HTB開局55周年映画「奇跡の子」監督のこぼれ話【幕間のつぶやき①】環境省から17年ぶり「推薦」までの道のりとは

北海道テレビ放送(HTB)製作のドキュメンタリー映画「奇跡の子 夢野に舞う」が環境省から映画作品としては17年ぶりに推薦を受けることになった。なぜ北海道のローカル局が作った作品に環境省が「動いた」のか。その背景について、HTBの沼田博光監督が語った―。

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細心の注意を払った7年にわたる撮影

この度、HTB製作のドキュメンタリー映画「奇跡の子 夢野に舞う」に対して、環境省が「推薦」を承認しました。映画作品に対して環境省が承認を出すのは17年ぶりだということで、大変光栄なことと思っています。

推薦を決めていただいた背景ですが、もちろん地域の人々が湿地や生態系を復活させて、タンチョウと一緒に住める環境を作り出すという活動を記録した作品ですので、内容が適しているというのが大前提だったと思います。実はその他にも推薦を検討していただく中で問われた項目が幾つかありました。

先ず私たちの撮影の方法についてです。取材を通して環境への負荷がなかったか、生物に対して脅威を与えなかったかなどを問われました。

7年間にわたって長沼町で様々な撮影を行いましたが、特にタンチョウの取材は細心の注意を払いました。私たちの取材のせいで、せっかく姿を見せたタンチョウがいなくなったなんてことになったら、もう「長沼町出入り禁止!」だけでは済みません。また周囲にはアマチュアのカメラマンたちも大勢いて、「テレビカメラがここまでやってるんだから、自分たちも近づいていいだろう」なんてことになってもいけません。

研究者の指導に基づいた撮影手法

まずは舞台となった遊水地を管理する国と地元の長沼町に長期の取材許可を得て、それぞれの指示に従いながら撮影する体制を作りました。更にタンチョウの研究者からタンチョウの生態を学び、撮影方法などについて指導を受けました。特にドローンについては撮影や興味本位で巣に近づけて、鳥が巣を放棄してしまうなどの問題が各地で起きています。抱卵やヒナを育てているような特に親鳥が警戒しているような時期などは、研究者の調査に同行し、モニターで距離などを確認してもらいながら撮影を行いました。

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車内にカメラを設置

↓ドローンなど、撮影時の裏話はこちら

SODANE「4Kカメラは重くて狭くてつらいよ」:https://sodane.hokkaido.jp/tv/202006221441000158.html

撮影チームはHTB報道部のニュースのスタッフなので、時折ローカルニュースでも紹介してきました。しかし卵を産んだときや、かわいらしいヒナがよちよち歩きしているようなシーンは、放送したとたんにギャラリーが殺到する可能性があります。ですので撮影に成功して「すぐに放送したい!」というテレビ記者の衝動が沸き起こっても、そこはぐっとおさえて、ヒナが飛べるようになるまで半年近く経ってから改めて放送してきました。そうした取材姿勢も評価していただいたのだと思います。

しかしながら長沼町でのタンチョウ出現は、テレビで放送を控えてもSNSであっという間に情報が拡散しました。換羽時期で飛べない時期などは「いつ行っても、札幌近郊でタンチョウが見られる!」として写真がアップされました。国と町が対策を協議して、今では抱卵から子育て時期にかけては遊水地への立ち入りが禁止されています。

環境省からの確認事項はほかにも…

もう一つ、「そのようなことも確認するんだ」と感じた項目は、作品の登場人物の男女比でした。意図的にどちらかに偏っていないかということの確認でしたが、本作はドキュメンタリー映画ですので、こればっかりは私どもの意思でどうにかなるものでもありません。主人公は14人の農家さんで、メンバーが全員男性ですから、もう男性だらけです。これは正直に「記録映画なので当事者が男性の場合は、そのまま男性の出演が多くなります」と報告しました。それでも映画製作の演出部分では、ナレーターは、例えば西田敏行さんのような、農家の心情を代弁できる男性をイメージして進めていましたが、最終的に上白石萌音さんに。また音楽家は中村幸代さんにお願いして、素晴らしい作品にしていただきました。

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札幌でのオリジナル音楽収録

上白石萌音さんのナレーションや中村幸代さんの音楽がどれだけ素晴らしかったかという話は、次回以降のSODANEで紹介しますね。

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上白石萌音さんのナレーション風景
 
「奇跡の子 夢野に舞う」は環境省だけでなく、文部科学省の「選定作品」(少年向き・青年向き・成人向き)にも認定されました。どの世代の方でも楽しめる作品になっていますので、どうぞ劇場でご覧いただきたいと思います。

映画「奇跡の子」沼田博光監督の撮影裏話は次回も続きます。

奇跡の子 夢野に舞う

公式ウェブサイト:https://www.htb.co.jp/kisekinoko

2024年1月20日(土)から札幌・シアターキノほか道内の映画館で上映 
*一部、シネマ太陽帯広/函館、T・ジョイ稚内で1月19日(金)に先行公開

2月23日(金・祝)から 東京・丸の内TOEIで上映

あらすじ    農家は鳥に手を焼いている。撒いた種はほじくるし、芽が出ればバリカンで刈ったように食べつくす。張ったばかりのビニールハウスにはフンをかけていく。そんな農民たちが地元に鳥を呼ぶと言い出した。それも絶滅危惧種のタンチョウだ。北海道の東部にごくわずかしか生息していない希少種が大都市・札幌の近郊にある農村に来るはずもない。それでも14人の農民が集まり、タンチョウの棲み家づくりが始まった。治水対策で人工的に作られた遊水地の中に、タンチョウが生息できる「湿地」が回復してくると、やってくるのは予期せぬ訪問者ばかり。大量の渡り鳥に獰猛な外来種、カメラを抱えた人間たち…。次々と巻き起こるトラブル。果たしてタンチョウはやってくるのか。

ナレーション 上白石萌音
監督:沼田博光 
統括プロデューサー:坂本英樹 
プロデューサー:四宮康雅 堀江克則 
撮影:小山康範 石田優行 
編集:上田佑樹 
音楽:中村幸代
音楽制作:中脇雅裕
宣伝プロデューサー:泉谷 裕 
製作・配給:北海道テレビ放送 
宣伝・配給協力:東映エージエンシー 

カラー / 5.1ch / 16:9 /1時間37分

令和5年度 文部科学省選定「少年向き」「青年向き」「成人向き」
環境省「推薦」
文化庁文化芸術振興費補助金 (映画創造活動支援事業) 
札幌市映像制作補助金 

 

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この記事を書いたのは

沼田博光

HTB 報道部デスク
環境問題や野生生物、アイヌ民族の先住権問題などをテーマにしたドキュメンタリーをてがけています。

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