【日向坂46・ツアーファイナル東京2DAYSレポ!】四期生が運んだ風とプロローグの行方

 日向坂46(以下日向坂)は、11月12日(土)&13日(日)の2日間、国立代々木競技場第一体育館において『Happy Smile Tour 2022』ツアーファイナル公演を開催した。
 9月の愛知公演を皮切りに全国4ヶ所8公演を行った今回のアリーナツアーだが、実は非常に多くの情報が飛び交う中で開催されたものであった。開催直前には二期生・宮田愛萌の卒業発表に加え、一期生・潮紗理菜が肩の痛みにより休養となることを発表。ツアー初日には8thシングル『月と星が踊るMidnight』の発売決定の告知と共に楽曲の初披露が行われ、ツアー中盤には新たな仲間となる四期生の情報が徐々に露になっていった。
 そんな中で迎えた、東京でのファイナル公演2DAYS。春に行った約束の地・東京ドーム公演以降、明らかに過渡期を迎えた彼女たちは約1年ぶりとなるツアーでどのような姿を見せたのか。再び新たな物語を綴るための重要なプロローグとなった、ファイナル東京公演2日目を中心にレポートを贈る。

HST2022_HNZ_0019.png

グループの「再構築」

HST2022_HNZ_0005.png

 まずは冒頭の流れに触れたい。遂に千秋楽を迎えた『Happy Smile Tour 2022』。最新シングルでセンターを務める齊藤京子、東京初日にて遂に復帰となった潮紗理菜による影ナレが流れるとお馴染みのSEが会場を包んだ。その後ツアー序盤とは異なり、8thシングル仕様となった“Overture”が会場に流れると、いつものように会場は空色で一色に変貌。バックステージ側にもLEDビジョンが配され、いつにも増して会場が一体感に包まれる中、ステージ中央から白色のレーザー演出と共にメンバーが登場、目深にフード付きのローブを身に纏った彼女たちは、ビジョン演出と同期する形でのダンストラックと共に会場をシリアスな雰囲気へ誘った。そのまま飛び込んだのは“My fans”。ステージと客席を真っ赤に染め上げながらフロアを着火する役割を以前から担っていた同曲だが、今回は導入から少し違う感覚があった。過去のパフォーマンスとは異なり、競り上がったステージから大人びた雰囲気で観客をライヴの世界に誘うメンバーたちの姿が目立ち、センター佐々木美玲の挑発的な表情がいつにも増して印象的。ここから彼女たちは、過去に見せてきた姿とは少々異なるステージを展開していく。「美しきメロディを歌うグループ」としてステージを生み出す姿と、「全員」でステージを創り上げることによるグループの再構築の時間を目撃できた。

HST2022_HNZ_0026.png

 まず前者について触れたい。序盤“NO WAR in the future 2020”、“キツネ”とライヴナンバーを続け、MCを挟んで突入したのは、またしてもシリアスな雰囲気を纏ったダンストラック。そこから飛び込んだのは、日向坂にとってのデビューシングル『キュン』のリリース時期以来の披露となった一期生楽曲“耳に落ちる涙”だった。ここを皮切りに披露されたのは、“君のため何ができるだろう”、“僕なんか”、“飛行機雲ができる理由”、“君しか勝たん”というミドルテンポの楽曲群。このタームが彼女たちが普段あまり語られることのない「美しきメロディを持つグループ」という側面を浮き彫りにし、今回のライヴの統一感を創り出す役割を担ったと言える。

HST2022_HNZ_0028.png

 “僕なんか”、“飛行機雲ができる理由”に関してはこれまでもフューチャーされてきた楽曲だが、“耳に落ちる涙”と“君のため何ができるだろう”というリード扱いではない両楽曲もある点において共通項がある。メロディラインとサウンドスケープの美しさだ。前者はイントロの鍵盤フレーズの時点でグループ史上屈指の透明感を放ち、加藤史帆というセンターの美しい歌声が非常に映えるメロディラインが展開されている。後者は、渡邉美穂というメンバーの卒業に際して二期生がサプライズで披露したことで再脚光が当たったが、多くの音数を配しながらも美しいメロディラインとしてサビは着地しており、こちらも屈指のフックを持つ楽曲だ。

HST2022_HNZ_0004.png

 そして、“君しか勝たん”も今までにない流れの中で秘めていた要素を放つ。同楽曲は観客の声を失ったコロナ期間のライヴにおいて、クラップと共に会場の多幸感を生み出す楽曲として重要なピースとなってきた。そのため、普段は会場を盛り上げるMCや演出が組み込まれていたが、今回はその要素を排除してシンプルに楽曲を披露。その結果、キャッチ―な歌詞に注目されることが多い同楽曲が、実は切なさも内包した美しきメロディで楽曲全体が綴られていることが強調される結果となった。

HST2022_HNZ_0001.png

 この側面は今回のツアー、特にこのツアーファイナルの2DAYSにおいて大きな役割を果たす。どちらの楽曲に関しても詳しくは後述するが、最新リードトラック“月と星が踊るMidnight”、四期生楽曲“ブルーベリー&ラズベリー”という楽曲こそ、セットリストの中において今最もフォーカスすべき楽曲と言えるだろう。そして、どちらの楽曲にも共通して言えるのは、日向坂というグループの一般的なイメージである突き抜けた明るいポップネスを反映させた楽曲というよりも、切ない側面を持った美しきメロディに支えられた楽曲であるということ。前述したミドルトラックを披露するタームを創り出すことで、最も届けるべき両楽曲が自然と映えるライヴ全体の下地を生み出した結果、実は元々携えていた美しきメロディを持つグループであるという側面が強く浮き彫りになったのだ。“誰よりも高く跳べ!2020”という、彼女たちにとってけやき坂46(以下ひらがなけやき)時代から携えてきた絶対的なライヴチューンを披露しない日を作った(ツアーを通して初日のみ披露)ことも、同様の狙いのように感じる。最大の武器を使わないことで目指したライヴは、彼女たちのイメージを再構築するような時間となった。

HST2022_HNZ_0017.png

 そして、ライヴ全体を捉えた時に目立った姿がある。残念ながら卒業を発表した宮田はこの日参加することはできなかったが、「全員」でライヴを届けようとするものだ。最もわかりやすい部分は“真夜中の懺悔大会”と“恋した魚は空を飛ぶ”が披露されたタームだろう。
 前者は一期生楽曲であり、センターには潮が立つ。しかしツアー直前、残念ながら彼女は休養を発表した。遂にファイナルで彼女が復帰した同楽曲では、振り切れたようなパフォーマンスを一期生全員が披露。加藤が「立て籠もってごめんなさいーー!!」とひらがなけやき時代の代々木体育館での事件を懺悔して楽曲に突入する場面や、曲間にも潮が好きな数字である「8」をコールするなど、兎に角にもテンションが高い。潮がいない中でもツアーで本楽曲を守り続け、復帰したセンターを祝う姿に、彼女たちが全員で歩んでいきたいという想いが溢れていた。

HST2022_HNZ_0018.png

 後者の“恋した魚は空を飛ぶ”の演出にも同様の意識は顕著だった。二期生楽曲ではありながら、グループ随一のダンスパフォーマンスの激しさを持つ楽曲であるが故に、未だ万全の状態ではないと明かしている小坂菜緒は同楽曲にライヴでは不参加が続いていた。また、腰を痛めたことで丹生明里も現在パフォーマンスに制限がある状態となっている。しかし今回は、宮田の参加は叶わなかったものの、渡邉からセンターを受け継いだ金村美玖を中心としたメンバーと、小坂と丹生が立つステージを2つに分けたことによって、今できる最大限のかたちで二期生全員のパフォーマンスを実現したのだ。小坂と丹生は激しさを抑えた振付でありながらも、楽曲の世界観にしっかりと参加。あくまで演出の中に溶け込む形で、両者が楽曲に参加した姿はこれまでにないものだった。

 アンコールのラスト、キャプテンの佐々木久美が四期生も呼び込んで全員で挨拶をしたことも含めて、新たな仲間が加入するタイミングだからこそ、より強くメンバーの結びつきを得ようとしている姿は不可欠なものだったのだろう。ライヴ全体に散りばめられた美しきメロディを持つグループとしての姿に加え、日向坂という存在自体を再構築する姿が此処にあった。

四期生という新風と波及

HST2022_HNZ_0007.png

 東京でのツアーファイナルは、日向坂にとって大きなトピックが事前に発表されていた。それは、四期生という新たな仲間が初ステージを披露するということである。そして訪れた彼女たちの登場は、単純な「新しさ」だけではなく、グループにとって劇的な刺激を与えるに違いないという予感を呼び込んだ。“君しか勝たん”のラスト、加藤の「皆さんお待ちかね、この方たちの登場です!」という呼び込みから、真っ白な衣装に身を包んで登場した四期生。彼女たちの初ステージは、二期生の武道館公演時を想起するような、ダンストラックによるものだった。

HST2022_HNZ_0008.png

 そして、四期生にとって初楽曲である“ブルーベリー&ラズベリー”の披露へと流れ込む。伸びやかなストリングスが印象的な清廉さを持つトラックの中で甘酸っぱい青春を歌う同曲は、日向坂とひらがなけやきの要素がどちらも含まれている出来に。跳ね感のあるビートによってポップな仕上がりの日向坂らしい楽曲となっているが、歌詞の世界観は刹那を歌うものであり、“永遠の白線”とリンクする横一線に並んだ時の振付を含め、ひらがなけやき時代の要素も垣間見える。ーーつまり、日向坂に新加入するメンバーにとって同曲は全方位から完璧なものと言って差し支えないのだが、何よりも彼女たちのパフォーマンスレベルの高さに驚いた。ダンスのクオリティ、笑顔と郷愁を行き来する表情の豊かさ、既にカメラを意識したステージング……元々の素養はあったのだろうが、この日に至るまでの努力を感じる素晴らしいものであった。

HST2022_HNZ_0013.png

 パフォーマンスを終えると、全員がステージで横一線に並ぶ。キャプテンの久美から促された四期生は、自己紹介と共に口々におひさまに出逢えた歓びと、未来への決意を語った。 四期生へ向けたおひさまの拍手の大きさはあまりにも美しく、未来への予感が強く香り立つ瞬間となったのだが、彼女たちの加入は既に他のメンバー達にも強く影響を与えていた。特に、初めて先輩の立場となった三期生が“ゴーフルと君”を披露した時の姿は印象深い。ツアーファイナルでセットリストに追加された、“その他大勢タイプ”と“10秒天使”という最新シングル収録のユニット曲が披露されてから突入した“ゴーフルと君”ーー観客を冒頭から盛り上げる姿も、カラフルな楽曲の世界観の中で見せる表情も、上村ひなのという完全覚醒した少し先輩の同期に負けず劣らず、髙橋未来虹、森本茉莉、山口陽世の存在感が瞬く。特に髙橋の表情がライヴ全体を通して印象的で、いい意味での余裕を感じるような自然体の姿がとても頼もしく観えた。四期生の加入は新たな風を吹き込むだけではなく、既にグループの軌跡を描いてきたメンバーにも大きな刺激となることを、加入直後の段階で認識できた時間となった。

新たな物語を自ら始めるために

HST2022_HNZ_0023.png

 今まで綴ってきたように、本ライヴは日向坂というグループが持つ魅力を再構成するようなものとなっていた。そもそも、その要因を語るには避けて通れない事柄がある。今年春までの東京ドーム公演までは、彼女たちのライヴの終わりを飾るのは、いつだって“約束の卵”という楽曲だったということだ。彼女たちのライヴは、いつだって東京ドームという約束の地へ向かうための誓いをおひさまと果たすことで、未来への物語を描き続けてきた。遂に叶った東京ドーム公演以降、同楽曲はその役目を一旦終え、渡邉美穂というメンバーの卒業と共に彼女たちの新章はスタート。つまり、新たなライヴにおける着地点を見つける必要があったのだ。そして、その後夏に開催された『W-KEYAKI FES.2022』の時点で彼女たちは新たなライヴの終着点を見つけていたように感じていたのだが、やはりその予感は正しかった――おひさまと共に音を奏でたいという願いである(当時のレポートはこちら→ https://sodane.hokkaido.jp/event/202207242300002403.html)

HST2022_HNZ_0024.png

 『W-KEYAKI FES.2022』でも、本ライヴでも本編ラストを飾ったのは、“知らないうちに愛されていた”という楽曲である。同楽曲には、“約束の卵”と同じようにグループを象徴するハンドサインを頭上に掲げ、シンガロングを願うセクションが存在する。「いつか皆でまた一緒に歌える日のことを思いながら、この曲を心の中で歌って、そして一緒に踊ってください!」という久美の言葉にある通り、コロナ禍以降失ったおひさまの声といつかまた出逢うことを、今彼女たちは願っているのだ。

HST2022_HNZ_0020.png

 その願いを持つ中でリリースされた、最新のパイロットソング“月と星が踊るMidnight”。同楽曲においても、ラスサビにおいてはシンガロングを誘うメンバーの歌声が存在していて、“知らないうちに愛されていた”と手を繋ぐものとして相応しいものになっている。

HST2022_HNZ_0021.png

 加えて、歌詞の世界観にも注目して欲しい。恋愛の世界から描かれることが多かった日向坂のリード曲が「人が生きることそのもの」の世界に回帰。日々の苦悩から抜け出そうとする主人公という、ひらがなけやき時代への原点回帰とも言える世界を持った楽曲のセンターとして一期生の齊藤京子は完璧であると言えるし、シンガロングの要素も含むことで、今彼女たちが目指すライヴにおける終着地点にもリンク。

HST2022_HNZ_0022.png

 ライヴ全体として美しいメロディを持つグループであるという側面を押し出すことで、おひさまと共に音を奏でるための楽曲に臨界点を運んだライヴの是非は、本編ラストのタームにおいて、“月と星が踊るMidnight”と“知らないうちに愛されていた”が手を繋いで披露された時に生まれた会場の一体感が物語っていた。約束を交わし続けたグループが新たな未来をまたおひさまと共に創るために再出発を果たすには、原点回帰の要素と新たなライヴの着地点という両面を持った楽曲を得ることが必要だったのだ。

プロローグを終えて

HST2022_HNZ_0025.png

 彼女たちが新たなライヴの形を目指しながらも、一方で感じたことがある。それは、彼女たちがおひさまとの絆を再び近い距離間で感じようとしていることだ。願いはありながらも、様々な情勢を踏まえると、おひさまと彼女たちが共に声を揃えてメロディを奏でる未来はいつになるかはわからない。だからこそ今回のツアーでは、来るべき未来に向けておひさまとの絆をメンバーはいつにも増して能動的に深めようとしていたのではないだろうか。アンコールで披露された“JOYFUL LOVE”において、おひさまが創り上げたペンライトの虹にメンバー自身も参加したシーンはその象徴である。

 「33人になりました日向坂46ですが、本当におひさまのみなさんに支えられて、こんなに大きなグループとしてまた一歩を踏み出すことができます」というキャプテン久美の言葉の通り、グループは新たな一歩をこれから踏み出していく。偶然にもひらがなけやきというグループに一期生が加入した時と同じく12名の加入となった四期生。彼女たちが運ぶ新たな風と共に、原点回帰と本格的な再出発を果たした彼女たちが綴る新章の中で、いつかの日か大きな歌声を渡し合う光景が綴られる未来に期待したい。新章へ向かうプロローグの完結は近い、そう強く感じる夜だった。
(カメラ:上山陽介)(テキスト:黒澤圭介)

HST2022_HNZ_0009.png

セットリスト

日向坂46「Happy Smile Tour 2022」
2022年11月13日(水)
at 国立代々木競技場第一体育館

Overture
1. My fans
2. NO WAR in the future 2020
3. キツネ
4. 耳に落ちる涙
5. 君のため何ができるだろう
6. 僕なんか
7. 飛行機雲ができる理由
8. 君しか勝たん
9. ブルーベリー&ラズベリー
10. その他大勢タイプ
11. 10秒天使
12. ゴーフルと君
13. キュン
14. 真夜中の懺悔大会
15. 恋した魚は空を飛ぶ
16. アディショナルタイム
17. ってか
18. 月と星が踊るMidnight
19. 知らないうちに愛されていた

EC1. アザトカワイイ
EC2. JOYFUL LOVE
EC3. 日向坂

日向坂46 公演情報

日向坂46「ひなくり2022」

2022年12月17日(土)開場 16:00 /開演 17:30
2022年12月18日(日)開場 16:00 /開演 17:30
会場:有明アリーナ

日向坂46 リリース情報

8thシングル「月と星が踊るMidnight」
商品形態:
初回仕様限定盤TYPE-A (SRCL-12320~12321)¥1,900(税込)
初回仕様限定盤TYPE-B (SRCL-12322~12323)¥1,900(税込)
初回仕様限定盤TYPE-C (SRCL-12324~12325)¥1,900(税込)
初回仕様限定盤TYPE-D (SRCL-12326~12327)¥1,900(税込)
※初回仕様限定盤・封入特典:応募特典シリアルナンバー封入・メンバー生写真(各TYPE別32種より1枚ランダム封入)
通常版/CDのみ(SRCL-12328)¥1,100(税込)

「月と星が踊るMidnight」特設サイト: https://www.hinatazaka46.com/s/official/page/8th_single
日向坂46 公式サイト: https://www.hinatazaka46.com
日向坂46 公式Twitter: @hinatazaka46
日向坂46 公式TikTok: https://www.tiktok.com/@hinatazakanews?lang=ja-JP
日向坂46 公式YouTubeチャンネル: https://www.youtube.com/channel/UCR0V48DJyWbwEAdxLL5FjxA

1

この記事を書いたのは

黒澤圭介

音専誌『MUSICA』/MASH A&Rなどを経て、現在は札幌在住。某メディアに所属しつつ、ライターも気ままに継続中。
音楽・映画(特にSF)・小説・珈琲・特定のラジオを好みます。
情報発信はこちらより。

合わせて読みたい