「奇跡の子」監督の幕間のつぶやき⑩舞台挨拶の重圧…(後編)
2024.07.12
HTB北海道テレビ放送開局55周年記念として製作された映画『奇跡の子 夢野に舞う』。
この映画の監督である沼田博光が製作にあたっての裏話【幕間のつぶやき】をSodaneで綴ります。
前回(つぶやき⑨)の話では、舞台挨拶で予想外の展開に見舞われた沼田監督。さて、後編の今回はどうなるのでしょうか。
タンチョウは西へ西へ
「奇跡の子 夢野に舞う」は東京での上映も1週間延長していただいて無事終了。
北海道、関東と南下していよいよ西日本を目指します。
広告費を大量にかけられる大きな映画ではありませんので、上映初日に舞台挨拶にお邪魔して、初日に劇場に来ていただいた皆さんになんとか口コミで広げていただく地道なPR活動を展開します(下手な挨拶で逆効果にもなる両刃の剣です)。
私のような一介のサラリーマン監督では人が呼べるはずもありませんので、やはり地元で環境保全や野生生物の保護活動をしていたり、情報発信をしている方をゲストにお招きし、共感の輪を広げていくのが一番のミッションとなります。
ガタレンジャー登場!
6月1日、名古屋での舞台挨拶には、地元の藤前干潟を守る会副理事でガタレンジャー(=干潟案内人)の梅村幸稔さんに登壇いただきました。
藤前干潟は伊勢湾に残る最後の大きな干潟で、シギ・チドリ類やカモ類などが飛来する渡りの重要な中継地です。
かつては名古屋市のごみ処理場として埋め立て計画が浮上しましたが、市民が反対活動を起こして撤回させ、貴重な自然が残りました。
梅村さんはそこでフィールド調査や環境学習の講師など、干潟の保全活動を続けています。
当日もガタレンジャーのいでたちで来ていただきました。
カニをあしらったユニークな帽子は奥様の手作り。しかも何種類もあるのだそうです。
劇場には守る会のメンバーや、梅村さんの後継者になるであろう優秀な教え子?たちも駆けつけてくれました。
「奇跡の子~」も大規模治水工事に揺れ、タンチョウを呼び戻すためにかつての湿地を回復させる物語です。
干潟を守る活動と多くの共通点がありましたが、野鳥のエサになるカニやヤドカリ、貝など百数十種類もいるという底生動物の話は私の大好きな分野なのでワクワクして聞かせていただきました。
私から、かつて越冬地だった本州には今はもうタンチョウが冬を過ごせる場所がない、長沼町が繁殖地を作ることに成功したのだから、本州のどこかのマチがタンチョウの越冬地に名乗りでないかしら?と話したところ、藤前干潟近くにタンチョウが姿を見せたことがあると教えてくれましました。
北海道で繁殖したタンチョウが雪のない本州で越冬するのは江戸時代には各地で見られた光景だったといわれています。
長沼生まれのタンチョウたちが名古屋で冬を過ごすことも夢ではないという話で大いに盛り上がりました。
おもてなしに感謝
ところで舞台挨拶は上映後に行われますので、それまでの間、劇場が用意してくれる控え室で待機します。
名古屋での上映を決めてくれたミッドランドスクエアシネマさんは、名古屋駅のすぐ前の高層ビルに入るスクリーンが14もあるシネマコンプレックスです。
札幌から気温30度の名古屋駅に到着し、駅前の超高層ビル群と人の多さ、そして劇場の立派さにすっかりびびっていた私ですが、控え室に通されてちょっとホッとしました。
壁に折り紙のツル(色も塗ってある!)やペーパーフラワーで飾り付けた歓迎ボード。
近代的な劇場ながら、手作りでこうしたおもてなしをしてくれるスタッフの皆さんのことを想像すると、作り手を大切にしてくれる劇場なんだなと嬉しく思いました。
大坂の陣
翌週は福岡の久留米と大阪の上映が重なってしまい、残念ながら福岡には行けませんでした。
6月8日に大阪にお邪魔しました。
大阪には朝日放送テレビ(ABC)という系列局がありまして、ドキュメンタリーとは何ぞやということを私に叩き込んだ先輩が何人もいらっしゃる恐れ多い場所です。
「先輩、映画作りました。大阪で舞台挨拶するので観にきてください」
「おお、わかった!それでどんな作品?」
「感動作です!」
「感動かぁ~。感動はいらんわ。笑いは?」
「ええっっっ~⁉」
…これはまずい。一応、文部科学省選定作品(昔でいうところの‘文部省推薦’)で、環境省も映画に対して17年ぶりに推薦を出した、子どもから大人まで安心して観ていただけるお墨付きの映画だ。しかし大阪では笑いの要素も求められるのか。本作が“真面目”となると上映後の舞台挨拶でドッカン、ドッカン笑いをとらなければならないのか…しかも笑いの本場で?…そりゃ~無理だ…すべって寒くて凍死するに違いない…。
またしても胃痛で青ざめている私を救ってくれたのが、ABCラジオのパーソナリティ中野涼子さんでした。
大阪での舞台挨拶は中野さんに進行をお任せして2人でトークです。
事前に送った試写版をお子さんと一緒に観たという中野さん、舞台挨拶当日に初めて劇場でお会いしました。
「こんにちは~。中野です」
「沼田です。よろしくお願いします」
「映画、すっごい良かったですよ~。それでもうタンチョウ柄のTシャツで来ちゃいました~」
「あ、ホントだ!いいですね~!」
「でもサイズきつくて、パッツンパッツンなのぉ(笑)」
あぁ、なんて自然なんだ。自分でネタを持ってきて、すぐに落とす。これが大阪か。さすがだ。きょうはもうこの人に委ねたら大丈夫だ…。
いつもはゲストさんと話をしながら頭の中で残りの尺を計算して、トークを進めていきます。
でもこの日は進行のプロが、うまいこと質問や合いの手を入れて私の話を引き出してくれます。
お客さんにも語りかけて場を盛り上げてくれます。
なにより残り尺を考えなくていい。お陰で私は気持ちよ~く話ができて、そしてなんということでしょう、私の話にクスクスと笑ってくれるお客さんもいるではありませんか。
あぁ、あったかいじゃないか、大阪のお客さんは…
蓋をあけてみれば、実になごやかで楽しい時間を皆さんと過ごすことができました。
そして後日、中野さんはご自分の番組でも映画の宣伝をしてくれて、私はそのことを知らなかったのですが、それを札幌の弊社のスタッフがラジコでリアルタイムで聞いていて、「大阪のラジオでも宣伝してもらってましたね~」と教えてくれました。
「奇跡の子」は本当にどこのマチでもあたたかく迎えていただいて、深く深く感謝です。
次は広島に行きます!
久留米でUターンした「奇跡の子」は次に広島に舞い降ります。
7月19日(金)から八丁座劇場さんで上映が始まり、20日に舞台挨拶でお邪魔します。
広島でのゲストは宇宙博士の井筒智彦さん!サイエンスライターとしてメディアで活躍する一方、東京から広島県に移住して、農作業などを通して町おこし活動を続けています。
どうしても会ってみたいと私からお声がけさせていただきました。どんなトークになるか、今から楽しみです!
井筒智彦さん
https://izutsu.space/
奇跡の子 夢野に舞う
公式ウェブサイト:https://www.htb.co.jp/kisekinoko
ースタッフーー
ナレーション:上白石萌音
監督:沼田博光
統括プロデューサー:坂本英樹
プロデューサー:四宮康雅 堀江克則
撮影:小山康範 石田優行
編集:上田佑樹
音楽:中村幸代
音楽制作:中脇雅裕
宣伝プロデューサー:泉谷 裕
製作・配給:北海道テレビ放送
宣伝・配給協力:東映エージエンシー
カラー / 5.1ch / 16:9 /1時間37分
令和5年度 文部科学省選定「少年向き」「青年向き」「成人向き」
環境省「推薦」
文化庁文化芸術振興費補助金 (映画創造活動支援事業)
札幌市映像制作補助金
沼田監督のこぼれ話【幕間のつぶやき】シリーズの過去記事をご覧いただけます!
https://sodane.hokkaido.jp/author/000493.html