やっぱりニセコはやばかった③ 第4リフトの先はホントにやばかった!? さっぽろ単身日記
2023.03.11
ニセコには若い頃から毎年のように通っているスキー歴60年のベテランTさん(73歳)と生まれて初めてニセコの雪原にスキーで立った筆者。
ホテルからシャトルバスに乗り込み、「アンヌプリ」を経由して「ヒラフ」の駐車場に到着。いよいよニセコ2日目のスタートだ。
すでに混雑しているリフト券売り場で5時間券(5500円)を購入。ちなみにTさんはシニア券(4300円)だ。
「とりあえずてっぺんまででいいかい」
この人、本当にシニアなのか。
はい、ついていきます…
そのてっぺんには、いままで見たことのない世界が広がっていた。
(前回はこちら・・・やっぱりニセコはやばかった② さっぽろ単身日記 )
2023年2月19日午前9時半、曇り。
ニセコ東急グラン・ヒラフスキー場でリフト待ちしているスキーヤー、ボーダーは7割が外国人という印象だ。
「てっぺん」を目指した私たちは何本かリフトを乗り継いで最終の第4リフト乗り場にたどり着いた。
ニセコでは初めての1人用リフトだ。
前日のアンヌプリでは強風で第4リフトが運転していなかったので、これに乗ればリフトで行くことのできるニセコの最高地点になる。
「昔はここから板を担いで上ったんだよね」とTさん。
それはすごい。まるで山スキーではないか。リフトがあって良かった。
1人用だからなのか、ここでもリフト待ちの行列ができていた。
乗り場近くに進むと、立てかけられた看板を思わず2度見してしまった。
「非圧雪 上級者コース」
上級者じゃないんだけど…
昨日のアンヌプリが「慣らし運転」だと言われた意味はこれだったのか。
ただ、上の方はガスがかかっていて斜面の状態がよく分からない。
太ももに筋肉痛が残っているが、なんとか踏ん張れることを祈って1人用リフトに乗り込んだ。
到着した場所は、いままで経験したことのない世界だった。
真っ白でなにも見えない。
雲の中にすっぽり入り込んでしまった。
標高1308メートルの頂上付近にいることを改めて実感する。
そして、さらに驚きの光景が。
なんと、ここからスキー板を担いで上っていく人たちがいるではないか。
「上からだと全部のゲレンデに行けちゃうからね」
これが「全山制覇」ってやつか。
とんでもないところに来てしまった。
さあ、どうやって降りたらいいのか。
「いやあ、真っ白だねえ」
さすがのTさんにも見えないらしい。当たり前だが、なぜか安心する。
「じゃあ、ゆっくり降りようか」
ここまで来たら、ニセコ通の感覚に体を委ねるしかない。覚悟を決めて板を滑らせた。
んっ。
ちゃんと曲がれる。
昨日のアンヌプリの雪よりさらに軽い気がする。
ときどきガスの中に消えてしまうTさんの後ろ姿を必死に追いながら、なんとか雲が切れる場所まで降りることができた。
そのまま長い緩斜面を滑り、「HANAZONO(はなぞの)」と言われる別のエリアに入った。
1000メートル近い高低差を一気に滑り降りたことになるが、それほどひどい筋肉痛にはなっていない。
「案外体力あるよ」
大先輩に褒められ、ちょっと嬉しくなる。
このHANAZONOゲレンデにあるガラス張りのお洒落なレストランで休憩。店内は外国人でごった返していた。
名物は2900円のカニラーメンだとか。
Tさんは350円のコーラ、私は600円のホットチョコレート(それでも高い!)でエネルギー注入。
さあ、ここからもうひと滑り。
筋肉痛もほぼおさまり、体力も維持できそうだ。
休みながら滑って3時間余り。「全山制覇」とはいかなかったが、ヒラフのほとんどのリフトとゴンドラには乗ることができた。
「じゃあ、これで終わりにしようか」
眺めのいい中腹のレストハウスで休憩したあと、Tさんが言った。
ああ、もうこんな時間か。
帰りのバスの出発まであと1時間ほど。
名残惜しい気持ちもあったが、太ももの筋肉痛も感じ始めていた。
そうですね。
ニセコの雪の感触を足元で確かめるように緩斜面を滑り降りる。
すると見覚えのある立て看板が出てきた。
「非圧雪 上級者コース」
第4リフトの乗り場にあった看板と同じだ。
ここも上級者コースなんだ。
たしかに看板の立つ位置から急斜面に変化している。
ただ、うっすらとガスがかかっていて雪面の状態がよく分からない。
じゃあ、先に行きますね。
最後ぐらい格好いいところを見せてやろう。そんな見栄が出たのかも知れない。
そうTさんに告げたあと、急斜面を思い切り滑り降りた。
そのときだった。
一瞬、宙に浮いたような感覚があったが、あとは覚えていない。
気付いたら、頭から雪の中に突っ込んでいた。
左足のスキー板が外れ、数メートル山側に取り残されている。
「大丈夫かい?」
外れた板をTさんが近くまで持ってきてくれた。
頭を強く打ったような感覚があったが、意識はしっかりしている。体の痛みもほとんどない。
大丈夫です。
雪まみれになった体を起こしながら、そう答えた。
「コブに突っ込んじゃったね」とTさん。
コブになっているとはまったく分からなかった。
とりわけヘルメットには堅い雪がこびりついている。これがなかったら、大変なことになっていたかも知れない。
派手に転倒したこともあってか、最後のコースでは強烈な筋肉痛に襲われた。
ふもとのロッジにたどり着き、スキー板を外すと足がガクガクになっている。
そんな体の痛みも、何とも言えない達成感となって感じられる。
曇り空で羊蹄山を望むことはできなかったが、それでもニセコの大自然を、その厳しさも含めて感じることができた。
「札幌でスキーをしないなんてもったいない」と言われて20年ぶりに始めたスキー。
ああ、大声で言いたい。
ニセコでスキーをしないなんてもったいない。
(終わり)