「さっさと診察しろ!」と椅子を蹴り飛ばすカスハラ患者 院内で暴れ帰宅後「車を燃やす」と脅迫メッセージ 有罪判決
2025.06.19
裁判官はその被告に判決を言い渡す際、「これはカスタマーハラスメントの事案であります」と述べた。被告の男は黙ったまま、表情を変えることはなかった。
年々増え続けるカスタマーハラスメント〝カスハラ〟
大きな社会問題となっている「カスハラ」
〝お客様は神様である〟という誤った考え方で商品やサービスの提供者に対し、無理な要求や威圧的な態度、迷惑な行動を行う顧客による被害は後を絶たない。
厚生労働省「ハラスメントに関する施策及び現状」令和6年
厚生労働省の調査によると、企業側が「ハラスメントだと感じた」事案の中で、過去3年間で最も多かったのが「顧客からの著しい迷惑行為」である。実に92%が体験しているというカスタマーハラスメント。
病院や介護施設での患者からの迷惑行為も深刻な状況だ。
ジャージ姿で現れた被告「暴言は言っていない」と起訴内容を一部否認するも…
その男は札幌市内の医療機関での迷惑行為と、その後の脅迫の疑いで逮捕され、起訴された。
問われている罪は威力業務妨害と脅迫。勾留された状態で法廷に現れた。
ジャージ上下姿の被告は50代やせ型。髪の毛は少し薄くなってきていて、額には深くしわが刻まれていた。
起訴状や医療機関側の証言などによると男は…
・札幌市内の医療機関を受診 待たされたので受診せず帰宅
・2日後も同じ医療機関を訪問したが、受診待ち中に話しかけてきた看護師に激高
・「いいからさっさとしろ!」「早く診察しろ!」「どうせ何もしないんだろ!」などと言って看護師の前で椅子を蹴り飛ばす
・結局、受診せず外へ出ていこうとして、医療機関の事務の男性職員ともめたが、自動ドアを強く蹴って医療機関を出ていく
・自宅に帰宅後、北海道警察のホームページに「医療機関の院長と事務職員の車を燃やしてやる」と書き込む
「カスタマーハラスメントのいきすぎた事案。この見地からも見過ごさず厳しい態度で臨む必要がある」
筆者は今回、この事件の初公判を傍聴できず、論告求刑からの傍聴となっていた。
検察側の主張は、医療機関の男性職員側の証言の裏付けは確かで、およそ10名ほどの患者がいた待合室での被告の粗暴な行為は恐怖を感じさせるものであって、被告の行為をやめさせようとした男性職員の行動は当然で、供述も信頼できると強調。
被告の迷惑行為により、男性職員らが、待合室にいたほかの患者へのケアや警察などの対応に時間が割かれたことは威力業務妨害にあたり、「カスタマーハラスメントのいきすぎた事案」として厳しい処分を求めるとして懲役1年を求刑した。
一方、弁護側。
被告人は、医療機関のスタッフ内で、男性が2日前にも来たことについて引き継がれていなかったことや、看護師の話す態度などに怒りを感じたと主張。また「さっさとしろ!」とは言っておらず、大声もあげていなかったとして医療機関側の証言を否定。
「男性職員のほうが興奮していて、自分はそのとき冷静だった」「男性職員の供述のほうが記憶にあいまいな点があり信用性は認めるべきではない」などと主張した。
求刑が終わり、裁判官は「最後に何か言いたいことはありますか?」と被告人に問いかけた。被告は「特にありません」と小さな声で答えた。
判決の日 カスタマーハラスメントへの司法の判断は
判決は、求刑の2週間後。道内が真夏のような暑さになった日に行われた。
裁判官「主文、被告人を懲役1年に処す」
裁判所は起訴状に挙げられた罪となるべき事実を認め、医療機関側の証言は自然で信用性があり、「さっさと診察しろ!」と怒鳴っていないとする被告の証言は信用できないとした。
執行猶予は3年であり、男は勾留を解かれた。
医療機関で診察を待たされるというのは多くの人が経験していることだと思う。その多くの場合はやむを得ない状況で発生したものだろう。
医療機関に限らず、多くの店や企業に対しても、節度を持った姿勢で接することが求められている。