やっぱりニセコはやばかった③ 第4リフトの先はホントにやばかった!? さっぽろ単身日記

ニセコには若い頃から毎年のように通っているスキー歴60年のベテランTさん(73歳)と生まれて初めてニセコの雪原にスキーで立った筆者。

ホテルからシャトルバスに乗り込み、「アンヌプリ」を経由して「ヒラフ」の駐車場に到着。いよいよニセコ2日目のスタートだ。

すでに混雑しているリフト券売り場で5時間券(5500円)を購入。ちなみにTさんはシニア券(4300円)だ。

「とりあえずてっぺんまででいいかい」

この人、本当にシニアなのか。

はい、ついていきます…

そのてっぺんには、いままで見たことのない世界が広がっていた。

(前回はこちら・・・やっぱりニセコはやばかった② さっぽろ単身日記 )

2023年2月19日午前9時半、曇り。

ニセコ東急グラン・ヒラフスキー場でリフト待ちしているスキーヤー、ボーダーは7割が外国人という印象だ。

「てっぺん」を目指した私たちは何本かリフトを乗り継いで最終の第4リフト乗り場にたどり着いた。

ニセコでは初めての1人用リフトだ。

前日のアンヌプリでは強風で第4リフトが運転していなかったので、これに乗ればリフトで行くことのできるニセコの最高地点になる。

「昔はここから板を担いで上ったんだよね」とTさん。

それはすごい。まるで山スキーではないか。リフトがあって良かった。

1人用だからなのか、ここでもリフト待ちの行列ができていた。


乗り場近くに進むと、立てかけられた看板を思わず2度見してしまった。

「非圧雪 上級者コース」

取り換え)ニセコ②.JPG

上級者じゃないんだけど…

昨日のアンヌプリが「慣らし運転」だと言われた意味はこれだったのか。

ただ、上の方はガスがかかっていて斜面の状態がよく分からない。

太ももに筋肉痛が残っているが、なんとか踏ん張れることを祈って1人用リフトに乗り込んだ。


到着した場所は、いままで経験したことのない世界だった。


真っ白でなにも見えない。

雲の中にすっぽり入り込んでしまった。

標高1308メートルの頂上付近にいることを改めて実感する。

そして、さらに驚きの光景が。

なんと、ここからスキー板を担いで上っていく人たちがいるではないか。

「上からだと全部のゲレンデに行けちゃうからね」

これが「全山制覇」ってやつか。

とんでもないところに来てしまった。


さあ、どうやって降りたらいいのか。


「いやあ、真っ白だねえ」


さすがのTさんにも見えないらしい。当たり前だが、なぜか安心する。


「じゃあ、ゆっくり降りようか」


ここまで来たら、ニセコ通の感覚に体を委ねるしかない。覚悟を決めて板を滑らせた。

んっ。


ちゃんと曲がれる。

昨日のアンヌプリの雪よりさらに軽い気がする。


ときどきガスの中に消えてしまうTさんの後ろ姿を必死に追いながら、なんとか雲が切れる場所まで降りることができた。

そのまま長い緩斜面を滑り、「HANAZONO(はなぞの)」と言われる別のエリアに入った。

1000メートル近い高低差を一気に滑り降りたことになるが、それほどひどい筋肉痛にはなっていない。


「案外体力あるよ」

大先輩に褒められ、ちょっと嬉しくなる。

このHANAZONOゲレンデにあるガラス張りのお洒落なレストランで休憩。店内は外国人でごった返していた。

名物は2900円のカニラーメンだとか。

Tさんは350円のコーラ、私は600円のホットチョコレート(それでも高い!)でエネルギー注入。


さあ、ここからもうひと滑り。

筋肉痛もほぼおさまり、体力も維持できそうだ。

休みながら滑って3時間余り。「全山制覇」とはいかなかったが、ヒラフのほとんどのリフトとゴンドラには乗ることができた。


「じゃあ、これで終わりにしようか」

眺めのいい中腹のレストハウスで休憩したあと、Tさんが言った。


ああ、もうこんな時間か。

帰りのバスの出発まであと1時間ほど。


名残惜しい気持ちもあったが、太ももの筋肉痛も感じ始めていた。


そうですね。

ニセコの雪の感触を足元で確かめるように緩斜面を滑り降りる。

すると見覚えのある立て看板が出てきた。


「非圧雪 上級者コース」

第4リフトの乗り場にあった看板と同じだ。

ここも上級者コースなんだ。


たしかに看板の立つ位置から急斜面に変化している。


ただ、うっすらとガスがかかっていて雪面の状態がよく分からない。


じゃあ、先に行きますね。

最後ぐらい格好いいところを見せてやろう。そんな見栄が出たのかも知れない。

そうTさんに告げたあと、急斜面を思い切り滑り降りた。


そのときだった。


一瞬、宙に浮いたような感覚があったが、あとは覚えていない。

気付いたら、頭から雪の中に突っ込んでいた。

左足のスキー板が外れ、数メートル山側に取り残されている。

「大丈夫かい?」

外れた板をTさんが近くまで持ってきてくれた。

頭を強く打ったような感覚があったが、意識はしっかりしている。体の痛みもほとんどない。

大丈夫です。

雪まみれになった体を起こしながら、そう答えた。

「コブに突っ込んじゃったね」とTさん。

コブになっているとはまったく分からなかった。

とりわけヘルメットには堅い雪がこびりついている。これがなかったら、大変なことになっていたかも知れない。

派手に転倒したこともあってか、最後のコースでは強烈な筋肉痛に襲われた。

ふもとのロッジにたどり着き、スキー板を外すと足がガクガクになっている。


そんな体の痛みも、何とも言えない達成感となって感じられる。


曇り空で羊蹄山を望むことはできなかったが、それでもニセコの大自然を、その厳しさも含めて感じることができた。


「札幌でスキーをしないなんてもったいない」と言われて20年ぶりに始めたスキー。


ああ、大声で言いたい。

ニセコでスキーをしないなんてもったいない。

(終わり)

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この記事を書いたのは

山崎 靖

元朝日新聞記者、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、温泉学会員、温泉ソムリエ

昭和40年生まれ
新潟県十日町市出身


コラム「新聞の片隅に」
https://www.asahi-afc.jp/features/index/shimbun

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