秋の登山 樽前山と風不死岳 縦走で心折れそう さっぽろ単身日記

心が折れる、とはこういうこと

 

これでもかとばかりに襲いかかる試練を乗り越え、やっとの思いでたどり着いたと思ったら、実はゴールではなかった瞬間全身の力が抜ける、そんな状態。

 

晩秋の樽前山と風不死岳を縦走して、危うく心が折れそうになった。

 

いつものように出だしは順調だった。

まずは樽前山。7合目の登山口からスタートし、階段状の斜面を登ると1時間ほどで外輪山に到着。ガスで視界はなが、硫黄のにおいが漂っている強風に耐えながら礫地の外輪山に沿って登ると東山に到着した。

 

樽前山の標高は1041メートルだが、頂上の溶岩ドームはいまも火山活動が活発で立ち入り禁止なので、外輪山で最も高い東山(1022メートル)が登山での最高点になる。

到着して間もなくガスが消え火口原に黒々とした巨大な溶岩ドームが姿を現した。

 

おう、これ

 

お椀をひっくり返したようにむっくりと盛り上がる姿は、特急北斗の車窓から初めて見たときからずっと気になっていた。

念願のご対面である。

噴煙を上げる荒々しい姿はまさに「鬼ケ城」

 

さらに外輪山を時計回りに歩いて、もう一つのピーク、西山へ。右手に溶岩ドーム、左手には太平洋が見えてきた。西山の奥には支笏湖の湖面が輝いている。360度に広がる景色の中に立ち、北海道の自然を独り占めしたような気分に浸った。

 

登山口からここまで2時間ほど。まだ体力は十分残っている気がするが、空沼岳の失敗を踏まえてここでしっかりと行動食。近所のコンビニには残念ながらドライマンゴーがなかったので、代わりに買った干しイモをつまんだ。

(詳しくはこちらの日記をご覧ください

https://sodane.hokkaido.jp/column/202210090604002670.html

 

さあ、ここから風不死岳への縦走だ。

西山からのぞむ頂上付近雲に覆われてい

同行のKさんとは、雨風が強かったらそのまま下山しようと話していたが、回復する予報だったので次の目標に向けて歩き出した。

 

溶岩ドームを離れると軽石と火山灰の堆積で荒涼とした登山道が突如、樹林に覆われた。いまなお火山活動中の樽前山から4千年以上活動のない風不死岳に移ったことを意味するこのダイナミックな自然の変化も北海道の山の魅力だろう

 

西山を出発してから2時間ほど。紅葉するダケカンバの林を進んで行くと、急に傾斜がきつくなった。息が切れ、汗が噴き出してくる。干しイモ」をかじっていなかったら、またガス欠になったかも知れない。

下半身だけでは進めない急坂が続く。まさに全身でよじ登るという感じ。すると目の前に巨大な岩石が立ちはだかった。ここを登るというのか。見ると何本かロープがつり下げられている。

 

これって…

 

小学校の体育館にあった登り綱を思い出した

とにかく苦手だった。

肥満児だった私は自分の体重を支えることができず、握った瞬間にずり落ちてしまう。

猿のようにするすると登る同級生が羨ましかった。

そんな嫌な思い出が頭をよぎったが、とにかくここを突破しないといけない。

ところどこに作られた結び目を頼りにロープを握った。

 

なんとか登り終えた

と思ったら、すぐに次のロープが出てきた。

腕がぶるぶる震える。足場が定まらず靴が滑る。

焦るな、焦るな、と心の中で言い聞かせながら、ようやく岩のこぶの上に。

周囲が開け、頂上も見えてきた。

あと少しだ。

息を整え、最後の力を振り絞って急斜面を登り切ると、ピークの岩場にたどり着いた。

 

やった~

と思ったが、ちょっと様子がおかしい。

 

ん?まだ道が続いてる?

もしかして、これは頂上ではないのか

 

とっさに、Kさんから聞かされていた言葉を思い出した。

風不死岳にはニセピークがあるから、油断できないですよ」

 

ああ、これがニセピークなのか。

 

Kさんの言葉が心のすみにあったおかげでホンモノのピークまでの百数十メートルを登る気力なんとかり絞ることができた

事前に知らされていなかったら、心が折れていたに違いない

 

樽前山の登山口を出発してから4時間。

風不死岳(1102メートル)の頂上はガスで覆われていた。

前回同様、Kさんが用意してくれたガスバーナーでお湯を沸かし、カップラーメンをすする。

この瞬間がたまらない。

カップの汁を飲み干したそのとき、ガスが風に流され、足元に支笏湖のブルーが広がった。

 

わぁ。

 

頂上にいた数人の登山客からも歓声があがる。

 

その雄大な景色を目の前にしながらも、私の心の中には一抹の不安があった。

そして、その不安は的中してしまった

(続く)

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この記事を書いたのは

山崎 靖

元朝日新聞記者、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、温泉学会員、温泉ソムリエ

昭和40年生まれ
新潟県十日町市出身


コラム「新聞の片隅に」
https://www.asahi-afc.jp/features/index/shimbun

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