「奇跡の子」監督 【幕間のつぶやき⑨】「舞台挨拶の重圧…(前編)」
2024.06.28
HTB北海道テレビ放送開局55周年記念として製作された映画『奇跡の子 夢野に舞う』。
この映画の監督である沼田博光が製作にあたっての裏話【幕間のつぶやき】をSodaneで綴ります。
今年1月の上映開始からじわじわと上映館が広がっている「奇跡の子」。札幌や東京、名古屋、福岡、大阪と来て、ついに7月には広島の上映も決まりました。その上映では監督が舞台に上がって挨拶することも。その時の心境やいかに…。2回に分けてお伝えします。今回は前編です。
そもそも舞台挨拶とは
1月の映画公開以来、大変恐縮ながら道内各地の劇場や東京、名古屋、大阪とお邪魔して舞台挨拶なるものをさせていただいております。
舞台挨拶とは上映初日に、出演者や製作スタッフが舞台壇上にあがり、撮影の裏話などを披露してお客さんと交流をはかるものです。
時間は20分~30分程度であっという間です。
「撮影期間、実に7年。裏話ならなんぼでもあるわい」
と軽く考えていたのですが、そもそも舞台挨拶の目的は『初日にしっかりお客さんを動員すること。話題作りをして残りの期間の集客につなげること』だというのです。
そういえば弊社の情報番組「イチオシ!!」でも、名だたる俳優さんがズラリと並んで楽しそうなトークを展開している映画情報をよく紹介しておりました。
そうなると名もない一介のサラリーマン監督ではお話になりません。
「はぁ?誰?」
という声が聞こえてきそうです。
とはいえドキュメンタリー映画ですので、出演者はみな市井の人々です。
するとまわりまわって、やっぱり出られそうなのは私しかいない。
客席を満席にし、話題作りをしてその後の集客につなげるなんて無理…
とうなだれていましたら、劇場から「人を集められるゲストを呼んでください」と言われたわけです。
挨拶デビューは予想外の展開に・・・
「奇跡の子 夢野に舞う」の公開初日は1月20日、札幌のシアターキノ。
ゲストは北海道大学名誉教授の小野有五さんにお願いしました。
地理学の視点で環境問題を研究している第一人者で、私が駆け出しのころから取材をさせていただいた自然保護活動の重鎮でもあります。講演はお手のもの。
当日は「小野先生の話が聞きたい」というお客さんもいて、お陰様で念願の満席に。
ホッと胸をなでおろしつつ始まった舞台挨拶では、小野先生が映画に出てくる千歳川放水路計画について、是非論の渦中で奔走した当事者の立場から詳しく教えてくれました。
ところが、時間はわずか20分。
私から
「先生、そろそろ映画の話を・・・」
「撮影の話ですが・・・」
と口をはさむのですが、先生の話も次々と佳境が続きます。
お客さんからは
「ここだけの話が聞けて良かった~」
「面白かった~」
と好評でしたので良かったのですが、ほとんどしゃべらなかった私としては
「こりゃ~20分のペース配分はかなり高度な技術がいるぞ」
と、若干ほろ苦いデビューになったのでした。
東京丸の内を満席にせよ!
道内各地での上映を終え、いよいよ「奇跡の子」が本州に渡ります。
2月23日から東京丸の内TOEIでの上映が決まりました。
しかし客席数を聞いて愕然。
札幌の60席余りを満席にするのに四苦八苦していたのになんと350席!
どうしてそんな大きなハコを選ぶんですか⁉と聞いてみると、それが一番小さなスクリーンだとか・・・。
さすが東京だ。
しかしどうしよう。親戚縁者集めたって100分の1にしか及ばない。
もう胃が飛び出しそうなほどの重圧の中で、頼めるのはもうあの人しかいませんでした。
フォロワー数約7万人。日本一有名で、世界を舞台に活躍する野生生物専門の獣医師、齊藤慶輔さん。
齊藤さんが映画に出てくるわけではないのですが、私はもう取材を始めて25年のお付き合いです。
その活動に感銘を受け、野生生物と人間との向き合い方、生態系の保全を考えるときの方向性や手法を見続けてきました。
今回の映画も齊藤さんから学んだ哲学が根底にあります。
齊藤さんは国営放送が長期密着し、映画のモデルになったりもしているので、普段釧路からなかなか出てこない彼が東京に出てくるとなると、それはもう大勢の人が齊藤さんを見たいと来場してくれます。
フィールドリサーチの忙しいさなか、釧路~羽田の往復便でわずかな滞在時間をつくって引き受けてくれました。
そしてもう一つ、強力な助っ人軍団が!
映画の舞台になった長沼町の関係者で作る「東京ふるさと長沼会」。
見事なネットワークと行動力で動員をかけ、初日のチケット予約は販売開始1時間で完売。
当日は劇場前には東京ふるさと長沼会の旗がなびき、100人もの会員が集結してくれました。
350席の会場が満席になるのを見たときは、生まれて初めて「感無量」という言葉を実感しました。
齊藤先生とのトークは、野生生物レスキュー最前線から、「自分たちに何ができるか」というテーマまで台本もないのにトントンと進み、会場の皆さんから大きな拍手をいただきました。
お見送りの際も多くの皆さんに声をかけていただき、本当にもう会場に足を運んでいただいた皆さんに感謝しかありません。
本当にありがとうございました。
さて関東で羽を休めた「奇跡の子」はいよいよ西日本へ。
しかしそこは私のような道産子は少々気後れするほどの色鮮やかでにぎやかなマチ。
クセがちょっと強めの人もいたりする。
「どんな作品なの?えっ、感動作? 感動よりも笑える方がええなぁ~」
果たして「奇跡の子」は関西で受け入れられるのか…? (後編へ続く)
奇跡の子 夢野に舞う
公式ウェブサイト:https://www.htb.co.jp/kisekinoko
ースタッフーー
ナレーション:上白石萌音
監督:沼田博光
統括プロデューサー:坂本英樹
プロデューサー:四宮康雅 堀江克則
撮影:小山康範 石田優行
編集:上田佑樹
音楽:中村幸代
音楽制作:中脇雅裕
宣伝プロデューサー:泉谷 裕
製作・配給:北海道テレビ放送
宣伝・配給協力:東映エージエンシー
カラー / 5.1ch / 16:9 /1時間37分
令和5年度 文部科学省選定「少年向き」「青年向き」「成人向き」
環境省「推薦」
文化庁文化芸術振興費補助金 (映画創造活動支援事業)
札幌市映像制作補助金
沼田監督のこぼれ話【幕間のつぶやき】シリーズの過去記事をご覧いただけます!
https://sodane.hokkaido.jp/author/000493.html