看護学生パワハラ自殺 「自殺への関連」完全無視の北海道
2024.05.13
#イチオシ!!2019年、北海道立江差高等看護学院で教師からのパワー・ハラスメント受けた男子学生が自殺した問題で、北海道は去年5月に遺族に謝罪しましたが、この謝罪はパワハラを対象としたもので自殺は含まないとする考えを遺族側に伝えていたことが分かりました。これまで「誠意を持って対応する」と繰り返し述べてきた鈴木知事。その言葉にも変化が見られています。これまでの経緯を詳しくまとめました。
「心よりお詫びを申しあげます。誠に申し訳ございませんでした。」
この問題は、2019年に北海道立江差高等看護学院に通う男子学生が自殺したものです。男子学生が自殺した当時、北海道は原因の具体的な調査を行いませんでした。その後、2021年に江差高等看護学院では教師による学生へのパワー・ハラスメント問題が浮上し、第三者調査委員会が11人の教師による53件のパワハラを認定しました。これを受け、自殺した男子学生の遺族は、北海道に対し男子学生についてもパワハラがなかったのかどうかを調べるよう要望し、新たに設置された第三者調査委員会は2023年3月、男子学生にも3人の教師による4件のパワハラがあったと認定し、学校の学習環境と自殺との相当因果関係を認める結論を出しました。
これを受けて、2023年5月15日に学校を所管する北海道保健福祉部の当時の地域医療推進局長と看護政策担当課長が遺族に「心よりおわびを申しあげます。誠に申し訳ございませんでした」と直接謝罪。知事も記者会見で遺族に対し謝罪の言葉を口にしました。
【2023年5月11日知事定例会見】
「複数の教員によるハラスメントが確認されるとともに、学生をふるい落とすような学院の教育方針、監督責任を有する道にも問題があるとされました。道としては、この結果を大変重く受け止めております。ご遺族に対して、深くお詫びを申し上げますとともに、お亡くなりになられた学生に対して、心より哀悼の意を表します」
急転 道〝自殺の賠償には応じない〟
男子学生の自殺から4年経っての謝罪に遺族は「亡くなった原因がパワハラにあるということが少しでも分かったので良かったかなと思っています」と述べました。
しかし、それからおよそ半年後の10月、事態は急転します。北海道はパワハラが自殺に直接結びついたとは言い切れないなどとして、自殺の賠償には応じない考えを示したのです。
※賠償問題に関する詳細はこちらの記事へhttps://youtu.be/3cyIpRWgQH0?si=8BtFuc6cBOmiL3sB
謝罪は何だったのか…「自殺」完全無視の北海道
一体、昨年5月15日の北海道から遺族への謝罪は何に対するものだったのか…
遺族側は2024年4月4日、少なくとも謝罪の対象を文書で具体的に明らかにするよう北海道側に求めました。その回答が4月末に遺族側に届きました。書かれていたのは次の内容です。
【北海道の代理人から届いた文書(2024年4月26日付)】
昨年5月15日に行った北海道の謝罪については、当日も説明がありましたとおり、第三者調査委員会「調査書」第4の1、第6の1(2)ア、同(5)ア、同(7)ア、同(8)ア及び第7の1(2)において、複数の教員によるハラスメントが確認されるとともに、本学院の学生をふるい落とすような教育方針や管理監督責任を有する北海道にも問題があるとされたところであり、本学院の設置者である北海道として調査結果を重く受け止め、ご遺族に対して、深くお詫びを申し上げたものです。
北海道が謝罪の対象として挙げている第4の1、第6の1(2)ア、同(5)ア、同(7)ア、同(8)ア及び第7の1(2)とは、調査書に書かれている青色網掛けをした部分です。前後には黄色で網掛けをした「自殺への影響」などの項目がありますが、ここについては謝罪の対象外としています。
【第三者調査委員会の調査書(一部要約抜粋)】
▼第4 ハラスメント行為の背景となる事情
1 学院の教員全体が学生を育てるよりもふるい落とすような教育方針ないし態度を取っていた。
▼第6 事実の評価と自死との関係について
1 認定した事実がハラスメントに該当するか、また自死に影響したか
(2)について
ア ハラスメント該当性
副学院長がレポートを受け取らなかったことは、教員としての優越性を背景にしたものである。わずか1分の遅れに対して、1年間の留年という経済的にも精神的にも、さらに時間的にも非常に大きなペナルティを与えることは、その結果が大きすぎる。したがって、相当性の範囲を大きく逸脱するものといえる。よって、これはパワー・ハラスメントに該当する。
イ 自死への影響
直接的に自死を誘引したとは考えにくい。しかし、自死に至る過程で大きな要因となった可能性がある。
(5)について
ア ハラスメント該当性
学生からの求めがあっても指導をしない、後回しにするなどの対応がしばしばあったことが認められ、これが学生にとっては単位を落とすなどの大きな不利益につながるものであったことが認められ、相当とは言えない。したがって、これは明らかにパワー・ハラスメントに該当する。
イ 自死への影響
自死に大きな影響を与えていたものと認められる。
(7)について
ア ハラスメント該当性
「人格を変えなければいけない」と思わせるような指導の仕方については、暴言や侮辱に該当する可能性が高く、相当性の範囲を大きく逸脱するものであったと評価できる。したがって、これはパワー・ハラスメントに該当する。
イ 自死への影響
自死に影響を与えたものと認められる。
(8)について
ア ハラスメント該当性
泣きながら実習の指導を懇願する学生に対し、どう対応すべきかを示したり、フォローしたりすることなく、連日ただ冷たく対応したことについては、相当性の範囲を逸脱するものと評価できる。したがって、これはパワー・ハラスメントに該当する。
イ 自死への影響
自死に影響を与えた可能性は大きい
4 結論
最終的な要因については確定できないが、少なくとも本学院における学習環境が要因となったものと認定でき、自死との相当因果関係は認められる。
▼第7 原因と今後の再発防止について
1 原因と責任の所在
(1)
パワハラをした教師3人には学生を精神的に追い詰めることになった原因と責任の一端があることは明らかで、これらの積み重ねにより自死に至らしめたことについて帰任性も認められる。
(2)
学院全体として学生を尊重し、育てようという意図が感じられなかった点に大きな問題がある。管理監督責任を負っていたはずの歴代の学院長、ひいては、北海道が職責を果たしてこなかったことにも、問題点が指摘できる。
北海道が謝罪の対象としたのはパワハラの認定部分のみで、その後に書かれている自殺への影響を検討した項目には言及しませんでした。さらに、調査書の結論部分に書かれた「相当因果関係」にも一切触れていません。
この回答に遺族側の代理人・植松直弁護士は「自死の部分は全て外された形での回答だった。当然、遺族側には昨年の謝罪ではそういうような情報はなかったので、完全に裏切られた。騙された。こんなことだったら謝罪は受けなかったという気持ちが強い。調査書では自死との因果関係を認めるとしていたにも関わらず、それを覆すだけの調査もしないで否定してくる。謝罪の対象からも手のひら返しのように外してくる。本当に理解ができない対応だなと思っております。」と北海道の対応に強い不信感を示しています。
変わりゆく知事の発言 「誠意」はどこへ…
第三者調査委員会が認めているのは大きく次の4つです。
①3人の教師による4件のパワー・ハラスメント
②学生を振るい落とすような教育方針
③北海道の責任
④自殺との相当因果関係
知事や北海道は一体何に対して謝罪をしたのか…改めて会見の場で知事に質問すると…
【2024年5月10日知事定例会見】
「複数の教員によるハラスメントが確認をされると共に学生をふるい落とすような教育方針、管理監督責任を有する道にも問題があるとされたところであります。道として、この調査結果を重く受け止め、謝罪をしたものであります。」
①3人の教師による4件のパワー・ハラスメント
②学生を振るい落とすような教育方針
③北海道の責任
については言及したものの、最も重要な
④自殺との相当因果関係
については言及を避けた知事。
ただ、去年11月の会見で知事は、第三者調査委員会の調査書にある「自殺との相当因果関係」も受け止めて謝罪をしたと述べています。
【2023年11月2日】
「謝罪については、道として相当因果関係を含めた第三者調査委員会の調査書の内容を受け止めまして、謝罪を行ったものです。」
同様の発言は、北海道議会でも北海道の担当者が述べていて、今回の「相当因果関係」にも触れていない北海道の謝罪対象についての回答書とは大きなずれがあります。知事や北海道の担当者が「相当因果関係も含めて」と述べていたのは何だったのか。知事に聞きました。
【2024年5月10日知事定例会見】
HTB)第三者委員会の報告書では、自殺に関して相当因果関係を認めているんですけども、これについては謝罪には含まれていないということになるでしょうか。
知事)先程申し上げた趣旨から謝罪を申し上げたものであります。また、具体的な内容についてはコメントを控えさせていただきたいと思います。
HTB)そうなるとこれまで知事会見や議会の中で北海道として相当因果関係を含めた第三者調査委員会の内容を受け止めて謝罪を行ったというような発言があったと思うんですけども、今回そういうところについてはっきりおっしゃらないというのは何かあるんでしょうか。
知事)これまでも調査報告についてはご説明を記者の皆様にも申し上げてきたところでありまして、その調査報告内容、また調査結果を受け止めた上での謝罪の考え方、これに何か変化が生じたわけではありません。
HTB)遺族も不信感を持っていらっしゃると我々は聞くんですけども、それに対して知事のもう一度認識をお願いします。
知事)いま、ご遺族に対しても、代理人を通してしっかり対応していますので、これからもしっかり対応したいと思います。
この日の会見では、相当因果関係については言及しませんでした。さらにこれまでの会見で繰り返し述べてきた「誠意をもって対応する」という言葉ですが、今回は知事の口から「誠意」という言葉は出ず、「しっかり対応する」と述べるにとどまりました。これまで述べていた「誠意」は一体どこへと消えてしまったのでしょうか。
遺族側は知事の政治判断を求める
2023年3月にパワハラの認定とその全てが自殺につながったとする第三者調査委員会の調査結果が出てから1年以上が経ちました。遺族側の代理人・植松直弁護士は「遺族側からすれば北海道側で適切に調査結果を踏まえて適切に対応してほしい。それだけなんですよね。遺族としても、ようやく去年の謝罪を受けて、調査結果の内容を踏まえた賠償なり適切な対応してくれるのであれば、そこで区切りをつけて新しい生活をしたいという風に思っています。ここは知事が知事として判断して然るべきなのかなという風には感じています」と知事の政治判断を求めています。