札幌に来て驚いたこと ここは「夢の国」なのか?違うのか? 57歳 さっぽろ単身日記

札幌の地下鉄に乗って驚いた。

だれも優先席に座らない。

ほぼ満員状態になっても、空っぽのシートを取り囲むように多くの若者が立っている(逆に優先席が座りにくい状態になっているのだが…)。

東京や大阪の地下鉄と比べても明らかに札幌の優先席の空き率は高いような気がする。

同じように感じた人が、28年前にもいたようだ。

1994年11月の朝日新聞「声」欄に、札幌の地下鉄ではどんなに混んでいても優先席は空いている、という投稿記事があった。書いたのは1年前に大阪から赴任してきたという当時29歳の会社員。車内の光景に驚き、札幌の人に聞いてみると「札幌の地下鉄は距離が短いから」という返答だったという。ただ、会社員は記事の中で「はたしてそれだけでしょうか」と疑問を投げかけている。

雪国だからじゃないだろうか。

同じ雪国出身としてそう直感した。雪国では、雪で身動きが取れなくなる厳しい冬を耐えなければならない。そんな不自由で過酷な生活が生んだ我慢強さ、忍耐力は、東京や大阪の人間は持ち得ないだろう。優先席が空いているのは、雪国での暮らしで培われたマナーなのではないか。

と、結論付けたかったが、札幌市交通局のホームページに残念な記載を見つけてしまった。「市営交通のよくある質問と回答」のコーナーで、市営地下鉄の優先席のことが書かれていた。それによると、1974年に「優先席」を試行的に設置したが、当時は若者が座席を占領することが多く、高齢者らから苦情が寄せられたため、翌75年に「専用席」に変更し、それがいまも続いているという。

そういえば地下鉄は「優先席」ではなく「専用席」と表記されている。

う~ん。そんな単純な理由ではないと思いたいが。

短距離説、雪国説、専用席説……。何が正解かはともかく、譲り合いの精神が根付いているのは札幌市民として誇らしい。

札幌に住んでいて、マナーで感心することはほかにもあった。

例えば、バス停。

藻岩山登山からの帰り、発車時間より10分ほど早くバス停に着いた。待っている人はだれもいない。看板横の乗降場所は日差しが強かったので、屋根の日陰になっているベンチ近くまで下がって立っていた。乗降場所からは数メートル離れていたので、自分の前にほかの乗客が割り込んでも仕方のない位置だったが、発車時間が近づいてもだれも来ない。ほかに乗る人はいないのかな、と振り返ると、なんと後ろに10人ほどが並んでいた。東京や大阪(特に大阪)だったらあり得ない光景だった。後ろに並んでくれた人たちに申し訳ない気持ちを抱きながら、一番最初にバスに乗り込んだ。

例えば、職場のエレベーター。

複数の企業や店舗が入居している施設なので、様々な人が利用している。そのため何人かで乗り合わせることが多い。上階から降りて1階に到着したとき、たまたま操作盤の前に立っていた人が「開く」ボタンを押し続け、ほかの人の降車を促した。ボックスの奥にいた人たちは「ありがとうございます」と軽くお礼を言いながら、開いたままの扉を出ていく。ほんの一瞬の出来事だが、それだけで無機質なエレベーターが温かい空間に変わった。

ああ、なんて素晴らしい人たちなんだろう。

ディズニーランドに一歩踏み入れた瞬間、どんな大人でも純真な子どもにかえるように、札幌という街がそうさせているのか。

札幌市民には申し訳ないが、赴任するまでマナーの良い街という印象はなかった。それだけに嬉しい発見だった。

そんな話を札幌在住の同僚としていると、「とんでもない」という反応が。

例えば、

札幌のドライバーはウィンカーを出さずに車線変更するくせに、渋滞しているときは割り込ませてくれない、とか。自転車が我が物顔で歩道を走行し、歩行者が邪魔者扱いにされる、とか。歩きタバコや除雪トラブル、マンションの住民同士であいさつしない、などなど。札幌をディズニーランドだと思っている人間の夢を打ち砕く話が次々と飛び出した。

確かに、

札幌駅前でレンタカーを借りて、創成トンネルに入るために車線変更しようとしても譲ってもらえず、結局そのまま信号のある道を走り続けたことがあった。

確かに、

歩道を歩いていると背後から自転車のベルを鳴らされ、よけたら荷台に子どもを乗せた若いお母さんで追い越しざまに「じじい、どけ」と吐き捨てられたこともあった。

ただ、そんなことは札幌だけでなく東京や大阪(特に大阪)でも経験している(若いお母さんかどうかはともかく)。要は気にするかしないかの違いでしかない。

どんなに嫌なことがあっても、大通公園に来ればシンデレラ城のようなテレビ塔が見守ってくれる。藻岩山に登ればミッキーやドナルドのようにエゾリスやクマゲラが迎えてくれる(プーさんの歓迎は遠慮したいが…)。

私にとって札幌は夢の国であることに変わりはない。

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この記事を書いたのは

山崎 靖

元朝日新聞記者、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、温泉学会員、温泉ソムリエ

昭和40年生まれ
新潟県十日町市出身


コラム「新聞の片隅に」
https://www.asahi-afc.jp/features/index/shimbun

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