<テレメンタリー2024「世界一きれいな言葉」>
手話付きドキュメンタリーに挑戦
HTBが制作したテレメンタリー2024「世界一きれいな言葉」のYouTubeでの配信が始まりました。この番組は、耳が聞こえない「ろう者」や、その人たちにとって大切な言葉である「手話」を取り上げたドキュメンタリーです。聞こえない人たちにも伝わることを目指して、字幕はもちろん、ろう者俳優による手話を付けました。HTBにとっても新たな挑戦となりました。
字幕だけでなく「手話」が必要なワケ
字幕は、リモコンの「字幕」ボタンを押さなくても全て画面に表示される「オープンキャプション」方式を採用しました。また今回は、ほぼ全編に手話を付けています。実は手話と日本語は全く異なる言語で、生まれつき耳が聞こえない人たちにとっての日本語は、外国語のようなもの。字幕をずっと見続けるのは、非常に疲れることなのです。そのため、手話通訳も同時に付けることにしました。通訳は、小樽市出身の善岡修さんにお願いしました。ドラマ「星降る夜に」の手話監修も務めた「ろう者俳優」です。
元々、番組制作を始めた時には、聞こえない人による手話通訳までは考えていませんでした。ただ、取材先の皆さんと話をする中で「ネイティブの手話の方が、より聞こえない人たちに伝わるのではないか」「ろう者の活動機会を広げるというメッセージにもなる」といったご意見をいただき、善岡さんに依頼したところ快諾してくれました。制作スタッフと善岡さんの間には、聞こえるコーディネーターとして「手話あいらんど」代表の南瑠霞さんが入ってくれました。2人とも原稿を隅々まで読み込んで、真剣に番組に向き合ってくださいました。一つ一つの手話表現を確認しながら撮影を進め、30分の番組に手話を付けるのに約5時間かかりました。
※「手話あいらんど」https://www.shuwa-island.jp/
ただの手話通訳ではない新しいカタチ
今回の番組に登場する人物の多くはろう者で、手話を使って会話をしています。当初は、それぞれの手話を尊重し、ろう者によるインタビューや会話には手話通訳を付けない予定でした。ただ、中には手話の表現が少なかったり、手元が見えづらかったりする箇所がありました。こうしたパートは日本語の字幕だけで伝えることも考えましたが、日本語が分からないろう者には伝わりにくい恐れもありました。そのため通訳チームとも議論を重ね、ろう者の手話に対しても善岡さんの手話通訳を付けることにしました。ただ、単にナレーションやインタビューの内容を、そのまま直訳しているわけではありません。今回は、善岡さん自身のリアクションも取り入れた「解説風」の手話通訳に挑戦することにしました。雪の中、半袖姿の主人公が映るシーンでは「え、なんで半袖なの?寒くないの!?」など、ろう者俳優でもある善岡さんらしい表現が散りばめられています。
手の動きだけではない「手話」。善岡さんの手話は表情が豊かで、手話が分からない人でも見て楽しめるものになっています。善岡さんにとっても新たな試みで、収録後のインタビューでは「手話通訳は言葉を届けるということですが、私は見ている映像に対しての感情や反応も込めながらやってみました。見たことがないものになると思います。楽しみです」と話してくれました。
<2月1日イチオシ!!放送 手話収録の舞台裏>
まだまだ少ない「手話放送」
この社会は聞こえる人が中心で、ろう者が生きるにはまだまだ壁が多いのが現状です。テレビも例外ではありません。ローカル局の字幕放送の割合は50%を超えましたが、手話放送に関してはキー局でも約0.2%にとどまっています。(2021年度)こうした現状を少しずつ変えていきたい。それが今回の番組の裏テーマでもあります。
番組制作は、善岡さん以外にも多くのろう者に協力いただき、意見をもらいながら進めました。聞こえない世界や手話のことは、その世界を生きる人、その言葉を使う人が一番良く知っているからです。テレビは多くの聴者が集まって作っています。ろう者の皆さんと話をしていていると、発見や驚きの連続でした。そうしてできたのが、今回の番組です。
街中でろう者と出会った時、マスクをつけたまま話す、早口で話す、大声で話す、そんなことをした経験はありませんか?「知らなかった」が故に、いつの間にか ろう者を傷つけてしまっている、ということもあるかもしれません。
まずは知ることから、触れることから始めませんか。もっとろう者のことを、手話のことを。