HTB開局55周年映画「奇跡の子」監督のこぼれ話【幕間のつぶやき⑦】 「奇跡の子を2倍楽しむ基礎情報」

HTB北海道テレビ放送開局55周年記念として製作された、映画『奇跡の子 夢野に舞う』。この映画の監督である沼田博光が製作にあたっての裏話【幕間のつぶやき】をSodaneで綴ります。今回は北海道以外にお住いの皆さんがこの映画を観る時に役立つ「奇跡の子」の下地になる情報についてお伝えします。

長沼町ってどこにあるの?「どうおう」、「どうとう」って何?

「奇跡の子 夢野に舞う」は北海道の長沼町を舞台にした作品です。

北海道の方言や地域の呼び名、そもそもタンチョウの生息場所など、北海道外の人にはわかりづらい話も出てきますので、今回は映画を観る前に知っておきたい基礎知識を解説します。

長沼町は札幌の中心部から車で東に1時間くらいの距離にある農業の町です。

人口はおよそ1万人。“人口が密集する札幌市にほど近い道央のマチ”という位置関係です。

さて、北海道民は北海道を「道央」、「道南」、「道北」、「道東」の4つのエリアに分けて呼ぶことがあります。

作品の中でも時々出てくる言葉ですので、事前に知っておくと理解しやすいです。

画像①北海道4つのリア.png

北海道の4つのエリア

明確なラインがあるわけではなく、場合によって道央になったり道南になったりするマチもあるざっくりとした分け方ですが「大きな生活経済圏」というイメージです。

「道央」は札幌市が中心となる北海道の人口集積エリアです。
「道南」は函館市が中心となる渡島半島の部分で、本州との南の玄関口です。
「道北」は北海道第2の都市の旭川市や稚内市が中心となる北海道の中でも北のエリア。
「道東」は日高山脈や大雪の山々から東側で、帯広市、釧路市、根室市が中心となる広大なエリアです。

重要!タンチョウはどこにいるの?            

「北海道に行けばタンチョウは見られる」と思ったら大間違い。タンチョウは北海道のどこにでもあまねく生息しているわけではありません。

かつては道内各地で生息していたとみられていますが、明治政府による北海道の開拓が始まって以降激減し、一時は絶滅したとさえみられていました。

その後、大正末期に釧路湿原でわずかに生息しているのが見つかり、いまも手厚い保護が続いています。

冬は餌場が雪や氷で覆われるため、環境省が中心となって冬の間だけ給餌をしていることもあり、道東がタンチョウの主な生息地となっています。

一方、道央や道南は開拓が進んで湿地が農地や宅地にかわったことから、タンチョウは100年以上前に姿を消しました。

ですので道民には「タンチョウは道東にいる鳥。人口の多い道央にはいないし、来るはずもない」という常識がありました。

この常識を破ろうとしたのが長沼町の農家さんだったのです。

画像②給餌場に集まるタンチョウ.png

道東の給餌場に集まるタンチョウ

これも北海道弁?                

作品中、それほど難解な方言は出てこないと思っています。

ただ、道産子ネイティブの私から見ても、「これはわからないぞ」という方言が「ぼう」でした。

動詞で「追う、追い払う」の意味だそうで、主人公の加藤さんに「はい?今なんと言ったんですか?」と何度も聞き返して教えていただきました。

さらに活用形は「ぼっかける、ぼったくる」となります。

作品中「ぼったくる」が加藤さんの口から出てきますが「不当に高い値段を請求された」といっている場面ではありませんのでお気をつけて。

環境のわずかな変化を見逃すな!             

加藤さんの水田に小型カメラを沈めて水中の様子も撮影しました。

減農薬に取り組む加藤さんの水田はやがて多くの水生生物であふれ始めます。そのいくつかを紹介します。

カイエビ

以前のSODANEでも紹介しましたが、「生きた化石」とも言われ、北海道では棲息記録がなかったエビの仲間。
なんと加藤さんの水田で見つけました。

農薬に弱いと言われるカイエビが現れたいうことは、水田の環境が変わってきているということの証です。北海道第1号の大発見!

映画とは別に、夕方のニュースでも紹介するほどのビッグニュースと思ったのですが、編集マンは「本題からそれる」と、わずか1カットしか使ってくれませんでした。

「カイエビ」のスーパー表記もないので、どうか目を凝らして見つけてほしいです。

カイエビの映像はこちら:https://sodane.hokkaido.jp/tv/202006261200000185.html

画像③カイエビ捕獲の様子.jpg

加藤さんの水田でカイエビを探す監督

④カイエビ.jpg

カイエビ

カエルの大合唱

北海道の在来種はエゾアカガエルとニホンアマガエルの2種類ですが、夜の水田で大合唱しているのはニホンアマガエルです。

撮影の時は轟音のような鳴き声が一晩中続き「これで農家さんは眠れるのかな?」と思うほどでした。加藤さんの水田に、これだけのカエルが生息できる環境があるという証です。

ケラ

このシーンを見てすぐに分かった人は、生態系のかなりの上級者といえるかもしれません。

姿は出てきませんが、作品中に「ジーー」というケラの鳴き声だけが聞こえるシーンがあります。

この場面の“ケラの声がどこで聞こえているのか”がとても重要です。

取材中、農家さんから「ケラは、畔壊し(あぜこわし)といって、水田農家にとってはやっかいものなんだわ」と教えていただきました。

スコップのような手を持ち、植物の根などを食べる昆虫のケラは、地中に穴を掘り続けるため、土中の通気性や水の通りをよくします。

ケラが田んぼの畔に入り込むと畔に水がしみ込んだりして強度が弱くなり、畔が崩れる原因になったりします。それで「畔壊し」の異名があるのだということでした。

そしてケラの鳴き声が畔から聞こえると、土壌害虫用の粒剤などを散布して駆除するのだそうです。逆に田んぼからケラの鳴き声が聞こえてきたら、そこは殺虫剤を使っていないとわかるのだそうです。

画像⑤加藤あんの田んぼ38.png

加藤さんの水田・夕景

タンチョウを呼び戻す会のメンバーの皆さんと話をしていて印象に残った会話があります。

「タンチョウがどの田んぼに姿を見せるか、わかるようになってきた」と言うのです。

どんなところかと聞くと、

「タンチョウに選ばれる田んぼは、見た目の悪いところだな」

と笑って教えてくれました。畔や農道に雑草が茂っているような田畑に姿を現すというのです。

そして除草剤を使って畔にも自宅まわりも雑草がなく、“人間の眼から見てとてもきれいにしている所”には、エサになる生き物がいないとわかるのか、立ち寄らないということでした。

(監督のこぼれ話はさらに…続く?)

奇跡の子 夢野に舞う

公式ウェブサイト:https://www.htb.co.jp/kisekinoko

上映館

◆2月23日(金・祝)~ 東京・丸の内TOEI

◆2月24日(土)~ 苫小牧 シネマ・トーラス 

ースタッフーー
ナレーション:上白石萌音
監督:沼田博光 
統括プロデューサー:坂本英樹 
プロデューサー:四宮康雅 堀江克則 
撮影:小山康範 石田優行 
編集:上田佑樹 
音楽:中村幸代
音楽制作:中脇雅裕
宣伝プロデューサー:泉谷 裕 
製作・配給:北海道テレビ放送 
宣伝・配給協力:東映エージエンシー 

カラー / 5.1ch / 16:9 /1時間37分

令和5年度 文部科学省選定「少年向き」「青年向き」「成人向き」
環境省「推薦」
文化庁文化芸術振興費補助金 (映画創造活動支援事業) 
札幌市映像制作補助金 

沼田監督のこぼれ話【幕間のつぶやき】シリーズの過去記事をご覧いただけます!

https://sodane.hokkaido.jp/author/000493.html

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この記事を書いたのは

沼田博光

HTB 報道部デスク
環境問題や野生生物、アイヌ民族の先住権問題などをテーマにしたドキュメンタリーをてがけています。

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