「北海道に梅雨はない」「エアコンがいらない」どちらも都市伝説? えぞつゆ・リラ冷えって知ってますか?  57歳、さっぽろ単身日記

「北海道の夏はエアコンがいらない」

札幌のタワマン生活ではこれは都市伝説だと判明した(あくまで個人の感想です)。

さらにもう一つ、都市伝説が疑われる謂われがある。

「北海道に梅雨はない」

怪しい。

去年の6、7月のことを思い出してみると、それなりに雨が降っていたような気がする。

調べてみた。

気象台のホームページに月ごとの降水量が載っていた。1991~2020年の平年値で、札幌の6月の降水量は計60ミリ、7月は91ミリだ。4月が55ミリ、5月が56ミリだから少しずつ降水量が増えている。

これって、梅雨ではないか。

ちなみに東京と比べてみた。

6月が168ミリ、7月が156ミリ……

う~ん。札幌はそんなにカラカラなのか。

念のため去年の札幌の数値をみると、6月が51ミリ、7月はわずか8ミリだった。

自分の感覚がこれほどいい加減だったとは。

札幌管区気象台の予報官の説明が過去記事にあった。

それによると、梅雨の原因となる梅雨前線は、日本列島を南から北へとゆっくり移動する。ところが、北海道にかかる頃には、前線を作り出す南北の空気の温度や湿度の差が小さくなって、前線が届かなかったり、届いたとしても境目が不明瞭で活動も不活発になったりしているので、梅雨とは呼べなくなる、という。

ということで、こちらは都市伝説ではなく定説だった。

いや、ちょっと待った。「えぞつゆ」という言葉があるじゃないか。

これも同じ記事に解説があった。

夏前にオホーツク海高気圧が張り出し、北から冷たく湿った空気が北海道に流れ込んで霧雨や小雨の日が多くなることがあるという。ただ、メカニズムも時期も違うので梅雨とは言えないそうだ。

「えぞつゆ」の時期はちょうどライラックの花が咲く頃と重なる、との記載もある。

そうか、これが「リラ冷え」だ。

リラとはライラックのこと。

たしかにライラックが開花する5月から6月にかけて、天気が崩れ、風が肌寒く感じることがある。ただこの時期の札幌で感じるのは、本州の梅雨のようなじめじめした蒸し暑さとは違う、きりっと刺すような空気だ。

いまでは広辞苑にも掲載される「リラ冷え」。広く知られるきっかけになったのは、渡辺淳一の小説『リラ冷えの街』だろう。人工授精という当時の最先端医学で始まる物語に底流する冷たさが、この季節の札幌に妙にマッチしている。

タワマン④.JPG

実は札幌に赴任するまで、「リラ冷え」は『リラ冷えの街』から生まれたと思っていた。

北海道新聞で『リラ冷えの街』の連載が始まったのは昭和45(1970)年7月。

その2年前、滝川市生まれの俳人・榛谷(はんがい)美枝子さんが出版した句集に、こんな句がある。

リラ冷えや睡眠剤はまだきいて

渡辺淳一は、たまたま本の中で紹介されていたこの句を見つけて気に入った、と後のエッセイで述べている。

榛谷さんの句にはライラックに関する作品が多い。

リラ咲くと聞き札幌へ途中下車

ビール飲む約束はあとリラを見に

(いずれも句集『雪礫(ゆきつぶて)』から

すでにライラックは札幌を代表する樹木になっていたようだ。

爽やかな花の色合いや香りに加え、「リラ」という言葉の響きが、短い夏を目前にした札幌の空気感を表している。

私が初めて札幌を訪れたのは小学5年の夏休みだった。

新潟港から16時間かけてフェリーで小樽港に行き、そこからバスで札幌に入った。

フェリーの名前は「らいらっく」。

写真や絵画でしか見たことのない札幌に、美しい異国のようなイメージを抱いていた。

46年前、憧れの札幌はどんな街だったのか。

残念ながら、ひどい船酔いの記憶しかない。

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この記事を書いたのは

山崎 靖

元朝日新聞記者、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、温泉学会員、温泉ソムリエ

昭和40年生まれ
新潟県十日町市出身


コラム「新聞の片隅に」
https://www.asahi-afc.jp/features/index/shimbun

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