ああ、憧れの薪ストーブ② 原理は掃除機? さっぽろ単身日記


たまたま訪れたログハウスの展示場で、薪ストーブの魅力に取り憑かれてしまった。

1泊2日の宿泊体験もできると聞いて、早速申し込む。


その夢のような1日がやってきた。


(前回はこちら ・・・ああ、憧れの薪ストーブ① 人はなぜ、火に癒やされるのか… さっぽろ単身日記


3月の休前日、兵庫県の自宅からパートナーのMさんを呼んで、江別市にあるB社の展示場を再訪した。


宿泊体験できるのは、こぢんまりとしたカントリー調のログハウス。

2人とも薪ストーブを扱うのはまったく初めてだったので、スタッフのTさんに一から教わることに。


玄関ドアのすぐ横にあるのは、ちょっと変わった形の薪ストーブだ。

上下に二つの扉がある2段式で、上段は火室、下段はオーブンという構造になっている。

「キッチンストーブです。ここにある鍋やフライパン、食器は自由にお使いください」とTさん。

いよいよ面白そうだ。


薪ストーブでぜひお料理を、と事前に聞いていたので、途中でスーパーに立ち寄り、鶏肉と冷蔵のピザを購入。

展示場からはミネストローネの食材をいただいた。

キャンプの経験すらない私たちが、薪ストーブだけで夕食を作れるだろうか。

その不安は的中してしまうのだが…


とりあえず、ストーブに火をつけないと。


ストーブの横には、白樺の薪が積まれている。


「白樺は樹皮に油分が多いので燃えやすいんです」

そうなんだ。

室内に広がるこの独特の香りは白樺の成分なのだろうか。


北欧では「幸運をもたらす木」とも言われる白樺だが、道内では木材に利用される針葉樹に比べて利用価値が低く、伐採された幹や枝が放置されていると聞いたことがある。


薪ストーブが広がれば、白樺の利活用も進むのではないか。

と、説明を聞きながらSDGsなことを考えてしまった。

Tさんは、火室に白樺の薪を2本ほど立てかけるようにして入れた。

そのあと、薪をさらに細かく割って棒状にした木を数本追加した。


「まずはこの焚き付け用の木を燃焼させて、薪に火をつけます」


そう言うと、カセットコンロのガスバーナーで棒状の木を燃やし始めた。


炉の中が一気に炎に包まれる。

「ちょっと開けておきますね」


扉を完全に閉めずに少し隙間を作ったTさん。


「こうすると薪が掃除機のように空気を吸いますから」

ホントだ。

扉の細い隙間から部屋中の空気が音を立てて燃える薪の中に吸い込まれている。

扉を開けたら火室の煙が室内に出てしまうんじゃないか。そう思っていたが、薪ストーブではまったく逆の現象が起きていた。

空気を吸い込むと薪の炎がみるみる大きくなる。

小学生のころ、祖母の本家の囲炉裏で、炭に竹筒で息を吹きかけて暖を取った、あの原理だ。


ある程度、薪に火が付いたら扉を閉め、ガラス窓の下にある調整弁を回して空気を取り込む。


ストーブの上にあるレバーを引き上げると、煙突への空気穴が一部遮断され、下段のオーブンに熱が移る仕組みにもなっている。


薪の火と熱をコントロールしているのは空気だったのだ。


薪に火が付き、鉄製のストーブが熱せられると、家の中がみるみる暖められていく。


木と空気のエネルギーの、なんと力強いことか。


ますます薪ストーブに惚れ直した。

薪ストーブ②.JPG

ただ一点、どうしても気になることがある。

排気の行方だ。


エアコンや床暖房、電気蓄熱機と薪ストーブの圧倒的な違いは、手間がかかること以外では、排気の有無である。

どんなに部屋が暖かくなっても環境を汚染したのでは意味がない。


赤々と燃えるストーブから出る排気は煙突を通して屋根の上から放出される。

黒々とした煙が煙突から出ているのだろうか。


確かめてみよう。

靴を履いて玄関の外に出た。

屋根から突き出た煙突からは、ゆらゆらと半透明の煙が夕暮れの空にたなびいていた。


黒くない。


Tさんによると、煙が黒いのは不完全燃焼が原因で、ちゃんと乾燥された薪であれば、水蒸気と二酸化炭素しか出ないという。

そのためにも、冬が来る前に薪をしっかりと乾燥させることが重要なのだそう。


木を伐って、割って、積んで、乾かす。

今回の体験では見えない、こうした作業があって初めて薪ストーブが本来の力を発揮するのだ。

しっかりと乾かされた白樺の薪をくべながら、薪ストーブの奥深さの一端に触れた気がした。

「では、楽しんでください」


一通りレクチャーを受け、ログハウスは2人だけになった。


さあ、いよいよ調理だ。


と言っても、何から始めたらいいのか。

数時間後、文明の利器のありがたさを思い知らされることになる。

(続く)

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この記事を書いたのは

山崎 靖

元朝日新聞記者、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、温泉学会員、温泉ソムリエ

昭和40年生まれ
新潟県十日町市出身


コラム「新聞の片隅に」
https://www.asahi-afc.jp/features/index/shimbun

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