刑法の危険運転致死傷罪がさらに重い法定刑となって生まれた新法が2014年に施行されてもう10年。
裁判所の掲示板で「危険運転」の文字を見ることもそれほど珍しいことではなくなった。
今回聞いた裁判は、まさにその「危険運転致傷罪」に問われている男の公判。
真面目そうな被告の男 スナックで飲酒後、事故を起こし逃走
法廷に現れたのは上下黒のスーツとやや茶色が買った髪をした40代の男性被告。見た感じ真面目そうな印象を受けた。
男が問われている罪の内容は以下の通り。
・去年2月 酒を飲みアルコールで正常な運転ができないおそれがある状況で車を運転し、前を走行していたトラックに追突
・男性は軽傷も男は警察に通報することも、被害者の男性を救護することなく車を乗り捨てて逃走
検察の述べた公訴事実について「間違いありません」と罪を認めた男。
男は一度逃走したあとに現場に戻ってきたが、事故から4時間後でも呼気からアルコール0.25mg以上が検出された。即、免許取り消しとなるレベルだ。事故を起こしたときはおそらく0.46mgを超えていただろうと試算されている。
男の車は左の前半分が完全に大破していて、男にけががなかったのが不思議なほどだったという。そして被害者は首の骨で軽傷。これも奇跡的だ。
トラックで前を走っていた被害者の男性はものすごい勢いで迫ってくる車をバックミラーで見ていて、『こいつ、止まれんのか』と思ったと話したという。
酒を飲んでいたのは内縁の妻のスナック 「ケンカ」が飲酒運転の原因か
男は自分の息子と内縁の妻と3人暮らし。その内縁の妻の店で飲酒をしていた。そこでビールやワインなどを飲んだという。内縁の妻はスナックを経営しながらも酒を一切飲まない・飲めないということで、店で飲んだときは妻の運転で買えるのが日課だったのだが…被告は店で妻がほかの客とかまっているのが面白くなくて、一人で店を出てしまったという。
弁護:ふだんは飲酒運転をしないのになぜ運転したのでしょうか
被告:(内縁の妻に)腹をたてて…
弁護:そこは本来切り離して考えなければいけないですよね
被告:はい
弁護:むしゃくしゃしていたということですか
被告:自覚もないくらい酔っぱらっていたんじゃないかと思います
弁護:ぶつかる直前の記憶はない?
被告:はい
弁護:事故の現場写真を見てどういう気持ちになりましたか
被告:おそろしいことをしてしまった。相手に申し訳ないことをしたと思いました
弁護:自分が死んでいたかもしれないことはわかっていますね?
被告:はい
弁護:なぜ通報しなかったのですか
被告:お酒を飲んでいて「ヤバイ」という気持ちでいなくなってしまった
弁護:卑劣な行動だと自覚はありますか
被告:はい、しています
弁護:息子さんにはなんと説明していますか
被告:包み隠さず「お父さん悪いことしちゃって…」と説明しています
………………
検察:飲酒運転がどうしてダメなのかわかりますか
被告:正常な判断ができなくなるからだと思います
検察:そうなるとどうなりますか
被告:重大な事故を起こす可能性があります
検察:追突したのがダンプではなく人だったら
被告:死亡事故につながったと思います
検察:今後もアルコールを飲んだら運転しないと約束できますか
被告:はい
…………
被告人質問の後、検察は男に懲役1年6か月を求刑。弁護側は執行猶予付きの判決を求めた
…………
数週間後に行われた判決公判。
裁判官:主文 被告を懲役1年6か月処す 刑の執行を3年間猶予する
裁判所は男にについて、刑事責任は軽視できない内容であるが、被害者への示談が成立していることや内妻がしっかりと監督することを考慮して執行猶予つきの判決を下した。
男の免許は取り消されているが、仕事の関係上、取れるようになったらまた免許を取りたいと被告人質問で話していた。
裁判官は男にこう話して裁判を締めくくった。
裁判官:今後また運転をすることがあるかもしれませんが、このような事故を起こしたことを忘れず、安全運転に努めるようにしてください。