秋の登山 樽前山と風不死岳 縦走で心折れそう さっぽろ単身日記
2022.11.12
#雑学心が折れる、とはこういうことか。
これでもかとばかりに襲いかかる試練を乗り越え、やっとの思いでたどり着いたと思ったら、実はゴールではなかった。その瞬間、全身の力が抜ける、そんな状態。
晩秋の樽前山と風不死岳を縦走して、危うく心が折れそうになった。
いつものように出だしは順調だった。
まずは樽前山。7合目の登山口からスタートし、階段状の斜面を登ると1時間ほどで外輪山に到着。ガスで視界はないが、硫黄のにおいが漂っている。強風に耐えながら礫地の外輪山に沿って登ると東山に到着した。
樽前山の標高は1041メートルだが、頂上の溶岩ドームはいまも火山活動が活発で立ち入り禁止なので、外輪山で最も高い東山(1022メートル)が登山での最高点になる。
到着して間もなくガスが消え、火口原に黒々とした巨大な溶岩ドームが姿を現した。
おう、これだ。
お椀をひっくり返したようにむっくりと盛り上がる姿は、特急北斗の車窓から初めて見たときからずっと気になっていた。
念願のご対面である。
噴煙を上げる荒々しい姿はまさに「鬼ケ城」だ。
さらに外輪山を時計回りに歩いて、もう一つのピーク、西山へ。右手に溶岩ドーム、左手には太平洋が見えてきた。西山の奥には支笏湖の湖面が輝いている。360度に広がる景色の中に立ち、北海道の自然を独り占めしたような気分に浸った。
登山口からここまで2時間ほど。まだ体力は十分残っている気がするが、空沼岳の失敗を踏まえて、ここでしっかりと行動食だ。近所のコンビニには残念ながらドライマンゴーがなかったので、代わりに買った「干しイモ」をつまんだ。
(詳しくはこちらの日記をご覧ください)
https://sodane.hokkaido.jp/column/202210090604002670.html
さあ、ここから風不死岳への縦走だ。
西山からのぞむ頂上付近は雲に覆われている。
同行のKさんとは、雨風が強かったらそのまま下山しようと話していたが、回復する予報だったので次の目標に向けて歩き出した。
溶岩ドームを離れると軽石と火山灰の堆積で荒涼とした登山道が突如、樹林に覆われた。いまなお火山活動中の樽前山から、4千年以上活動のない風不死岳に移ったことを意味する。このダイナミックな自然の変化も北海道の山の魅力だろう。
西山を出発してから2時間ほど。紅葉するダケカンバの林を進んで行くと、急に傾斜がきつくなった。息が切れ、汗が噴き出してくる。「干しイモ」をかじっていなかったら、またガス欠になったかも知れない。
下半身だけでは進めない急坂が続く。まさに全身でよじ登るという感じ。すると目の前に巨大な岩石が立ちはだかった。ここを登るというのか。見ると何本かロープがつり下げられている。
これって…
小学校の体育館にあった登り綱を思い出した。
とにかく苦手だった。
肥満児だった私は自分の体重を支えることができず、握った瞬間にずり落ちてしまう。
猿のようにするすると登る同級生が羨ましかった。
そんな嫌な思い出が頭をよぎったが、とにかくここを突破しないといけない。
ところどころに作られた結び目を頼りにロープを握った。
なんとか登り終えた。
と思ったら、すぐに次のロープが出てきた。
腕がぶるぶる震える。足場が定まらず靴が滑る。
焦るな、焦るな、と心の中で言い聞かせながら、ようやく岩のこぶの上に。
周囲が開け、頂上も見えてきた。
あと少しだ。
息を整え、最後の力を振り絞って急斜面を登り切ると、ピークの岩場にたどり着いた。
やった~
と思ったが、ちょっと様子がおかしい。
ん?まだ道が続いてる?
もしかして、これは頂上ではないのか。
とっさに、Kさんから聞かされていた言葉を思い出した。
「風不死岳にはニセピークがあるから、油断できないですよ」
ああ、これがニセピークなのか。
Kさんの言葉が心のすみにあったおかげで、ホンモノのピークまでの百数十メートルを登る気力をなんとかふり絞ることができた。
事前に知らされていなかったら、心が折れていたに違いない。
樽前山の登山口を出発してから4時間。
風不死岳(1102メートル)の頂上はガスで覆われていた。
前回同様、Kさんが用意してくれたガスバーナーでお湯を沸かし、カップラーメンをすする。
この瞬間がたまらない。
カップの汁を飲み干したそのとき、ガスが風に流され、足元に支笏湖のブルーが広がった。
わぁ。
頂上にいた数人の登山客からも歓声があがる。
その雄大な景色を目の前にしながらも、私の心の中には一抹の不安があった。
そして、その不安は的中してしまった。
(続く)