「とかちの時代が来た!」農業写真家・粟野秀明さん
2021.06.28
#北海道職場は「東京ディズニーシーより大きな畑」
『とかち農業・農村フォトコンテスト』で活躍し、“農家の目線”で「とかちの魅力」を写真で切り取る「農業写真家」を紹介しています。
前回は「畑×ひと」を撮らせたら“とかちイチ”!帯広市の農家の主婦・松原明美さんを取り上げました。
さて今回は・・・十勝平野のほぼど真ん中!じゃがいも、スイートコーンの収穫量は全国トップクラスの芽室町(JAめむろ)で農場を経営する“アグリフォトグラファー”の粟野秀明さん(57)です。
『とかち農業・農村フォトコンテスト』第1回大会でグランプリを受賞。以来グランプリ3回、準グランプリ2回など毎年入選。その作品は数々のコンテストでも入賞し『CAPA』などの写真専門誌でも紹介されてきました。2019年には富士フィルムフォトサロン札幌で個展を開くとアマチュア写真家としては異例の1500人もの来場者を記録しました。
第1回グランプリ『夜明け前からの農作業』©awanofarm)
本業は農家です。その“職場”はあの『東京ディズニーシー』より大きい50ヘクタールの畑。奥様と二人三脚で、ビート・じゃがいも・枝豆・大豆・小麦などの生産で忙しい合間に、農作業の様子や十勝の大自然の美しさを、写真や動画に収めてきました。
『十勝野の夜明け』(第10回グランプリ作)
粟野さんの最新の受賞作はこちら。2020年第10回大会「景観部門」でグランプリを獲得した『十勝野の夜明け』です。
©awanofarm
粟野さん
「ジャガイモの生育を見るためにドローンを飛ばしたのですが、あまりの美しさに心臓の高鳴りが止まりませんでした!作品を見た瞬間に、ドローンの出現で、十勝の時代が来た!と確信しました‼️これからも十勝で、世界に通ずる作品が撮れると断言します‼️」
農家の魅力を発信!HP『農作物こうやって作ってます』
一眼レフで本格的に写真を撮り始めたのは10年前だという粟野さん。“写真のチカラ”に気づいたのは、「農家の様子を知ってほしい」と20年以上前に立ちあげた、『農作物こうやって作ってます』という名のホームページでの情報発信がきっかけだと振り返ります。
「ホームページってのは文書だけじゃどうしようもないんで。デジカメを購入したんですね。それでしばらくやってたんですけど。やっぱりね。同じ写真でも一眼レフを使うと“空気感”が伝わるんですよ。言葉より一枚の写真だなってそのとき感じたんですよ」
(HP『農作物こうやって作ってます』。去年からYouTuberとして動画配信にも挑戦!)
「生まれて初めてフォトコンテストに出したのが第1回とかち農業・農村コンテストで。いきなりグランプリをいただいて「え!」って。そのすごさがわからなくて。あまりにも簡単に入ったんで。だんだんじわじわと凄さがわかってきて。それでまあどんどんどんどん、写真に。一枚の写真にこう凝縮させて。農業の様子、空気感、厳しさ、楽しさを入れようと思って撮りだしたんですよねぇ」
「意外と(賞に)入るんですよね、あっちこっちの(コンテストで)。自分が思う以上に“俺っていい瞬間撮れてるのかなぁ”って。まあ農家ですからね!他のカメラマンさんは他の職業があるじゃないですか。僕はその…。撮影の空間が自分の職場だから。四六時中の様子が見れると。“あっ!”て思った瞬間に撮るんですよ。それだけなんですけど。僕にとっては簡単なこと。でもたぶんその景色ってのは。僕しか見られないものなんでしょうけどね」
『掘りたてほやほや』(第6回グランプリ作)
粟野さん
「じゃがいもをアップに撮った写真がグランプリをいただいて、意外だったんですよね。あれは構図的にも非常に面白い。いもがボンっと写ってちょっと青空があるだけなんです。その作品が評価されたってことが意外で!審査委員長の人が“これはすごい。イモが喋ってるようだ”っていうんですよ。“あぁ、そうか!”っていう」
“主役を決めて、余計なものは削りとる”。粟野さんの写真観を決める転機となった一枚の写真。第6回『とかち農業・農村フォトコンテスト』景観部門で見事グランプリ受賞の『掘りたてほやほや』はこちら!
©awanofarm
「とかちの大地の主役はじゃがいもだっていう。これが認められたっていうのが。他の写真家なんかブーブー言ってますよ。“イモに負けた”とかね(笑)“バランスが良くないんじゃないか”とか」
「この年は台風で。うちは1ヘクタール*ぐらいイモがだめになっちゃったんですよね。水の中に浸かって。その中から生き残ったイモたちだから。余計いとおしく思ったんですよね。愛情がイモに、この写真に、僕の愛情が移ったんでしょうね。写真ってそういう愛する者を撮ったりとか。愛おしいと思った瞬間になにかこうゾーンに入ってシャッターが押ささるんでしょうね」
*1ヘクタールはおよそ100m×
アグリフォトグラファー「粟野秀明の世界」
写真のテーマについては「農業に携わるすべてが好き」で。撮影の秘訣はと聞くと「あっ!ておもった瞬間に撮影するだけ。技術的なことをきかれても“シャッターを押せばいいんだ”と」とだけ話す粟野さん。その作品を3つご紹介します。
『朝虹』
©awanofarm
(粟野さんのコメント)
「虹の写真がやっぱ美しいですよね。うちの防風林が影になってんですよね。隣の小麦畑を撮影して。拡大するとちっちゃくトラクターが写ってたりね」
☆第3回「とかち農業・農村フォトコンテスト」景観部門・優秀賞受賞作品
『シマエナガ』
©awanofarm
(粟野さんのコメント)
「シマエナガはカワイイですよね。あれはもう“白い妖精”、“雪の妖精”。あれは夢中になる!ほかのものなんか撮りたくないですよもう!」
『見つめられて』
©awanofarm
(粟野さんのコメント)
「きつねに出会った写真もねぇ。かわいいのが一枚」
美しい写真を支える“技法的な秘密”は何か。粟野さん、一つだけ教えてくれました。
「僕の独自の使い方っちゅうのはフィルターを使うっていうことが多くって。“ハーフフィルター”といって。上を暗くしたり下を暗くしたり。大地を明るく見せるための技法で。それを教えてあげたら皆さん上手に撮れるのかもしれませんね」
「悪いイメージのままの農業じゃ、俺的にいやだった」
ディズニーシーより大きな農場を夫婦二人だけで営み忙しい中、アグリフォトグラファーとしての高みを目指す粟野さん。そこには、どんな思いがあるのでしょうか。
「やっぱ自分の仕事に誇りをもってるってことなんでしょうね。んー。僕らの若いときの時代は。農業なんてのは3Kっていわれて。くさい、きたない、きつい。もう悪いものの代表格みたいな感じで扱われていて。実際僕も大変なんで、そういう風におもってたんですけど。
親父に使われてる立場から自分でやるようになるじゃないですか。自主的に経営すると良さが見えてくるんですね。いやいややるんじゃなくて(笑)“あ!この瞬間はきれいだ!”とか。“この作業は楽しい”とか。“喜びがある”とか。農業が3Kだと思われている方に。農業はすばらしい。いいことばっかりじゃないですけど。すばらしいことがたくさんあるっていうことを知ってほしいんですよね
なんかこのまま悪いイメージのままの農業じゃ、俺的にいやだったんですよ。もう“農業なんて誰もがなりたい凄い職業だ”ってことをぜひ知ってもらいたくて。すべてがそれにつながってるんですよね」
(©awanofarm 粟野さんには微笑む!「番犬ヤマトくん」)
実は「57歳のアグリYouTuber」!登録者数は4000人を突破!
「アグリフォトグラファー」として活躍する粟野さん。実は「アグリYouTuber」としても知る人ぞ知る人気者です。去年から毎週動画を投稿し、登録者数は早くも4000人を突破しました。
「とかちのすばらしさが一番凝縮されたものが農業ですからね。とかちは農業だと思うんです。それでもう、ブログでも「きれいですね」って言われるし。そのうちFacebookに拡がり。いよいよ去年から本格的にYouTuber始めて。もういまや…。写真よりもYouTubeですね。完全に!もう完璧に(笑) 粟野農場のテーマにのって!ビートの収穫をご覧下さい‼️」
「57歳のアグリYouTuber粟野秀明」。ほとばしる農業愛とYouTuberとしての奮闘ぶりは、収穫期にまたくわしくお伝えします!
(SODANE編集部 松倉英男)
☆Awano Farm HP『農作物こうやって作ってます』https://awanofarm.net/
☆採れたて野菜の産直も!『JAめむろ』HP http://www.ja-memuro.or.jp/
☆格納動画:「Suger Beet Harvest【ビートの収穫中盤戦!】まだ糖分上がるかもしれないけど、掘ってしまえっ!」 https://youtu.be/a4jvYOQyVEc