味がガツンと来ることを予想していたが、醤油味は感じられない。
豚肉やタレの味を感じない代わりに、強く主張するのはやはり炭火の匂いだ。
網焼きした豚肉を思わせる香ばしい匂いが、口から鼻まで疾風のごとく駆け抜ける。
どちらかというと豚丼の味ではなく、帯広豚丼を食べたときに鼻先をかすめた香ばしい匂いを楽しむためのクッキーだ。
ユニークであるがゆえに、好みは分かれるだろう。
現に私にとって得意な味とは言い難かったが、姉は「割とアリ」と言って食べていた。
おそらく、「甘いお菓子好きの人」より「おかず好きの人」に刺さる1品なのだ。
仕事の合間にチョコやクッキーを頬張り、お茶を飲むつもりでカフェに行ってついケーキを頼んでしまう甘党の私は、甘さが足りず満足できなかった。
しかし、舌にまとわりつく濃厚さを苦手とし、控えめな甘さを好む人は、この豚丼クッキーをおいしく食べられそうだ。
甘党には物足りないと感じるレベルの甘さだが、きっとこれ以上甘くすると、香ばしい豚丼フレーバーと大げんかを始めてしまうだろう。
評価は分かれるものの、味が崩壊しないバランスを保っている絶妙な珍土産といえる。
「帯広に行った思い出をみんなと共有したい」と考えてお土産に選ぶと、ユーモアのわかる間柄では好評を博すだろう。
甘さと塩気のハーモニーを楽しめる、大正義どら焼き
さて、豚丼クッキーを企画した南製菓は、おいしい和菓子を製造している帯広の会社だ。
今回は、同社が製造・販売する「バターどら焼」をおまけとして紹介しよう。
半分に切ってみたところ、中央にバターの存在を確認できた。
生地に歯を立てると、ふんわりとしながらボロボロと崩れない、しっかりとした生地だとわかる。
甘さ控えめのあんこと生地が混ざり合い、どら焼きらしい素朴なおいしさを楽しめる。
そして、中央のバターが入っている部分をかじると、一気にまろやかさと塩気が加わり新たな一面を見せてくれた。
このどら焼きは、バター部分を食べて初めて完成なのだ。
やや塩気のあるバターが、あんこの甘さを一層引き立ててくれる。
バターと混ざり合って初めて、あんこ本来の甘さが発揮されるのだ。
生地とあんこだけでもおいしいどら焼きにバターという新要素が加わることで、また何倍も魅力を増す。
甘いあんこと、塩気のあるバター。この組み合わせは正義である。
某有名猫型ロボットにお土産としてこのどら焼きを差し出せば、喜んで瞬間移動ドアを貸してくれるに違いない。
このどら焼きと帯広豚丼を食べるためだけに、札幌から片道200km、高速道路で3時間かけて帯広に行きたい。
それほどのおいしさがある。
炭火の香ばしさを感じ、帯広豚丼に想いをはせよう
今回は、豚丼クッキーとバターどら焼の2品を紹介した。
豚丼クッキーはひと目で味が想像できないが、食べてみると意外とおいしいタイプの珍土産だ。
お土産として配るときは、ぜひ小包装のまま渡して豚丼のイメージを植え付けてから食べさせることをおすすめする。
普通のクッキーと思って食べると控えめな甘さに驚いてしまうが、豚丼クッキーだと思って食べると炭火の香ばしさが感じられておいしいと思えるだろう。
珍土産がまずいものばかりでないという、新たな知識が身についた。
次に登場する珍土産の味は、果たして。