2年前に突然、手足が動かなくなった10歳の女の子。絵を描いたり、料理をしたり、SNSを通じて自分の姿を発信し続けています。大きなハンデを負いながらも、伝えたい思いとは?
旭川市内に住む渡辺葉月ちゃん、10歳。首から下をほとんど動かすことができず、日常生活のすべてに介護が必要です。
(4歳の頃)葉月ちゃん「パパ大好き!」小さい頃から元気で明るい女の子。おしゃべりも大好きな葉月ちゃん。「ママが飲んでいるのが生ビール。奥にいるのが酔っぱらっているパパです。めちゃくちゃ酔っぱらっています」。
そんな葉月ちゃんの日常は、突然、奪われることに。2年前の3月3日、いつもと同じ朝のはずでした。母・千香子さん:「朝、普通に起こしにいったんですけど、葉月の声がして『立てない』って。訳が分からないというか、何が起こっているのかわからない状態だった」。葉月ちゃん:「不思議だった。ママにも怒られるし。『早く起きなさい』って。立てないんだって!」
毛様細胞性星細胞腫。子どもの脳にできることが多い腫瘍の一種で、悪性度は低いとされています。ただ、葉月ちゃんの場合、この腫瘍が首の中の脊髄にできてしまい、神経を圧迫。首から下へ脳の指令が伝わらなくなってしまいました。
旭川医科大学病院・鳥海尚久医師:「ゆっくり大きくなる腫瘍と言われていて、おそらくですが葉月ちゃんの場合も、昔からだいぶ前の段階から腫瘍自体はあって、ゆっくりゆっくり大きくなってきた。腫瘍を全部取り切りたいんだけど、全部取ってしまうと神経も全部取ってしまうことになるので」。
次の日には呼吸も出来なくなり、緊急手術に。人工呼吸器もつけざるを得ませんでした。父・政宏さん:「ICUに入ったら全く想像していた彼女じゃなくて、そのときは管だらけで、麻酔から覚めて私たちを見つけて、『パパ、ママ』って声は出ていないんです。でも口が『パパ、ママ』って」。その後も抗がん剤治療を続け、入院生活は半年に及びました。
自宅に戻った葉月ちゃんの生活は一変。小学校に通うことはできず、友達にも会えません。養護学校の先生が、週に3回、自宅で授業をしてくれますが、それも1日2時間だけです。
両親が仕事で家にいない日中は、おばあちゃんと弟の涼月君と過ごします。およそ30分おきに必要なたんの吸引は、医療行為。研修を受けた人しかできません。おばあちゃんが、葉月ちゃんの命を預かっています。祖母:「おっかない。今でもちょっと入れすぎたらゲッてなる。でも本人が頑張っているから」。
葉月ちゃんがお母さんにお願いして、一緒に始めたインスタグラムでの発信。葉月ちゃん:「頑張っている人に元気をあげられたらいいなって思って」。同じように病気になってしまった子どもたちや、闘病を支える親たちが、自分の姿を見て前向きになってほしいと、毎回工夫しています。
母:「笑えればいいんだよね」。葉月ちゃん:「笑えればいい」。(インスタグラム @chikako.watanabe.1272)
入院中に、絵を描くことも始めました。体が動かなくなっても、声を出せなくなっても、葉月ちゃんの「明るさ」はそのまま。
父・政宏さん:「ペンをくわえて手紙を書いてくれたんです。絵を描いてくれて。その時に、何も変わらないんだなと。ただ不自由なだけで、根本は何も変わっていないんだな、この子って。我々2人じゃとてもじゃないけど前を向いて歩いていくことができなかったと思うんですけど、娘がとにかくポジティブで前向きで、その姿を見て一緒に前を向けるようになったような形ですかね」。
娘の病気が分かって、美容師の仕事を辞めようと思っていた千香子さんも。「辞めなきゃいけないってなったときに、葉月が『ママは美容師さんでいてほしい』っていうのを言ってたんですよね。『美容師さんしているママが好きだからやめないで』って」。
週2回のリハビリ。理学療法士・島田勝規さん:「筋力も退院してきた時はほぼゼロだったけれど、今は2ぐらいのレベルになってきたし、左手に関しては肘を伸ばす力は3をちょっと超える強さまで回復している。徐々に」。
葉月ちゃんが元通りに回復することはありません。それでも、リハビリを頑張って、実現したいことがあります。人工呼吸器を外して声を取り戻す。どんなことにも前向きに挑戦する葉月ちゃん。「やりたいこと」が、たくさんあります。