2023年4月15日から2日間にわたり札幌で行われたG7環境大臣会合。主要な議題の一つは温室効果ガスの削減でしたが、そのカギとなる、いわゆる「脱炭素」に向けた切り札と言われる、海に立つ風車「洋上風力発電」の最前線とも言える場所が北海道にあります。
電力を再生可能エネルギーで賄う…五洋建設・新たな工場
■五洋建設室蘭製作所・金子潤一所長:
「工場は長さが190m、幅が30mあります」。
五洋建設室蘭製作所・工場内
室蘭で去年10月から稼働を始めた新たな工場。
海上土木大手の五洋建設の工場ですがある特徴があります。
■五洋建設室蘭製作所・金子潤一所長:
「ここの電力は屋根の上に太陽光パネルを全面に張っていますのでそれで賄っています」。
ソーラーパネルを屋根一面に敷き詰め工場の稼働に十分な電力を出力。
ほかにも水素発電を活用するなど敷地内すべての電力を再生可能エネルギーで賄います。
屋根全面に張られたソーラーパネル(画像提供:五洋建設)
そんな「再エネ100%」の工場で今後、主力となりそうな製品があります。
■五洋建設室蘭製作所・金子潤一所長:
「洋上風力の案件が、これからかなり増えると期待しています。
風車のパーツづくりなど洋上風力発電の関連事業で五洋建設は将来的には数百億円規模の売り上げを見込んでいるといいます。
進まぬ海上風力 日本の地形が抱える「不利」と新たなトレンド「浮体式」
「脱炭素」へ向けた切り札と言われている洋上風力発電。
道内ではまだ沖に建設されているものはなく普及が進んでいません。
その理由は日本の海底地形にあります。
これまでは基礎の部分を海底に固定する「着床式」が主流でした。
基礎を海底に固定する着床式
ところが日本周辺の海域は水深が深くコストが莫大にかかり設置に向いていません。
そこで今注目なのが「浮体式」という技術です。
基礎を鎖で海底につなぎ水中に浮かせる浮体式
基礎を鎖で海底につなぎ水中に浮かせるため深い海域でも設置しやすいのが特徴で日本企業が世界をリードすべく技術を競い合っています。
2年前にイギリス・スコットランドで開かれた環境に関する国際会議「COP26」。
日本企業が「浮体式」の技術を世界にアピールしました。
■戸田建設担当者:
「化石燃料に代わる電力は洋上風力しかない。
浮体式洋上風力は日本がリードできる唯一の技術だと思います」。
COP26にてプレゼンを行う担当者
室蘭ではいま街を挙げて洋上風力の開発拠点化を目指しています。
来年からは市と大成建設がタッグを組み「浮体式」の基礎の製造を始めます。
■室蘭市産業振興課・佐々木殉一課長:
「我々が今から先見的に目をつけて室蘭で浮体式の製造品のサプライチェーンを広げていきたい」。
■山上暢記者:
「室蘭は工場があることから古くから港がしっかり整備されてきました。
これもまた洋上風力の拠点になりうるポイントだということです」。
山上暢記者(室蘭市祝津港)
石炭・石油とエネルギー政策の変化とともに発展してきた室蘭。
石炭の積み出し船やタンカーの行き来のため港の地盤は強く、そして水深も深く整備されてきました。
開発当時の室蘭の様子
そのため洋上風力の部品の搬入や組み立てにも耐えられる頑丈な港への改良も、少額の投資で済む利点があります。
一方で、風力発電の導入を進めるには課題もあります。
巨大風車の羽根が鳥を「切断」…「バードストライク」の最前線に獣医師は
■猛禽類医学研究所・齊藤慶輔代表:
「これは道北でバードストライクに合って右の翼の手首から先を切断されている鳥です」
鳥が風車と衝突する事故、バードストライク。
バードストライクの様子(画像提供:環境省)
釧路市の猛禽類医学研究所では風車と衝突した希少種・オジロワシの手術が行われました。
翼の骨がむき出しになり壊死していてその部分を切断します。
手術受けるオジロワシ
■猛禽類医学研究所・渡辺有希子獣医師:
「この子は翼がなくなってしまうんですが、飛べないけれど生きていくためには切らないといけない状態です」
オジロワシやオオワシといった希少な海ワシはこれまでに80羽近くも風車と衝突し、そのほとんどが死んでいます。
■猛禽類医学研究所・齊藤慶輔代表:
「温室効果ガスを出さない風力発電、基本的には賛成の立場です。
野生動物に迷惑をかけたり死亡事故につながることは避けないといけない」。
「バードストライク」リスク低減の新たなる風車も…「野生の命」と「脱炭素」の両立は
環境省が主体となりバードストライクの防止策に乗り出す中、東京のベンチャー企業が実証を進めているのが「マグナス式」と呼ばれる風車です。従来の風車よりゆっくり回るため鳥が衝突するリスクが減ると期待されます。
マグナス式風車(画像提供:チャレナジー)
猛禽類医学研究所でも今後、野生に帰れないワシを飼育しているケージにこの模型を設置し、ワシがどのような行動をとるのか確かめていく計画です。
■猛禽類医学研究所・齊藤慶輔代表:
「風車はやめてほしいと思いがちの人間ですよ、それでも人間は自然エネルギーを活用すべき。野生生物に迷惑をかけない風車が将来できる可能性があると私は信じています」。
猛禽類医学研究所・齊藤慶輔代表
野生の生命も救いながら、脱炭素も目指す。
両立してこそ初めて地球環境を守ることにつながっていきます。
遠目から見るとゆっくり回っているようでも、羽根の先端の速度が時速300キロにもなることがあります。
高速で回転する風車は、陸でも海でもバードストライクのリスクは変わりません。
紹介した「マグナス式」の風車はゆっくり回るので鳥が避けることができるのではないかと期待が集まっています。
他にも漁業者など地元の理解をどう得るかなど洋上風力発電の普及には課題もありますがどんな影響があるのかしっかり調査をして丁寧に進めていきたいですね。
2023年4月14日 「イチオシ!!」で放送